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No.75 衝撃

稲川カップ初日。俺たちは次々と消化される試合を観客席から見ていた。第一試合は福岡国際が勝利し、第二試合、カズこと森村一樹率いる白川第一高校の試合が始まろうとしていた。対戦相手は越前高校というところらしい。

 

『これより、第二試合白川第一高校対越前高校の試合を始めたいと思います』

 

再び場内が大歓声で埋め尽くされる。やがて両チームの選手たちが入場してきた。黒に赤のラインのユニフォーム白川と、白のユニフォーム越前である。

 その中に1人、見覚えのある人物がいた。

 

「まさか本当にいるとはねぇ」


 俺はカズの姿を確認し、改めて白川のメンバーだったことを確認する。両チームとも他の俺たちが練習試合なんかで戦っているチームたちとは明らかに雰囲気がちがっていた。

 ふいに薫が博司に声をかける。

 

「博司。白川の8番を見ておけ。きっと何かが見つかるはずだ。」

 

「8番ですか?は…はい!」

 

 そういって博司は白川の8番を見る。どこかで見たような顔立ちをしていた。急に永瀬勇希の表情が曇ったのを俺は見逃さなかった。そういやぁ似てるなぁ。

 

選手たちの入場が終え、やがて試合が始まった。朱雀の部員をつばを飲んでその試合を見ていた。

 

「いいかい? 純也君。絶対に勝ち進んだらインターハイ予選で当たるチームだからしっかりと見てて欲しい」

 

「ん? 我利勉じゃないか。」

 

そこにはメガネを怪しく光らせ、俺に話しかけてくる我利勉の姿があった。白川と越前のジャンプボールが始まる。白川はかなり大型のスキンヘット野郎がジャンプらしい。我利勉が語り始める。

 

「白川のあの大きい人が県内三大センターの1人の御庭慶彦おにわよしひこだ。身長は2mを越えている。ゴール下のオフェンスの要だね。」

 

 ジャンプボールは白川の御庭が制し、白川ボールとなった。ボールはカズに渡る。越前のもどりも早く、セットからのオフェンスとなった。

 

「あのPGは森村一樹もりむらかずき入学当時はSGとしてレギュラー入りをしていたんだけど、2年生のときにPG転向したんだ。アシスト、スティール、3P、すべてにおいて高評価されている。選手だね」

 

知ってるっつーの。やつの強さなんて俺が1番身にしみてるぜ。


ポストに御庭が入る。ボールをカズから受け取り、ジリジリとゴールに近づいた。そしてシュートと思いきやアウトサイドにいた13番の選手にボールをパスした。ゴーグルをして表情はつかめないが、かなり落ち着いた様子だった。

 そして素早いモーションからロングシュートが放たれる。

 

パスッ!

 

 白川はあっという間に3点先取したのである。我利勉がまた話しかけてきた。

 

「今のゴーグルの13番をつけた子は、SGの佐々木健之助ささきけんのすけ。まだ君と同じ1年生だ。中学時代全国選抜に選ばれているほどの腕だから気は抜けないよ。薫さんと似たようなスタイルだね。恐ろしいことにこの選手は双子でもう1人、ほぼ同じ力をもっている佐々木真之介ささきしんのすけという弟が白川のベンチにいるんだよ。」

 

そういって我利勉は白川のベンチを指差した。ベンチにも同じようなゴーグルをした14番をつけた選手がいる。兄弟で区別するためであろうか?13番はゴーグルのバンドの部分が白く、14番は黒い。不思議な雰囲気を出している兄弟だった。

 

「2人をそのときの調子で交互に代えてきたりもするから、スタミナ配分に容赦がない。アウトサイドのシュート力とカットインは非常に驚異的だよ」

 

「ケッ…同い年なんて関係無しにぶっつぶすだけだ」

 

 越前のオフェンスが始まった。白川はハーフマンツーらしい。越前のPGがパスをまわす。ある程度して、フリーになった選手がシュートを放った。ボールはリングに嫌われ、1度リングにぶつかった後、外に出てしまう。そのボールの行方を追って何人かリバウンドに飛んだ。

 肘一つ分腕が群れから伸び出たかと思うと、あっという間にボールを懐に抱え込んだ選手がいた。

 

「高い!?」

 

俺は思わず声を上げてしまった。明らかに他の選手より手が抜き出ている。そこへすかさず我利勉の解説がはいった。

 

「今の8番の選手の名前は永瀬朋希ながせともき。身長は全国の中ではそんなに大きいほうじゃないんだけど、脅威のバネにより最高到達点3m40後半という脅威の記録をたたき出しているんだよ。天性のボディーバランスで、空中で状態がブレても立て直してリバウンドをとることができる。」

 

話しているうちに白川はあっという間に得点し、再びディフェンスとなっていた。越前の1人が中に切り込んでシュートしたかと思うと……。

 

バシィ!

 

あっという間に8番にブロックされてしまった。

 

「彼のスタイルはとにかくディフェンス重視。周りが得点できるからかとは思うんだけど、得点は1試合で2桁いくかいかないかだね。そのかわりルーズボール、ブロック、リバウンドには人一倍貪欲なんだ。彼自身そのスタイルを貫いているのさ。そしてなにより……永瀬勇希さんの弟なんだよ。」

 

 永瀬勇希の方を見てみると、曇った表情で試合を見ているのがわかった。あの表情にはこんな訳があったのか。もっと深い理由がありそうだな。

 


 


 

薫が博司になぜああ言ったのかわかった気がした。俺も大体同じことを考えてたからな。

 

ルーズボールを手にしたカズは凄いスピードでコートのディフェンスをかいくぐり相手ゴールに向かっていった。そしてある選手にボールがまわる。黒のユニフォームに7番の番号を背負った男だった。

 

1度2度フェイントをかけたと思うと、相手に向かって容赦なく突っ込んだ。相手は何が起こったのか、もしくは恐ろしくて動けなかったのか、詳しくはわからないがピクリともしないうちに抜かれてしまった。それほどまでに早い動きだった。

 そして豪快なダンクが決まる。

 

ドォォン!

 

 

 リングが軽く上下に揺れた。大歓声が聞こえる。

 

「今の人が白川のエース五十嵐拓磨いがらしたくま。1年生の頃から白川のエースナンバーの7を背負っていた人だよ。県でNo、1フォワードと言われているのは見ればわかるよね。」

 

目の前で次々と五十嵐が得点を重ねる。

 

「中学時代に氷室中を薫キャプテン、福岡と一緒に全国優勝に導いたときのエースの人だよ」

 

我利勉には悪いが、解説はほとんど頭に入っていなかった。このとき俺は人生の中で初とも言える衝撃を受けていた。目の前の黒の7番から悔しいが目を話せないでいた。

 

 荒々しさの中にも正確な動き。 

 

 相手を威嚇するようなドルブル。

 

 正直、白川などの名門高校は、なぜだかわからないが、御堅いバスケの印象が強かった。そんなイメージを一瞬にして打ち砕かれたのだ。なんせその7番の繰り出す技、シュートの1つ1つが----。

 

 まさに俺の理想とするスタイルだったからだ。

 

 

 



 結局この試合は、白川第一が100点ゲームという力の差を見せつけ、圧勝したのであった。続く第三試合、湘南は名門稲川工業とあたり、68−81という点差で敗れてしまったようだ。福岡誠という選手は長身から繰り出されるフックシュートが武器らしい。ったく、薫の野郎には楽しみなやつらがたくさんいやがる。

 

それぞれの第一試合を見終えた俺たちは、バスの前に集合していた。

 

「よし、全員いるな。乗ってくれ」

 

「オス!」

 

 この稲川カップというものは2日間かけて行われるらしいが、朱雀高校では泊まりの予算が無いために日帰り日程だそうだ。明日の試合は部員たちで中継を見ることにしたらしい。

数々の試合を見て衝撃を受けたのか、選手たちの口数が減っていたのだった。特に博司はあの8番にとても影響されたらしい。

 

「すごい…僕もああなりたい」

 

と、ブツブツ言うだけだ。あの天性のバランスは正直得るのはきついが、彼のスタイルなどはとても参考になってたのかもしれない。

 

帰りのバスの数時間、俺は一睡もせずにいたのだった。



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