表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/152

No.76 4点分の働き

朱雀高校バスケットボール部の部室にて――。


部員一同は稲川カップの決勝戦の様子が映されたビデオを見ていた。これは昨日ネットで中継されていたものである。


 決勝戦は白川第一高校対稲川工業。


稲川工業は平均身長は全国的に高い方ではないが、伝統の粘り強いディフェンスと、またたくまに得点する素早い速攻が印象的な高校だ。


メンバーも平田に星野、苦竹と、高校生全日本候補が多く揃う強豪である。



前半戦、会場の予想通り稲川工業の一方的な試合展開になった。

持ち前のスピードで次々と得点していく。一人一人のボール持ち時間が短いのも稲川バスケの特徴であった。


稲川リードで向かえた後半戦。白川は自分たちのペースに戻し、五十嵐中心に試合を組み立て反撃を開始する。 

 永瀬がリバウンドし、五十嵐、御庭が得点する、単純なことだが、確実にこなすことにより、少しずつ点差を縮めていった。


そして白川1点ビハインドで向かえた残り10秒――。 

森村一樹によるスティールにより、白川が得点。

 全国大会とも言われるこの稲川カップ。白川第一高校が見事に優勝を手にしたのであった。


――――――


――――


――

  

ビデオを見終わった後、部室は静まりかえる。


「やはり強いな、白川は…」


木ノ下薫がそう口にする。 

 実は部員たちはこのような結果になることはビデオを見る前から知っていた。 それは、県で発行されている新聞にこの記事が大きく乗っていたためである。 


「知っているとは思うが、黒沢高校も関東大会で見事に優勝を果たした。どちらも強いが、上を目指す道で必ず戦う相手だ。そのことを頭に入れてこれからの練習に望んでほしい。以上だ!」


『オス!』




 

 部員たちも薫に続き、返事をする。どこか不安も入り混じっているようにも聞こえた。静まり返っていた体育館に再び部員たちの声が鳴り響いた。ランニングから始まり、決められたメニューを次々にこなしていく。そしてAチームとBチームによる実戦形式の練習が行われた。


木ノ下薫が次々と選手の名前を呼ぶ。


「Aチーム! 俺と永瀬、長谷川亮。そして博司と純也! 準備してくれ。Bチームは…」


「いやっほう!! オラオラー!」


 純也がBチームの名前を呼ぶ前にはしゃぎだした。そしてコート内に飛び出す。それにすかさず薫はつっこみをいれる。

 

「わかってるとは思うが、この前の練習試合のようなことになればすぐに交代だからな」

 

 この前の試合、とはおそらく佐川商業との練習試合のことだろう。その言葉をきいた純也はめんどくさそうに答える。

 

「チッ、わかってらぁ」

 

 そう言って純也は練習用ゼッケンを着た。博司が薫に近づき、恐る恐る話し始めた。

 

「あのーキャプテン……」

 

「ん? どうした博」

 

 薫もゼッケンを着ながら博司に反応した。博司は勇気を振り絞るようにして言い放った。

 

「ぼ…僕も、あの白川の8番のようになりたいです!」

 

「…………」

 

急に言われて驚いたのか、薫はすこしの間黙ったままだった。やがて博司に向かって話し始める。




「リバウンドは4点分の働きをもつ、という言葉の意味がわかるか?」


「え?」


 突然薫から発せられた言葉に、博司は戸惑っていたようだった。そんな博司に薫は更に続けた。


「その意味を実践でつかんでもらえれば嬉しい」


「え?あ……でも!」


 博司が何かを言いかける前に、薫はコートに向かって歩いていってしまった。 

「リバウンドが4点分の働き? 点を取るわけじゃないのに……。よくわからないなぁ」


 博司はそう言って頭を掻いた。


「おい博司! はやくこいっつーの! 試合だぜ試合!」


「あ、うん!」


 急に純也に怒鳴られ、博司は慌ててゼッケンを着る。純也は試合形式の練習が待ちどおしいようで、陸にあげられた魚のようにピョンピョン飛び跳ねていた。


 Bチームのメンバーが決まったようで、Aチームがオフェンス、Bチームがディフェンスのセットの練習が始まった。


 ある程度セットからの練習をこなし、次はオールコートでの試合が行われる。 

 ジャンプボールをAチームが手にして、最初のオフェンスが行われた。


 薫から亮にボールがまわる。そしてゴール下に切り込んだ純也にパスをだす。 純也はボールを持ったかと思うと、すぐさまバックターンで最大加速に達する。ゴール下にいた小田原さんを楽々かわし、先制点を決めたのだった。


そして純也は亮を指差して一言。


「相変わらず、すっトロいパスだしてんなぁ」


「うるせぇ猿助!」


そんな二人に薫が注意する。


「おい! はやくもどれ!」


「へいへい」


 めんどうくさそうに純也は言い放ち、ディフェンスにまわった。


Bチームのオフェンス。何度かパスがまわった後、一年の遠藤はスリーポイントシュートを狙った。


 だが、ボールはリングの縁にあたり、外に飛び出す。そのボールの行方を追って数人がジャンプした。


 ゴール下の激しい争いをものにしたのは純也だった。そして、味方ゴールに走っていた薫にパスをだす。 

「おりゃぁぁ!」


物凄いスピードでボールが飛んでいく。薫はそのボールをいとも簡単にキャッチし、ゴールを決めた。

 そのプレイを見ていた博司は突然立ち止まる。


「そうか……。そう言うことだったのか!」


「どうした博司? 足がとまってるぞ」


「すみましぇん!」


薫の声に、博司は再び走り出したのであった。


――――――


――――


――



「キャプテン!はぁはぁ」


 やがて練習が終わった。博司は真っ先に薫のもとに駆け寄る。


「ん? どうした?」


 呼吸を整え、やがて博司が口を開いた。


「リバウンドが4点差分の働き、という意味が分かりました!」


「ほう」


「相手の攻撃を阻止して、味方の攻撃のチャンスをつくる。だから4点なんですよね!?」


博司のセリフを聞いた薫は一瞬驚いた表情を見せる。そして笑顔で言った。


「驚いたな。まさにその通りさ」


「純也君ありがとー!!」 

 薫の言葉を聞いた博司は、純也に向かって走っていった。おそらく、純也のプレーがヒントとなったのだろう。


「うわ、なんだおめぇ!気持わりぃ!」


 迷惑そうな純也を博司は追い掛け回していた。


そんな2人を見て薫が周りに聞こえないような声でつぶやいた。


「やれやれ。しかし驚いたな。練習が終わったら説明しようと思ったんだが。その必要はなさそうだ。リバウンドはそれほど重要な技術なんだ。お前が頑張ればチームの得点力が更に増すだろう。期待してるぞ!」


 部員たちの自主練習はよる遅くまで続く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ