表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/152

No.81 石川士郎 その3

――――――


――――


――



「行ってくるわ」

 

『気をつけて言ってらっしゃい』

 

 次の日、俺は朝練に出るためにいち早く家を出る。いつものように数個のパンを持ち歩く。朝練の時は、パンを食いながら登校するのが癖になっていた。

 

「よう」

 

『あ、おはよう。今日は遅れなかったわね』

 

家から出るとすぐに久留美が立っていた。どうやらあっちも今出てきたところらしい。

 

「ねみー」

 

『まったく…』

 

 そんな会話が続き、知らぬ間に昨日の公園へとたどり着いた。さすがにもういないよな。

 

『ワンワン!』

 

「お前、まだいやがったのか」

 

「あら、この子犬は?ずいぶんとジュンになついてるようだけど」

 

 久留美が不思議そうに犬を見つめる。

 

「こいつは、一昨日に妹が家に拾ってきた犬だ。結局飼わないことにしたんだがな。お前もさっさと誰かに拾われろよなー」

 

「ワン!」

 

「フフ、なんだかこのコ、ジュンにソックリだわね」

 

「似てねぇよ!こんなマヌケ顔」

 

 どいつもこいつも……。

 

『クゥーン』

 

 犬は俺の足元に鼻をすり寄せる。

 

「ん? 腹が減ったのか?そういやぁ、絵梨佳のやつ、まだきてないもんな」

 

 そういって俺は袋の中からパンを1つ取り出す。

 

「ほらよ。一個だけだぞ」

 

『ワンワン!』

 

 犬は、そのパンを勢い良く食べ始める。

 

「あら、意外とやさしいとこあるじゃない」

 

「死なれたら後味わりーからだよ。ほら、いくぞ。薫にガミガミいわれちまう」

 

 そして俺たちは朝練に向かった。

 

 

――――――


――――


――



「ちっ、今日も負けちまったぜ」


いつものように薫との一対一を終え、俺は自宅へと戻る。そして、例の公園にたどり着いたのだが……。 

 そこにはあの犬の姿は無かった。ダンボールの中は、今朝のパンを含め、何もなくなっていたのであった。



どことなく虚しさが感じられる。よかったなマヌケ顔。

いいやつに飼われればいいな。


 そう思い、自宅へと歩を進めようとしたときだった。


『ワンワンワン!』


『ガルルルル』


『キャン!』


公園の木の陰から複数の犬の鳴き声が聞こえてきた。


俺は何かと思い、陰に目をやる。そこには2匹の犬に囲まれ、威嚇されているマヌケ顔の犬の姿があった。 

他2匹はそれなりにデカイ。マヌケ顔が不利なのは目に見えていた。


突然、1匹の犬がマヌケ顔に襲いかかる。


『キャン!』


強烈なフックにより、マヌケ顔の体が吹っ飛んだ。


しかし、ヨロヨロと立ち上がり、2匹に向かって突進していく。


『ドン!』


鈍い音をたてて、相手が横に倒れた。それをみたもう1匹の犬が、マヌケ顔に再びフックした。


マヌケが倒れる。しかし、また立ち上がり相手を睨みつけ、吠える。その目はまだ死んでいない。


『ワン!』


かなり瀕死状態だった。2匹の犬がトドメをさしに襲いかかる。



「くぉらぁぁぁっ!」


『!?』


突然現れた俺を見て、2匹の犬は威嚇を開始する。 

『ワンワンワン!』


「ほう、俺とやるってのか?」


そう言って俺は近くの木を力一杯殴った。


『ドォン!』



 木が激しく音をたて、揺れたあと、木の葉がパラパラと落ちてきた。



「人間なめんじゃねぇぞ!このワンコロが!」


『キャン!』


 情けない音をたてて、2匹の犬は逃げ去った。


 俺は、マヌケ顔の近くに歩み寄る。かなりフラフラしているようだった。


「俺はお前のようなヤツは好きだ」



 そして俺は、犬を抱きかかえ、自宅へと戻ったのであった。

 

 

―――――

 

――――

 

――

 



「ただいま」


『あ……』


玄関に入ると同時に、絵梨佳とバッタリあってしまった。俺が抱きかかえる、ボロボロの犬を見て、血相を変えた様子で叫んだ。


「ひどい!お兄ちゃん、そんなことする人だとは思わなかったのに!最低!ママ!」


 そう叫ぶと、母さんを呼びにリビングへ行こうとする。


「まてまて、俺じゃねぇよ!」


「じゃあ、なんだっていうの?」


「野良犬に襲われてたのを助けてきたんだよ。その……」


 ゴホン、と咳をいれる。 

「俺んちで飼ってやろうかと思ってな」



しばらくの沈黙がながれる。


「え?狩って?」


「ちげぇよ!飼う、だ、飼う。なんで俺んちでトドメをささなきゃいけないんだよ」


 その言葉を聞いた妹が嬉しそうに駆け寄ってくる。

「お兄ちゃんありがとう!」


「そのかわり、家の中で飼うなよ。あと、名前を考えたんだが」


不思議そうな様子で妹がが俺を見る。


「士郎……なんてのはどうかな?」


「え〜、もっと可愛い名前がいいよ!お兄ちゃんの事だから、白いからって言う単純な理由なんでしょ?」


興奮する妹を押さえ、俺は続きを言った。


「実はそれもあるんだが、違うんだ。家に帰る途中に、名前を考えてブツブツ喋ってたんだよ。そしたら『士郎』って言葉に妙に反応したんだ」


妹は嘘つきを見るような目で俺を見た後、犬に話しかける。


「チャム!」


『…………』


「ポチ!」


『…………』


「クラウディア!」


『…………』



――クラウディア!?



「………士郎」


『ワンワンワン!』



「ほらみろ!」


「むー、もっと可愛いのがいい!」


騒がしく感じたのか、今度は母さんがやってくる。 

「いったいどうしたっていうの?」


 そして、俺が抱きかかえる犬を見る。


「ボロボロじゃない!どうしたのよ!?」


「いや、家で飼ってやろうかと思って」


またしばらくの沈黙がながれた。



「え?狩って?」



――お前らいっぺん死ぬか?




************ 



石川家に突然やって来た白い犬。 

 妹がたくさん名前を考えるも、失敗に終わり、結局名前は『士郎』に落ち着いたようです。




 今では家族の中で一番、純也が可愛がっているとか、いないとか……――――。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ