No.55 バケモノ
俺たちのオフェンスが始まった。
まずは司令塔、カズが一人でかきまわす。ドリブルで相手を抜き去る。
『くそっ!』
当然、抜かれた相手はカズに必死について来るようだった。カズに操られていることも知らずに。
そして、カズはある位置に向かって行き、急にブレーキをかける。勢いあまったディフェンスはそのまま体が流された。
『えっ!?』
ゴンッ!
『痛てっ!』
カズは見事に、相手のチーム同士を衝突させることに成功した。まさに計算された動きであった。
「優! 打て!」
「おっけ〜」
カズのパスを受け取った優は、ノーマークでノビノビとシュートを放った。
パスッ!
美しいフォームから切り出されたシュートは、リングに当たることなく通り抜けたのだった。
「ナイッシュ!」
「ああ!」
俺と優は軽くハイタッチを決めた。
次はディフェンスをするために、相手の攻撃にそなえる。
『チクショウ! いくぞ!』
『ああ!』
相手はサエジマ中心に攻撃を組み立てるのだが、俺たちの守りにより中に入ることさえできなかった。
『クソッ! ボールをよこせ!』
仲間からボールをもらったサエジマはディフェンスの優をなんとかふりきった。俺に向かってドリブルをしてくる。
俺はただちにカバーに入ることにした。サエジマも味方を使おうなんて、これっぽっちも考えていないらしい。一人で突っ込んでくるようだった。
『ははは! お前だけは許せねぇんだよ! 吹っ飛べや!』
サエジマ自分の体重を肩にのせて、俺に体当たりをしてきた。もう退場覚悟ならしい。
ドンッ!
『あれっ?』
ニヤァ
俺は不気味な笑みを浮かべ、リング下に仁王立ちしていた。
俺に体当たりをしてきたサエジマが宙を舞う。その顔には、なぜ自分が吹っ飛んでいるんだ? という文字が浮かんでいた。
答えは簡単さ。
お前が弱いだけ。
もしくは、俺が岩の石川であるからだ!背番号も6だしね。
なんちって。
俺たちがルーズボールを拾い、オフェンスが始まった。
カズは優にボールを渡した。優はドリブルで移動しながら辺りを見渡した。
そして、
「純也、そろそろ決めろ」
「ああ」
俺は優からボールをもらった。そろそろ相手にトドメをささないとな。
俺はディフェンスの目を見ながらドリブルしている手を後ろに回し、自分の後ろでドリブルをする。
そのまま上体を少し落とす。
これで相手からはボールが見えないはずだ。
ディフェンスは急に来るディフェンスにそなえて、俺の後ろにあるボールに神経を集中する。
俺は手首のスナップを使ってボールを相手の頭上を越えるように弾いた。
相手はまだ俺の後ろにボールがあると思い込んでおり、かなり集中して入る様子だった。
俺の弾いたボールは優がポストで受けとる。
「残念、もうボールは無いよ」
『えっ!?』
俺は笑みを浮かべながら両手の掌を相手に見せた。相手はかなり混乱している様子だった。
さ、遊びは終りだ。
俺は中へ切り込み優からボールをもらう。そしてドリブルでリングに向かって走っていく。
『させるか!』
サエジマともう一人のヤツが二人がかりでリングを死守する。はたして二人程度でこの俺を止めることが出来るかな?
俺はリングに近付いたところでおもいっきり地面を蹴る。
ディフェンス二人もそれに合わせてとんだ。
俺は相手ディフェンスをかわそうなんて思ってはいない。容赦なく相手に激突していった。
ダァァンッッ!
リングが激しい音をたてて揺れた。
俺のディフェンスをしていたやつらは後ろに吹っ飛んでいた。
俺はリングにぶら下がり、そいつらを見下ろした後リングから降りる。
『ひっ……ひぃぃ』
サエジマは近付いてくる俺を見るなり、かなり脅えているようだった。
俺はサエジマにお互いの鼻がつきそうなくらい顔を近付け、喋った。
「わりぃわりぃ。あんまりもろくて吹っ飛ばしちまった………」
そしてにらみつけて一言。
「ハンパにストリートやってきたわけじゃねえんだよ。これ以上やるってんなら…………」
『………ゴクリッ』
「潰しちまうぞ?」
『う、うわぁぁっ!』
サエジマは立ち上がり、審判にかけよる。
『しっ、審判!』
『ん? どうしたんだい? 今、相手はチャージングだから君たちボールからだよ』
サエジマはそんな言葉も聞かずに慌てて喋る。
『おっ、俺ら棄権させてくれ! な、なぁ?』
サエジマは他のメンバーに急いで確認をとる。
『あ、ああ!』
他の二人も、首を物凄いスピードで縦に何度も振っていた。
そして、
『じ、冗談時じゃねぇ! あんなバケモノとやってられっか!』
そんなことを叫びながら、会場から急いで逃げていった。
………………。
沈黙がこの場を支配する。観客は訳がわからない様子だ。
審判は戸惑いながらも一言、
『SkyBombの勝ち!』
――――――
――――
――
『はっはっはっは!』
ここは控室。
この控室中を俺、優、カズの笑い声が支配していた。
「純也、あれはやりすぎだろ、ははは」
カズは笑いながら俺に語りかけてきた。
「いや、本当に軽く吹っ飛んだんだよ。手加減したって」
俺には良心があるんだよ。うん、たぶんね。
「しかし、あれは傑作だったよなぁ……サエジマが言った言葉覚えてるか?」
優が突然そう言った。そして、
『ひ、ひぃ〜』
俺たち三人の声がハモる。そして再び爆笑の渦に包まれたのだった。
『ずいぶんたのしそうね』
「ん?」
俺は突然声のした方を振り向く。そこには見覚えのあるヤツがいた。
「おう、久留美か。勝ったぞ」
「勝ったぞ、じゃないでしょ? まったく………無茶しちゃって……」
『無茶じゃねぇよ。アイツらから先に手をだして来たんだ』
「確に……優くんが蹴られたときは観客席の女の子たちが大変なことになってたわ」
久留美も何かを思い出したように笑っていた。
とりあえず、俺たちが勝った。一日目は三試合。つまり、次を勝てば一日目の日程は終了だ。
俺たちは決して負けることは出来ない。
コートのためにも頑張らないとな。
しばらくは笑い声が控室になり響いていた。