No.73 彗星
稲川観戦を明日に控えた俺は、練習後に体を動かすためにいつものストバスのコートに立ち寄っていた。商店街から裏の路地に入る。コートに近づくにつれて、遅い時間にもかかわらず数人ものはしゃぐ声がきこえてくる。
コートの中に入った俺は辺りを見渡して驚いた。
「しかし、かわったなぁー。リングまで新しくなってやがる」
そう言って笑みを浮かべた俺に、知り合いが何人か話しかけてきた。
『よお純也、久しぶりだな』
『大会は大変だったみたいだな』
『調子はどうだ?』
俺はそれぞれに対応したあと、マイボールを取り出して2、3度地面に叩き付けてドリブルをする。手に1番なじんでいると実感できる。ストバス大会のおかげか、知らない人も大分増えているようで、コート内での試合が頻繁に行われていた。俺は端っこでドリブルの小技をしながらコートが空くのを待っていた。
ふと、コート内での3on3を見ていたとき、見覚えのある人物がいることに気がついた。小柄ながら、背の高いヤツにまけないくらいのジャンプ力、素早い動き。俺は慌ててその人物の名前を呼んだ。
「よお!服部じゃねぇか。なんでこんなとこにいるんだ?」
試合に集中し、いままで俺の存在に気づいていなかった服部が、ようやくこちらに気づいたようで表情を変えながら向かってくる。
「純也さん! お久しぶりです!」
「よう!っていっても一週間くらいだけどな」
お互いが笑う。そして俺は疑問に思ってたことを聞いた。
「なんでここにいるんだ?」
服部はその質問に、考える様子など無く、すぐに答えた。
「ここが純也さんたちのコートと聞いて、隣町からやってきましたよ。人が多くてびっくりしました」
「まぁ、人が急激に増えたのはここ最近だからなぁ。よし、せっかくだし軽く試合でもしてくか?」
「本当ですか?! お願いします」
その言葉を聞いた外野たちは、ざわめきはじめる。彗星のごとく現れた謎のバスケ少年対石川純也の試合が気になるのだろう。予想通り、周りは使用していたコートから外れて観客にまわっていた。俺はマイボールを取り出して服部に渡す。
「先に11点取ったほうが勝ちな。先攻はお前からでいいぜ」
「はい!いきます!」
服部がドリブルをしてこちらの様子をうかがっている。俺は適度にプレッシャーをかける。1度フェインををかけたあと服部は右から俺をぬいた。そしてシュートモーションに入る。
バシィ!
「!?」
俺のブロックが決まった。すぐさまボールを拾い、アウトサイドにドリブルしながら出る。
「はは、決まったと思ったんですけどねぇ」
服部はそういって苦笑いをした。
「そう簡単に決めさせるかよ」
俺は笑いながらそう言った後、オフェンスを再開した。ピッタリと服部がマークしてくる。俺は左右に振った後、今度は左から抜き去った。シュートのタイミングで1度フェイクをかける。そして、服部のタイミングがずれたのを確認してから俺はダンクシュートをかました。
ダァァン!
『ワァァ!』
明らかに以前より声援が大きい。夜中でこのくらいの人数だから、昼間はどれだけいるのだろうか?まぁ。最後に残るのは本当にバスケが好きなヤツらだけだろうけどな。
俺はリングから着地した後、服部にボールを渡した。
「ほれ、お前の番だぞ」
「はい!」
服部もダンクの影響か、燃えているようだった。普段の目の輝きを数倍輝かせる。
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「ハァハァ、やっぱお前やるじゃねぇか」
「い…いえ、純也さんにはかないませんでしたよ」
試合が終わり、その場に座り込んだ服部が笑いながら言った。周りからは歓声が響き渡っていた。試合の結果は4−12で俺の勝ちだったのだが、見ているほうもそれなりに楽しめた試合だったらしい。コイツも中学生とは思えない動きをしやがる。服部は何かを思い出したように語り始めた。
「よし、決めました。俺、来年朱雀高校に行きます!」
その言葉を聞いた俺の頭にある疑問が浮かんだ。
「ん? 何で俺が公式やってること知ってんだ?」
「いろいろ調べたんですよ…フフフ」
不気味な笑みを浮かべながらそう言った。気のせいか、目がキラーンと光ったようにも見える。俺はその雰囲気に圧倒されながらも返事をした。
「あ…ああ、そうか。楽しみにまってるぜ。変なヤツだらけだけど気にすんなよな」
特に亮とか博司とか。少しの笑いの後、服部は思い出したように、家の門限を思い出して家に帰っていった。また一緒にバスケしましょうね、という言葉を残して。
しかし、いつの間にかこんな時間になってたんだなぁ。他のやつらがこんな遅くまでここにいるなんて沖さんがいたあたりの頃を思い出す。そういえば沖さんはなにしてんだろうなぁ。
よし、俺もそろそろ帰るかね。明日は何気に早いし、遅刻したら薫あたりがメンドクセェ。
コートのやつらに軽く挨拶をした後、俺はその場をあとにした。