No.68 関東大会…?
カズは俺の言葉に、迷いなく素早いパスを出す。パスをもらった衝撃が頭に響いたが、もう気にしてられない。
俺は、バック・ターンで相手をかわし、レイアップをきめる。25対27と、点差を2点に縮めた。
ケルベロスのオフェンスとなる。カズにカットされそうになりながらも、ボールが優の相手に渡った。フェイクをいれた後のミドルシュートにより、25対29と、またまた4点差となった。
時間は1分を切っていた。ピック&ロールで俺はカズからボールをもらい、中に切り込む。
そのままゴール下に行き、シュートの体勢にはいる。ケルベロスは慌ててブロックの体勢になった。
俺は、体を反転させ、ボールを優にパスした。
『なに!?』
敵は驚いていた。慌てて優のカバーにはいるが、怖いほど完成されたフォームから放たれたシュートは、リングの淵にあたることなく、綺麗に吸い込まれたのであった。ったく、土壇場で恐ろしい奴だぜ。
『ワァァァ!』
『キャー』
優が決めて歓声が大きくなるが、優はいたって普通の様子だった。俺たちは喜んでいる暇はない。
1点差、残り45秒。なんとしてでも、このディフェンスは止めなければならない。
ケルベロスが得意のスピードで掻き回してくる。やがて、俺がマッチアップしているヤツにボールが渡った。
その場でシュートモーションに入ったため俺は距離をつめた。
ササッ!
その隙に横から抜かれてしまった。判断力がやはり落ちている。
――しまった!
相手がレイアップのモーションに入った。これが決まれば確実に試合がきまる。
バシィッ!
『なにっ!?』
なんとカズがカバーに入っていたのであった。ルーズボールをそのまま優が拾う。
「すまねぇ」
「きにするな」
カズに一言礼を言った後、すぐにオフェンスにまわる。
おそらく、これが最後の攻撃となるだろう。優はひとまずカズにボールを渡し、セットの体型にもどした。
カズのドリブルに一瞬の隙があると見たのか、ケルベロスはスティールを狙った。だが、その動きはカズの周辺視野に入っていた。 よいPGというのは、周辺視野が広いのである。
カズは素早く手をかわり、一気に抜き去った。
『しまった!』
カズがリングに向かってドリブルで突っ込んだ。慌ててケルベロスの他のメンバーがカバーに入る。
『!?』
突然、カズは俺にパスをだした。これを決めれば勝てる!
俺は、手薄になったゴール下へと突っ込んだ。
「うぉぉぉっ!」
『くっ!』
――絶対に決める!絶対に……あれ………?
――どうしたんだろう。
…………。
――――――
――――
――
「………ん」
頭がボーっとする。
――ここはどこなんだ?
俺は、閉ざされていた重い瞼をゆっくりとあけた。光が一瞬眩しくて閉じてしまったが、やがて慣れたようで、普通に開くことができた。
「ん………」
どうやら俺はベットに寝ているようだ。
――へぇ……なぁーんだ、ベットか。ははは
――…………?
「えぇぇぇぇっ!?」
試合は!?ストバスはどうなった!?
大声をだし、俺は勢いよく上半身を起こした。
「痛て……」
まだ頭が痛い。そしてベットの横を見た。キョトンとして、つっ立っている久留美と目があった。
「あ、ジュン!ようやく目覚めたのね」
「ここはどこだ!?そしてストバスの大会は!?」
「え……?」
あなた本当に覚えてないの?と、言った後、さらに久留美は続けて言った。
「ストバスの大会はSkyBombの優勝よ。ジュンが最後に逆転ゴール決めたじゃない! そしてここは病院。ジュンったら、3日間も寝てたんだからね!本当に何も覚えてないの!?」
「!?!?」
一度に何個も知られざる真実をつきつけられ、一瞬頭が混乱する、
「あー……え〜と……。まず一個ずつな?」
「何よ?」
「コートは大丈夫なのか?」
その言葉を聞いたとたん、久留美は表情を急に明るくして答えた。
「それがねー、あなたたちのおかげでコートはなくならなかったわよ!さらに、あの大会をみて、ストバスしに来る人が増えたわ」
――無事だったか……。よかった……本当によかったぜ。
「じゃあさ、3日間寝てたってことは……関東大会は?」
今度は久留美は表情を曇らせた。
「はぁ……関東大会わぁ!」
『そのことは俺の口から伝えるよ』
急に部屋の入り口から声がした。俺たちはその方向を見る。ゾロゾロと数人が部屋の中に入ってきた。
「げ、木ノ下薫!」
そこには朱雀高校バスケ部のキャプテン、木ノ下薫の姿があった。さらに後ろには、亮、博司、我利勉、永瀬の姿があった。
「げ、とはなんだ、げ、とは」
やれやれ、と言った様子薫は頭を掻いた。
「まず最初に、無事でなによりだ。医師の方からも後2、3日ほど安静にしていれば大丈夫と言われた」
「ほぉ」
やけに詳しいな。やがて薫は表情を変えて言った。
「まったく……、お前と言うヤツは……。理由は春風から聞いたが、何かあったら俺に一言言ってから行くようにな。あとはお前は朱雀高校のバスケ部の一員なんだ。そこら辺をもうちょっと考えてくれ。部員みんなに迷惑がかかるときもあるんだ」
部員みんなにか。確かに俺のせいで出場停止になったら洒落にならねぇな。
俺は、頭を下げて謝った。
「すまねぇ、今度からは気をつける!」
その言葉をきいた薫は表情を緩め、俺の肩に手をのせて言った。
「まぁ、本当に無事で何よりだ」
薫の言葉に我利勉が続く。
「ほんとだよ〜。君は大事なメンバーだからね。」
さらに博司と亮。
「純也くんよかった〜!一緒に練習を教えてくれる人がいないと僕がこまるよぉ」
「さすが生命力はゴキブリ並だなぁ、ははは」
「くそ亮!ぶっ殺す!」
病院の部屋中に笑い声が響き渡った。
そして俺は、忘れかけてた話題を切り出した。
「で、関東大会は?」
…………。
あれ?急にまた部屋が暗い雰囲気に……。
「大会は――」
木ノ下薫から、関東大会での出来事が語られ始めた。