No.78 輝き
ここはバスケットの名門校、白川第一高校体育館。 平日の昼を過ぎたあたりにもかかわらず、体育館には部員たちの声が、なり響いていた。
私立と言うこともあり、スポーツ科に属する選手は、午後になるとすぐに部活動に没頭するのだ。
そんな中、沢山ある部室の一つからにぎやかな会話が聞こえていた。
「そこは左によけろよ、ヘタクソ!」
白川第一のエース、五十嵐は最新のゲーム機の画面を見つめつつ、身長2メートルの大型選手、御庭にツッコミを入れていた。
御庭の手にも五十嵐と同様、ゲーム機が握られている。
どうやら、一緒にゲームをしているらしい。
「いや、今は右が空いていた」
「じゃあ、なんでさっきから何回も死んでんだよ!」
ボカッ!
「むう、何をする!」
そんなほのぼのとした雰囲気が部室に流れていた。
ここの部室は三年生用の部室である。各学年に2つずつ、計6つの部室が存在するのだ。
現在部室にいるのは五十嵐、御庭、森村の3人である。
部室におかれている、小型のバスケットリングにシュートを放ちながらカズが言った。ボールがリングに綺麗に吸い込まれる。
「そろそろ時間じゃないのか?」
『おっと』
五十嵐と御庭は、ほぼ同時に時計を見た。そして五十嵐は御庭を叩きながら言った。
「やべ、オメェのせいで今日も全然進まなかったじゃねえか!」
「いや、アレは俺のせいじゃない。」
「だまれウドの大木め!」
ポカッ!
朱雀高校でも普段から聞こえてくるような会話だった。
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「おねがいしやーっす」
『おねがいしゃっす!』
森村、五十嵐、御庭の3人が挨拶をしながら体育館へと入る。その挨拶に、体育館にいた部員たちが返した。すぐに森村が部員に集合をかける。
「集合!」
『オッス!!』
森村の周りに部員たちが次々と集まり始める。しかし、白川の部員の数にしては明らかに少なかった。
「よし、3年はみんないるみたいだな。じゃあいつもの通り、監督が来るまで一通りやろう」
『オッス!』
そう、見ての通りこの白川第一高校は、スポーツに力を注いでいる学校だ。その中でも男子バスケットボール部はかなりの実績を残しており、学校にもかなり期待されている部活なのである。
それゆえ、フルコートが2面あるバスケコートと、さらには別の建物に、フルコート1つ分の設備も用意されてるのであった。
部員が少なく感じられたのは、最初の練習は各学年だけで、それぞれ用意されているコートで行うスタイルをとっているからであった。したがってここにいるのは全員3年生なのである。
練習内容が次々に消化されていく中、とある人物が3年生が練習している体育館に訪れる。
「今日もしっかりやっているな。五十嵐のヤツ、また一段と動きが速くなっとる」
体育館の入り口で眩しい笑顔をふりまき、選手達には聞こえないような声で、そう呟いていた。
初老も向かえ、白髪も少し目立ち始めたその人物は、この白川第一高校を12年連続インターハイ出場、過去3回全国優勝に導いた名将、大平三朗である。普段は笑顔が印象的な人物だ。
彼が現れても、特別に集合はかけられないまま、選手たちは黙々と練習をこなしている。
「よーし、それでいい。では、次に向かうかな」
そうつぶやいた後、大平監督は2年生のコートに向かう。その先でも特に集合はかからず、2年生もひたすら練習にうちこんでいた。
1人1人の選手を確認し終え、別の建物にある1年生コートへと向かう。
1年生のコートは2、3年のコートに隣接しており、すぐに行くことができるのであった。
1年生のコートについた矢先、大平監督はある人物2人に話しかけられる。その人物たちはものすごく興奮した様子で、勢い良く話しかけてくる。
「監督!」
「監督!」
話しかけてきたのは、1年生キャプテンの佐々木健之助とその弟の佐々木真之介であった。血相を変えて話しかけてきた彼らに、後ずさりしつつも返事を返した。
「ど…どうした?」
健之助が言った。
「聞いてくださいよ、真之介のヤツ、俺がシュートのときに、もうちょっと肘の位置を上げたほうがいいってアドバイスしてんのに聞かないんすよ!」
それを聞いた真之介も黙ってはいなかったらしく、健之助に言い返した。
「いやいや、お前は肘が高すぎるんだぜ。俺のほうが狙いを定めやすいだろ!」
てっきり大事かと思っていた大平監督は拍子抜けしていた様だった。
「どっちですかね!監督!」
「聞いてるんですか監督!!」
「ま…まぁ、落ち着け」
勢いに圧倒されつつも、監督は答えた。
「10本3ポイントを放ってみて、多く入ったほうが正しいんじゃないのか?」
なんとも適当な答えであった。しかしその言葉がこの兄弟に火をつけたらしかった。
「おもしろい!真之介!今日こそお前がダメってことをわからせてやるよ!」
「はは、そんなデタラメシュートが正しいわけないだろうが」
さっそく2人のシュート対決が始まった。どこが違うのかわからないほど似ているシュートフォームから次々とシュートが放たれる。
そしてお互いに10本シュートをし終えたのだったが……。
「ははは、どっちも7本成功じゃないか。じゃあどっちも正しいってことだな。はっはっは!」
大平監督のその言葉にこの兄弟が納得するはずも無く……。
「いつか絶対に証明してやるからな!」
「こっちこそだバーカ!」
そう言って再び練習に打ち込んだのだった。大平監督はその様子に軽く笑いながら、他の選手も一通り見渡す。
「ふむふむ、お?アイツいい動きになってきたなぁ」
そう言って再び3年のコートに戻るのであった。
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「よし、では森村。集合をかけてくれ」
監督のその言葉に全学年の集合がかけられた。ゾロゾロと3年生体育館に集まり先ほどの人数とは比べ物にならないほどの数が集まる。こうしてみるとやはり名門校らしさが見えてくる。
「えーと、こっからはいつも通りに、一軍と2軍の試合形式の合同練習、その他は各自自主練習になるわけだが、その前に1つ」
オホンと咳を1つしたあと、監督はさらに続けた。
「2年の内藤、動きがだいぶ安定してきたな。あとシュートのときのクセが抜けてないからそこら辺を探るように練習に打ち込んでみたらどうかね」
『ハイ!』
「それに、1年川崎。一段とドリブルが上手くなってるな。佐々木兄弟危ないんじゃないか?ははは」
『ありがとうございます!』
川崎と呼ばれた人物は元気良く返事を返した。ここで再び黙っているわけのないこの兄弟。
「なにおぉぉ!?」
「そんなわけ!……ない…よな?」
そんな佐々木兄弟はさておき、次々と監督からアドバイスがとぶ。
アドバイスを送る選手は森村や五十嵐といった一軍選手の選手だけにとどまらず、新入部員、二軍、ベンチ外など送る対象は関係なかった。監督にいたってはすべてが自分の部員の一員であり、誰にでもチャンスはある。自分は上達の『キッカケ』を与えるだけに過ぎないと、そう思っているからである。選手の自主性を最優先し、クドクドとした支持などは、よほどのことが無い限りしなかった。選手たちが伸び伸びと練習に打ち込んでいるのはそのためである。
「まぁ、俺は言えるのは今日のところはこのくらいだな。じゃあ、最後にこれだけは言っておく。努力は必ずしも報われはしない。だがな、努力をすることによって必ず手を差し伸べてくれる人はいるぞ。それは応援に来る人、サポートしてくれる学校もそうだが、一番はお前らの仲間、そしてお前ら自身なんだよ」
『ハイッ!』
一際大きな返事が返ってくる。
『努力をすることによって必ず手を差し伸べてくれる人はいる』
いつも白川第一高校の練習は、監督のこのセリフから始まっていたのだった。もう聞きなれたセリフなのだが、選手たちは何度聞いてもかみ締めるように聞くのだった。
そして各自に別れ練習が始まる。
今日も選手たちの目は輝いていた。
ずいぶん遅れての更新となりました。かならず完結はさせますので、今しばらくお付き合いくださいませ。ここまで目を通していただき、まことに感謝しております。