No.74 稲川カップ
ムニャムニャ……
あぁー、まるで綿の上にいるようだ。フワフワしている。ムニャムニャ……。
『チャラララ♪チャラララ♪』
携帯のメロディーが聞こえる。しかし出る気はない。
「うるせぇ……ブッコロスゾ…ムニャムニャ」
『チャラララ♪チャララ♪』
相変わらずメロディーは鳴り響いていた。いったいどれくらい鳴ったであろうか?しばらくの時間鳴った後にようやく静まり返った。俺の眠りを邪魔するヤツはたとえ携帯でも容赦は……ムニャムニャ。
………
ドタドタドタ!!
ものすごい階段を駆け上がる音が聞こえ、俺の部屋の前でその足音はとまった。そして、勢いよく扉が開かれた。
ドォォン!!
「?!」
俺はその音に一瞬、目が覚める。ドアの方を見ると久留美が荒い息で血相を変えて立っていた。俺はとりあえず挨拶をしてみる。
「よう久留美。おはよー」
「おはようじゃなぁぁぁいいっ!!」
寝起きの頭に久留美の声が響く。
「今何時だと思ってるの?!準備もまだしてないじゃない!」
時計を確認してみる。時計は6時を指していた。
「まだ6時じゃねぇか。ビックリさせんな」
そういって俺は再び布団をかぶった。布団サイコー。
「って、ねるなぁぁっ!』
今度はその布団を勢いよく久留美がひきあげる。今までぬくぬくしていた体に外界の冷たい空気が染み渡る。いったいここはどこなんだ?あのフワフワはいったい?!
『今日は朝6時30分に体育館集合でしょ!?わかってるの!?あと、30分しかないのよ!』
久留美のハイトーンボイスが頭に突き刺さる。そして俺はようやく今日の集合時間を思い出した。
「やべ!」
勢いよくベットから飛び出した。そして洗面所にむかいつつ久留美に言う。
「外で待っててくれ!5分で準備する!」
「はぁ……」
久留美はため息をついたあとに玄関へと向かったのであった。
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「わりしわりぃ、待たせたなっ!」
「待たせたなっ!じゃないわよ!とにかく走るわよ!」
玄関で待ち合わせをした俺たちは。学校に向かって走り始める。時計を見ると15分を過ぎていた。おもったより準備に時間がかかっていたらしい。時間の流れとは恐ろしいものである。
見覚えのある所をなんどか通り過ぎた後、ようやく朱雀高校の門が見えてきた。体育館は門の裏の方にある。学校の敷地内に入った俺たちは早速体育館に向かった。
この学校には普段生徒が出入りする正門と、体育館側に設置されている裏門がある。今日はその裏門にバスが停車しているというわけだ。息をきらしながら俺たちはみんなが待っている体育館の中へと入った。
「おねがし……しま…す」
「ちわーっす!」
挨拶をして体育館に入り、俺たち2人は挨拶をした。久留実はとても疲れた様子で俺を睨みながら言った。
「なんとか間に合ったようね……」
そんな俺たちに薫が話しかけてくる。すこし呆れ気味の様子だった。
「ギリギリセーフだったな。お前たちが最後だ。他の人たちはもうバスにのってるから、お前たちも早く乗れ。」
「うす」
「はい……」
薫はキャプテンという立場上、みんなの出席を確認していたようだ。全員確認し終えた薫は俺たちと一緒にバスにむかった。
裏門に止まっているバスは市から借りたもので、特に名前はない。朱雀高校が部活動専用のバスを持っているわけも無く、このバスがみんなにとっての『いつものバス』となっているようだった。薫がバスの先頭に立ちみんなに言った。
「移動に長時間かかるとおもうので、具合が悪くなったらはやめに言うようにな。運転手さん、今日もよろしくおねがいします」
薫は運転手に向かって頭を下げる。それに続いて部員たちも挨拶をした。
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長旅を終え、現地に到着したあたりにはもうしっかりと昼も過ぎていた。バスで弁当を食べた後に俺たちはバスからおりる。しかし、ほとんど寝ていたためにまったく記憶がないなぁ。
バスから出るなり、博司が弱音をはいていた。
「うぅー」
どうやらバス酔いしたらしい。まったく、図体だけでかいのに相変わらずヒヨワなやつだ。そんな俺たちに薫から指示がとぶ。
「会場は全国的に有名な大会ということもあり、非常に混み合う。移動は速やかにするように。質問があるやついるか?」
特に質問はなかったので、すぐに体育館へと向かった。さすが全国的に有名な大会ということもあって、会場の外には大きなTVモニターが置かれ、記念グッズ販売などの露店が所々にならんでいる。秋田の名物なのであろうか、ピンクと黄色のアイス屋さん?もいくつかあった。
そんな疑問を持ちながらも体育館の中に入る。ストバスの大会みたく、大音量のBGMはかかっていなかったが、それに勝るとも劣らずの大歓声が鳴り響いていた。会場にはいくつかのカメラが敷かれている。どうやネットで全国中継もしているらしかった。観客席は埋め尽くされており、俺たちは立って観戦することになった。こんな中、カズが試合するのかと思うと不思議でならなかった。
ふと、とある人物が訪れる。どうやら薫に用があるらしかった。
「ん? おお! 薫じゃないか!久しぶり!」
薫は話しかけられた方向を見る。身長190は軽くこえているであろう。この大会に参加しているのか、ユニフォームを着ていた。その人物を見た薫は一瞬驚いた様子だったが、やがて返事を返した。
「誠か! 久しぶりだな。」
「驚いたよ。薫がこんなところにいるなんてさ」
そう言って笑った。薫も笑いながらそれに答えた。
「今日はチームでこの大会を観戦しに来ててだな。誠は選手だろ?もう出番はおわったのか?」
「いや、俺らの出番はこれからだよ。午前中はミニバスの試合や、色々な出し物があったからね。試合は今日の午後から明日の午後にかけてだよ。」
「なるほどな…試合に間に合ってよかったよ。」
「まぁ、ゆっくり見学していってくれ。じゃあ俺は戻るよ。また一緒にバスケやろうな」
「ああ、頑張れよ」
軽く挨拶を終え、誠と呼ばれた人物は階段を下りていった。
「いったい誰なんだあいつ?」
亮を見るととても感激した様子で誠とよばれた人物を目で追っていた。
「あの人の名前は福岡誠。中学時代に薫さんと全国制覇を達成したときのメンバーの1人だ。当時は副キャプテンだった。近くで見ることができてラッキーだったなぁー」
「へぇー」
俺はそんなに興味が無かったため、軽く返事をした。そういえば亮は中学時代の薫のチームのファンだったんだっけか。
「でもさ、ユニフォームに神奈川って書いてた気がするんだが」
その言葉に亮は思い出すようにして返答する。
「たしか、誠さんは神奈川の湘南西にスカウトされていったんじゃなかったかな。今回のこの大会に湘南西出るし。」
中学時代に共に戦っていたやつが、今ではバラバラになってるってことか。
そんなことを考えてるうちに場内アナウンスが始まった。
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『これより、男子第一試合、福岡国際高校対四日市高校の試合をはじめます』
観客がどよめいていた。これから始まる数々の試合に心を躍らせていた。観客数も次第に増え始め、会場を圧迫する。
ワァァァッッ!
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稲川工業をはじめ、白川第一、湘南西、四日市、福岡国際など計8つの強豪があつまるこの大会。事実上全国大会といっても過言ではないこの大会が今、純也たちの目の前で始まろうとしていた。