No.70 強豪強し
「というわけだ」
薫の話が終わった後、病室内はさらに暗い雰囲気となっていた。純也が何かに気づいたように言った。
「予選ってことは本戦はいつやるんだよ?」
「一週間後に開かれる。白川第一高校はおよそ一週間後に秋田県のバスケ名門校、稲川工業が主催する稲川カップというものに出るから関東大会の本戦には出ないことになった。関東で強豪の神奈川の湘南西校なども、そっちの大会にでるために今大会には出ないらしい。」
稲川カップとは、薫が言ったとおり、秋田の名門校が毎年主催している大会である。高校バスケではこの大会に呼ばれることが、強豪としての証とされている部分もあった。なので、他の大会とかぶってしまったとしても、稲川カップを優先させることがあったりする。
純也は何に納得するように頷いた。
「まあ、そんなことだから俺たちは部活に戻るよ」
薫の言葉に他のメンバーも続く。
「純也君、はやくかえってきてね」
と、博司。
「退院したてで足ひっぱんじゃねぇぞ〜」
と、亮。
「うるせぇ、めてぇこそもっと練習しやがれ!」
「わかってるさ…」
純也の言葉に亮は一瞬素になったが、すぐに表情を戻し、じゃあなといって病室からでていった。純也と久留美が2人だけとなり、急に病室が静まり返った。純也が口を開く。
「お前は部活にでなくていいのか?」
「純麗先輩がジュンの看病してなさいって言ってたから」
「もう大丈夫なんだがなぁ…」
その言葉に久留美はあきれた様子で言った。
「3日間も寝てたくせに何いってるのよ」
そのときだった。
再び病室に人が訪れた。
『お〜っす』
『おじゃましまーす』
赤い髪がトレードマークの京介と、綺麗な顔が印象的な優であった。京介が言った。
「見舞いにきてやったぜ。ほらよ」
そういって京介は純也に紙袋を渡した。純也はその中身を確かめる。
「ってお前、酒かよ!」
「ははは、気にするな気にするな。その金は大会の賞金で買ったものだしな。俺たちはうちあげやったんだが、お前これなかったろ?」
「まぁそりゃあそうだけどな。サンキュ」
「おうよ」
「あ…大会の賞金なんだけどさ…。」
優が突然口を開いた。
「コートのリングがボロくなってたから新しくするのにつかったよ。あと壁も取り替えたしね。それでさ……お前の取り分なくなっちゃったんだよね、ははは」
優はそういって笑った。すごく申し訳なさそうな様子だった。純也はそのほほえましい様子に笑みを浮かべながら言う。
「まぁ、コートに来る人が増えたんだろ?その使い方が1番正しいんじゃねぇかな。賭けバスケで稼げばいいわけだし……」
最後の言葉は自分にしか聞こえないようにボソっとつぶやいた。
「カズは稲川カップとかいうやつでチーム全体が調整に入ってるから見舞いにこれなくてな。代わりに伝言をもらっといたよ。『次はインターハイ予選で会おうな』だってさ」
優はそうつぶやいた。純也はうれしそうに拳を自分の目の前で揺らしながら言った」
「おもしれぇ……退院したらそっこうぶっ潰してやるぜ」
久留美がすぐさまつっこむ。
「ムリね」
「なんだと!? 俺が本気をだせばなぁ!カズなんて相手じゃねぇ!」
「いや、それはさすがにムリがあるだろ」
優もこの悪ノリに続いた。それを聞いて京介も爆笑している。そして笑いがおさまった京介は純也に言った。
「でもまぁ、ストバスの大会の最後のお前はかっこよかったぜ。ゴールを決めた後急に倒れちまったしな。いったいどうしたんだ?」
純也は不思議そうな様子で答えた。
「いやー、それがさ、ゴールを決めたことなんてまったく覚えてないんだよなぁ。決める直前までは記憶あるんだが」
「ほう、じゃあ無意識にってことか、やってくれるねぇ」
京介はそういって純也を肘でつっついた。さらに続ける。
「お前がただものじゃないってことは中学んときに十分に知らされたけどな」
「今回は入院してるのは俺だけだけどな」
そう言って純也は苦笑いする。この2人かかつては敵同士だった。なぜ現在はこんなに仲が良いのかというと、入院がきっかけなのである。なぜ入院がきっかけなのかというと……。