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No.83 インターハイ予選開幕

県の市民体育館に、県内中の高校生が集っていた。全国大会への切符をかけて戦うインターハイ予選である。選手たちのユニフォームの色により、体育館中がカラフルに彩られる。

 

 現在はその開会式の真っ最中であった。

 

『…ということ訳で、スポーツマンシップを大事に…』

 

 お偉いさんの話が進む中、朱雀高校が並んでいる列の先頭の方から気の抜けた声がした。

 

「ふぁあああ…」

 

 坊主狩りに170センチと小柄ながらもガッシリとした筋肉質の男、『石川純也』である。

 口に手のひらを当てたかと思うと、再び情けない声を出しながら欠伸をした。

 

 彼は背番号が6なので、木ノ下薫、永瀬勇希に続く3番目の所に並んでいた。

 その音を聞いた薫は振り向かずしてもその声の主が誰だかわかったのだろう。やれやれ、といった様子で一呼吸してから軽く後ろを振り向き、純也を見る。

 

「あ、わりぃわりぃ」

 

 その様子を見た純也は、やすめ、のスタンスを取り、腕を腰の後ろで組み始めた。

 

『選手宣誓、前年度優勝校白川第一高校主将、森村一樹君』

 

「はい」

 

 司会がそう言った途端、会場中に緊張が走った。そして、名前を呼ばれた森村は白川第一の並びから歩み出て、すべての列の先頭へと立つ。

 黒のユニフォームに赤のライン。その中央には『4』の文字が描かれている。ドレッドヘアを後ろで束ねているその人物の名は…。

 

『宣誓、我々はスポーツマンシップに……』

 

 容姿がすでにスポーツマンシップかどうかは微妙なところではあるが、彼が県のスター集団をまとめているキャプテン『森村一樹』である。変則的で型破りなプレーも多く、なおかつ基本が出来ていて視野が広い、という彼は、すでにプロのストリートバスケットチームや大学バスケから引っ張りだこ状態なのであった。


 森村の宣誓が終わると、会場中から一斉に拍手が沸き起こる。その様子をみて純也が笑っていた。

 

「アイツ、心にも思ってねぇことを…ククク」

 

 昔からの森村を知っている純也は、選手宣誓の言葉の1つ1つがギャグにしか聞こえていなかったのである。

 

 開会式が終わり、試合のある学校以外は会場を後にする。朱雀高校は初日の午後からなので、そのまま観客席に向かうことになった。移動するまでにすれ違う人の数から、どれだけの人が来ているかがわかる。

 移動する途中、マネージャーの春風久留美が純也に話しかける。

 

「しかし、カズ君も変わったわねぇ」

 

 その言葉に純也は笑いながら答えた。

 

「いやいや、アレは確実に心にも思ってないだろ。きっと宣誓の間、ずっと顔がひきつってたと思うぜ」

 

「フフ、確かにそうかもね」

 

 そう言って久留美も口に手を当てて笑った。

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

「いやぁ、緊張したなぁ」


 体育館からの帰りのバスの中で森村はそう周りに言った。

 

 白川高校は第一シードなので試合は二日目からなのである。

 

 その言葉を聞いた五十嵐拓磨は即座にツッコミを入れた。

 

「お前笑いそうになってただろ。声が震えてたぜ」

 

 驚いたように森村が答えた。

 

「あれ、バレてた? うまく誤魔化せてたと思ったんだけどな」

 

 一般の人からすれば普通に見えたのかもしれないが、3年間一緒にプレーしてきた人から見ればバレバレだったようだ。その様子を見た白川第一の5番御庭慶彦が言った。


「宣誓はちゃんとやらないとダメだろ。スポーツマンシップというものがあってだな…」

 

「テメーはどこの先生だ」

 

ポカッ!

 

「むう、何をする!」

 

 五十嵐はそう言って御庭の頭を叩いた。試合前日にもかかわらず、非常にリラックスした様子の選手たちであった。

 

――――――

 

――――

 

――

 

 午後からの初戦が近づき、朱雀高校の部員は別の体育館でアップを行っていた。もうここまできたら練習、というよりは最終確認である。

 そして、試合時間が近づいてきたということもあり、キャプテンの木ノ下薫は全体に集合をかけた。その言葉をきいた部員たちは薫の下へと集まる。

 

「いよいよこのときがきたな。辛い練習にもよく耐えてついてきてくれた。ありがとう」

 

 少し間をおき、再び喋り始める。

 

「今のチームはどこと比べてもひけをとらないチームだと思う。自信を持って言える。今までやってきたことを信じて最後まで全員で戦おう」

 

『オッス!』

 

「永瀬は何か言うことはないか?」

 

 薫が副キャプテンの永瀬に話をふった。少し困った様子だったが、やがて語り始める。

 

「まぁ、弱小だった朱雀も昔と比べて随分と強くなったと思う。入学当時沢山居た同期だったが、今じゃ俺と薫と小田原とマネージャーの赤川だけだ」

 

 さらに続ける。

 

「言い換えれば、それほど辛い練習をしてきたということなんじゃないかな。自信を持って戦おう」

 

『オッス!』

 

 現在朱雀高校の3年生は3名しかいない。元々進学校でバスケ部は息抜き程度として考えられていたため、耐え切れなくなった人たち沢山やめていってしまったのである。

 

「じゃあ、最後に赤川。何か一言とスタメン発表を頼む」

 

「はい」

 

 名前を呼ばれた赤川純麗はみんなの前にでる。

 

「えーと…。本当に今までおつかれさま!ここからが厳しい戦いになると思うけど、頑張ってください!毎年成長を続けてるこのチームだから、次はきっといけるはず!」

 

『オッス!』

 

「では、スタメンを発表します!」


 そう言ってメンバー表に目を移した。

 

「木ノ下薫君」

 

『はい』

 

「永瀬勇希君」

 

『はい…』

 

「石川純也君」

 

『ヒャッホー! 公式戦初デビュー!?』

 

 きっと誰もが予想していたことだが、純也がはしゃぎ始めた。公式戦に出るのは今回が初めてなので、いつもよりも喜んでいる様子だった。

 

「長谷川亮くん」

 

『はい!」

 

「大山博司君」

 

「は…ふぁい!」

 

 すべてのスターティングメンバーが読み上げられた。これは木ノ下薫が悩みに悩んだ末、考え出したものである。そして、薫本人が語り始めた。

 

「小田原のディフェンス力は誰もが認めている。大事な場面での出場も増えて来ると思うからいつでも準備しておいてくれ」

 

「わかった」

 

 小田原君が笑った。彼も辛い練習に耐えてきた1人である。それだけで薫の信頼は厚かった。

 

「よし、じゃあ行こうか!」

 

『オッス!』

 

 この様子をみた純也は不意に喋り始めた。

 

「おいおい、負けに行くんじゃねぇんだからもっと明るくいこうぜ! なんたって俺のデビュー戦なんだからな!」

 

 これに珍しく亮も続いた。

 

「そうですよ! 目指しましょう!」

 

 この先のセリフは数年前の朱雀高校の部員なら、口が裂けてもいえないセリフだっただろう。

 

『全国大会!』

 

 その言葉を、何の恥ずかしさもなく受け止めている部員たちがいた。

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

 

 県内65校が参加するこの大会。世間では短いような期間だが、選手たちにとっては長い長い、熱い戦いが始まろうとしていた。


 

 


 


 


 



 

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