No.66 赤髪の狂犬
決勝の試合開始数分前の出来事。
純也の顔は血で真っ赤に染まっていた。突然あらわれたケルベロスの仲間と思われる黒ずくめの集団の角材を頭にまともにもらってしまったからである。
「……次は……どいつだよ……」
純也が一度に3人でかかってきた相手を殴り倒したあと、そう呟いた。
『この死に損いがぁ!』
今度はケルベロスの黒い集団が一度にかかっていった。
「くそ……次から次へと……」
向かってくる角材を手で受け止め、反撃する。
その間にも他から攻撃を受けてしまう。その様な状態が続き、純也へのダメージは確実に蓄積されていた。
――これはさすがにやべぇ……。
純也がそう思ったであろう、そのときであった。
『珍しく苦戦か?』
そんな言葉をはきながら京介があらわれた。
「京……介……?」
純也は意識の薄い中、その方向を見る。
「試合に来なくて何やってるかと思えば」
京介はそう言って笑った。ケルベロスの1人があることに気付く。
「お前は……赤髪の狂犬……」
京介は不良の間ではかなり名のしれた人物であった。その武勇伝はケルベロスのメンバーまで伝わっていたのだろう。
「おい純也、この雑魚は俺がかたづけるからお前はさっさと試合に行け。不戦勝になるぞ」
「大丈夫なのか?」
京介の言葉が勘に触ったのかケルベロスの1人が京介に襲いかかった。
『馬鹿かてめぇは?こっちは何人いると思ってんだ?!』
物凄い勢いで向かっていく。
京介は特に移動はせず、ポケットに手を突っ込んだまま、相手の顔面に蹴りを入れた。相手は吹っ飛び、そのままピクリとも動かなくなってしまった。
そして純也に向かって一言――。
「ま、気にするな」
そう言って笑いながらサングラスをポケットにしまった。純也も大丈夫と確信したらしく、一言言ってこの場から立ち去った。
「すまない!」
そんな純也を追うものは1人もいなかった。あの怪我では試合は無理と判断したのだろう。
「ったくよぉ……。正々堂々戦えってんだ。一人で向かっていった純也をみなかったのかよ。泣きいれりゃあ半殺しで勘弁してやるぜ?」
『くっ……ふざけるな!』
ケルベロスのメンバーは再び全員で向かっていく。
「ちっ、めんどくせぇ」
京介はポケットから手を取り出し、構えた。
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「で、大丈夫なのかよ?」
俺は京介に、そう問いかけた。京介は特に威張った様子などなく、ごく自然に答えた。
「まぁな。雑魚はいくら集まっても雑魚だからなぁ」
――さすが京介……。今戦ったら負けてしまうかもしれないな。
そんな会話をしていた時だった。久留美が血相を変え、純也の肩を掴んだ。
「京介君から全部聞いたわ! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? こんな試合意味無いわ!今すぐ審判に言いましょ!?」
肩におかれた手に力がこめられる。
「いや、アイツらだけはバスケで倒さなければ気がすまねぇ……。コートのためにな。」
――そして服部たちのためにも。
「だ、だってインチキじゃない! フェアじゃないわ!」
そんな久留美に京介は後ろから声をかける。
「春風。かける言葉が違うぜ。男にはな、こんなときかける言葉は1つだ。」
何を言ってるのかわからない、といった表情をしている久留美に京介はさらに続けて言った。
「頑張れ。ぶっとばしてこい」
「ああ、まかせろ……」
俺は即返事をした。そして久留美の方に顔を向けて言った。
「ということだ。悪いが久留美。いってくるわ」
信じられない、と言うようような顔をした久留美だったが、やがて何かを納得したらしく、諦めたようだった。
「がんばりなさい。でも、絶対に無理しちゃだめよ?」
「ああ」
さすがは久留美だ。ながいこと一緒にいるだけのことはある。
『後半戦を始めますので両チーム、コート中央に集まって下さい』
「行くぜ。俺たちの本気を見せてやろう」
『おう』
カズの言葉に俺たちは続いた。久留美、京介は観客席へと戻っていき、俺たちはコートに出る。
『へへへ』
両チームのメンバーが向き合う。ケルベロスのメンバーたちの顔は、勝ち誇ったような笑みが浮かべられていた。
やがて、俺たちの先攻により試合がはじまった――。