No.79 石川士郎 その1
「ただいま〜」
部活が終わった俺は、すぐさま家に帰り、玄関のドアを開ける。
『ワン!』
「…………」
何か嫌な予感がする。俺の家に『ワン!』と叫ぶ生き物なんていただろうか?
そして、俺の予感は的中した。
『あ、まてぇ〜!』
突然、妹の声がしたかと思ったら、今度は、とある生き物が姿を現した。
『ワン!ワン!ワン!』
猛スピードでその生き物が向かってくる。そして、俺の顔面めがけて跳び跳ねた。
モフッ
「…………」
『ハァハァハァ』
俺の視界は、白くてフワフワしたもので覆われたのであった。
――――――
――――
――
「で、急な展開にまったくついていけないんだが、説明してもらおうか?」
俺は顔を洗った後、リビングにて、妹の絵梨佳に質問した。
「説明って言ったって……。犬よ」
「ヒント少ないな」
絵梨佳に抱かれ、ハァハァハァしてるのが犬なのは誰でもわかる。俺はなぜ、ここにいるのかと聞きたいんだが。
さすがに伝わってないだろうと感じた母さんが、キッチンで皿を洗いながら言った。
「絵梨佳ったら、捨て犬を拾ってきちゃったのよ」
俺は改めてその犬をみる。体全体が真っ白い短めの毛て覆われていて、みるからに雑種という感じだ。オマケに絵に書いたようなマヌケ顔をしてやがる。先程の玄関での出来事から、オスだということは確認できた。
「それで、飼うことにしたのか?」
俺は母さんに質問した。
「ママは別に構わないわよ。」
「へぇ、じゃあ父さんは?」
新聞を見ながら、父さんは俺の質問に答えた。
「パパも構わないぞ。絵梨佳の言うことなら、なんでも聞いてやる!」
「わぁ〜い!ありがとうパパ〜!大好き!」
そう言って絵梨佳が父さんに抱きつく。なぜ、石川家はこうも絵梨佳に甘いのだろうか。違う!違うぞ日本人!
「お兄ちゃんは飼っても大丈夫なの?」
「ああ。別にいんじゃね?」
俺はアッサリ答える。別に妹が世話をするなら関係ない。
「じゃあ、俺は部屋に行くわ」
「お風呂早めに入りなさいよ〜」
「わかってるよ」
母さんの言葉に軽く返事をして、俺は二階へと上がった。
『やっぱり、何度みてもお兄ちゃんに似てる〜!かわい〜』
『本当だわねぇ。飼い主に似るって本当なのかしら?』
階段を上がる途中、そんな会話が聞こえてきた。俺をそんなマヌケ顔と一緒にするな!あと、飼い主は俺じゃねぇよ!
気にしていてもしょうがないので、俺は部屋に行くことにした。
――――――
――――
――
「ん……」
目をさますなり時計を確認した。一時間ほど経過したようだ。
どうやら部屋に入ってベッドに横になった途端、寝ていたようだ。
『ガリガリ』
なんだ?この音は?
俺は、奇妙な音のしたほうに振り向いた。そこにはいつのまにやら先程の犬がいたのだが……。
「勝手に部屋に入ってんじゃねぇ!ってか」
――放し飼いかよ!
「なぁにぃ〜?夜中に大声出してどうしたの〜?」
声を聞き付けてか、妹の絵梨佳が駆け付けた。
「外で飼えよ。俺のポテチ食べられたじゃねぇか」
「ごめんねお兄ちゃん……。この子寒そうだと思って」
「どうでもいいが絵梨佳。」
俺は、落ち着いた様子で次のセリフを言い放った。
「その話しかけてる相手は俺じゃなく犬だぞ」
「あ、間違えちゃった」
――もしかしてギャグでやってるのか?
「まぁ、しっかり繋いでおけ。俺は、メシ食って風呂入って寝るから」
「あ、お兄ちゃん待っ……」
妹が言い終わる前に、俺は、キッチンへと向かった。そしてキッチンへたどり着いて一言。
「絵梨佳……。俺のメシは?」
テーブルの上はとてもスッキリしていて、先程に用意されていた料理などは、見る影もなかった。
「この子が食べちゃった!」
『ハァハァハァ』
「あのなぁ……」
呑気にハァハァしている犬を見てると、怒るのすら馬鹿馬鹿しくなってくる。
「しょうがねぇ、風呂入ってねるわ」
「あ、お兄ちゃん待っ……」
妹が言い終わる前に、俺は、風呂へと向かった。そして風呂へたどり着いてまた一言。
「絵梨佳……。湯船のお湯はどうした?」
「お兄ちゃんもう入らないと思ってこの子の体洗うためにお湯使っちゃった!」
……………。
……………。
「だぁぁ!このクソ犬がぁっ!」
「キャ〜!お兄ちゃんやめてぇ!」
――――――
――――
――
「反対だ!俺は絶対に反対だからな!」
深夜にも関わらず、石川家では、家族会議が行われていた。
「ふわぁ〜、どうしたのよ急に」
母さんが眠そうな様子で言った。
「犬を飼うなんて反対だ!俺の生活までが狂い始める!」
「さっきまでは飼ってもいいって言ってたじゃないの」
「気が変わったんだよ!ダメなものはダメ!」
「あら、困ったわねぇ」
困った様子の母さんに、絵梨佳が心配した様子で話しかける。
「ママ……どうするの?」
母さんはしばらく悩んだ後に、絵梨佳に向かって静かに言った。
「純也が言い出したら聞かない子なのは知ってるし……」
――そうなのか!?
「それに、いい?絵梨佳。生き物を飼うと言うことは、その命を預かるのと一緒なの。家族の一員になることなのよ。半端な気持じゃいけないの。家族の中に一人でも嫌だっていう人がいるなら、飼われる犬がかわいそうだと母さんは思うわ…」
「う〜……」
妹は何も言えなくなってしまった。
「純也には後から言っておくから、今日は寝ましょう。ね?」
――何を言うんだ!?
「お兄ちゃん……どうしてもダメなの?」
妹が目に涙を浮かべながら、上目使いで訴えかけてくる。
「ああ、だめだ。カンベンしてくれ」
俺は、キッパリと言い放った。
『ハァハァハァ』
犬の息の音だけが、リビンクの一室に消えていく。
「だいたいさぁ、俺に迷惑かけといてハァハァして知らないフリだぜ?」
「お兄ちゃんだって夜に変な本見てハァハァしてるじゃない!」
――本当にそれが中学生の使うギャグか!?
「ち、ちょっとまて絵梨――」
「お兄ちゃんなんて知らない!死んじゃえ!」
そう言って二階へ続く階段を勢いよく登り、部屋にこもってしまった。
「大丈夫。一晩すればきっとなおるわ。今日のうちに元の場所に返しに行きましょう」
「ああ、すまない」
そして、俺と父さん母さんの三人は、絵梨佳が拾ってきたという公園へと、返しに行ったのだった。