No.61 隙
ようやく復活です。これからガンガンいくのでよろしくおねがいします。
「お、おい……白川のキャプテンってどういうことだよ!?」
カズがどこかの高校のキャプテンをつとめていることは、前々から知っていたが白川とは初耳だ。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
カズはとぼけたような声で言った。いや、もしかしたら本気でいい忘れてたのかもしれない。
「残念ながら一度も聞いてないぞ」
「あ〜、スマンスマン! 別に隠すつもりはなかったんだ。それに………」
「それに?」
今度は優が不思議そうな顔でカズの次の言葉を待っているようだ。
「聞かれなかったから」
……………うん。
なるほど、カズらしい答えだったな。
そんなことを考えていた俺に、カズが話しかけてきた。
「まぁ、今は試合中だ。今度詳しく話してやるから今は試合に集中しようぜ」
「別に話さなくてもいいけどな」
「ははは」
俺のいい放った言葉を聞いたカズは微笑した。
試合が再会される。
またいつものようにカズがボールをドリブルし、辺りを見渡す。
「(純也にはあの巨大な大蔵がマークしていてインサイドは少しきついかな? 中のディフェンスを薄くするとしたら………)」
カズは何かを思い付いたようにマッチアップしているディフェンス、石塚を見る。
右にいったんフェイントを入れ、左から抜き去ろうとする。
「ちっ!」
石塚はそれをよんでいたらしく、左に移動する。
カズは流れに逆らって、自分の後ろにボールをまわして、右からディフェンスを振り切った。
「なにっ!?」
抜かれた石塚は急いでカバーに行こうとする。
カズがゴール付近に近付き、レイアップシュートの体勢に入ったときだった。
「ノー! 行かせませンヨー!」
純也をディフェンスしていた大蔵がカバーに来ていた。
ブロックのタイミングはバッチリ。大蔵はカズから放たれるボールを待っていた。
しかしカズは、空中で体をひねり、大蔵とリングに背を向けるような格好になる。
そのまま自分からは見えないリングに向かってシュートした。
いや、シュートにしては高すぎるかもしれない。
リングの淵にも当たらずにボールがリングをスルーしていた。
――タタタッ!
しかし、その外れたボールの行方を的確に追っている者がいた。
純也である。
純也はあらかじめボールが入らないことを予想して、皆よりイチ早いタイミングで飛んでいたのだ。
空中でボールをキャッチする。
そしてそのままリングに叩き込んだ。
――ダァァンッ!
リングがミシッという音をたて、何度か縦に揺れたあとぶら下がっていた純也がリングから降りる。
『ウォォォッ!』
『いいぞぉ!』
見事にアリウープが決まったら。このプレーはあらかじめ、計画されていた訳ではない。
途中でカズがパスすると判断した純也が、それに早く気付き行動に起こしたのだ。
カズ、純也、優の三人は小さなころからのストリート慣れにより、こうしたアドリブの利くプレーが身についていったのであった。
「カズ、ナイスパス!」
「ああ、純也こそな」
二人のハイタッチが交される。
「ちっ! やられたぜ」
それを悔しそうな表情で見ている石塚がいた。そんな石塚に後輩のハンターこと杉山が言った。
「まぁ、今のはしかだねべさ。気をとりなおしていぐべよ」
「まぁな」
城清チームのガード、石塚がドリブルを始める。
それにカズがついていく。カズのデフェンスは相手にとっても嫌なようで、適度にプレッシャーをかけながら、また、抜かれないような間合いを保ちながら石塚を徹底マークしていた。
「ちっ、ストリート出身者はディフェンスがお粗末なことが多いんだが、さすがは森村といったところか…。だが!」
石塚が左右に上体を振り、無理矢理きりこもうとする。
「俺のスピードについてこれるかな?」
キキッ!
並外れた加速により、カズを振り切った。
そして純也のブロックをかわしてシュートをきめる。
『わぁぁぁ!』
会場がどよめく。
「お、おい……大丈夫か?」
心配した優が声をかける。
「ああ……すまない。もう大丈夫だ」
「そうだぞ優!カズにいらねぇ心配すんな」
純也は相変わらず気にしてないようで、さあ気をとりなおして次いこうぜ、と言ってオフェンスにまわった。
その後も激しい攻防が続く。
ダァァン!
『おお!今度は大蔵が決めたぞ!』
ハデさはないが、純也の上から大蔵がダンクを決める。
「フォウ!」
理解のし難い奇声をあげ、石塚とハイタッチした。
「ノってきたな。そうなったお前を止めるのは難しい」
石塚がうすら笑いをうかべ、大蔵にいったのだが、全く耳に入らないほど、テンションがあがっていた。
前半の残りもあとわずかというところで、城清が一本差でリードしていた。
sky bombの攻撃がはじまる。
カズにボールがまわるが、まわりも徹底的にマークされており、油断はできない。
「さすがは基本ができているな……」
(目には目を……)
カズはポストにあがった純也にパスをだした。
大蔵がしつこくマークする。
「ココはワタシがイルカギリ、トオシマセンヨ〜」
「ったく……。さっきからうるせぇ野郎だぜ」
純也純也がそうつぶやき相手をかわそうとする。
「隙ナドアリマセーン」
大蔵は大きい体を横一杯にのばした。
「へぇ、たしかに隙がねぇや」
そういって純也は笑みを浮かべた。
「一般人ならな!!」
地面を強く蹴り、純也が宙を舞う。そして、大蔵の上から思いきりダンクをかました。
ドォォン!
激しい音がなり響く。
「『上』ががらあきなんだよ!このウグイス野郎!」
『わぁぁ!!』
『いいぞぉ!』
次々と繰り出される技に観客のテンションは最高潮に達していた。
「くっそぅ…」
石塚がオフェンスにまわる。どうやら前半はリードで終わりたいようだ。
再びカズとのマッチアップになった。
「また抜いてやるぜ!」
石塚は何度かフェイントをいれたあと、怒涛のドライブを見せる。
――よっしゃあ!
すぐさまカズの手が石塚のボールをカットした。
「なにぃ!?」
ビィィ!
そして、前半終了のブザーがなり響いた。
「イエー!さすがカズ!」
純也たちはベンチにもどりながら、嬉しそうにハイタッチした。
それを悔しそうに石塚と大蔵が見ている。杉山は相変わらずボーっとしているようだ。
石塚は自信のあるドライブをかわされ、大蔵にいたっては、自分よりもかなり背の低い人に、自分の上からダンクを叩き込まれたのだ。
「ゆるさねぇ…」
「百倍ニシテカエシテヤリマショー」
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ベンチに座りながら純也がカズに言った。
「お前よく止めたなぁ」
「たしかになぁ」
優も感心していた。あの場面でのあのディフェンスは今後にも影響すると思ったのだろう。
カズは少し間を置いてから語り始めた。
「見つけたんだよ。ヤツ(石塚)のクセってヤツをさ」
その言葉を聞いた純也と優の2人はすぐにカズの方を振り向く。
「なんだって!? それは確かなのか?」
優の言葉にカズは笑みを浮かべながら答えた。
「あぁ。まさか、とはおもったんだが、間違いないだろう」
カズは名門白川のキャプテンにして、ポイントガードである。相手のクセを見抜いたり、試合全体の流れを見たりするのは日常的に行っていたことだ。
――さすがはカズ。敵にまわしたくねぇ野郎だぜ。
純也はきっとそう思っていただろう。
「それで、笑うなよ? そのクセってのはな……」
カズが2人にむかって、小さな声で話始めた。