No.50 猛反対
『なんでだよ!? こんなボロい土地、買ったって意味がねぇだろ?』
「落ち着け! 困ったことにこの土地は買ったところで何にも利用されない」
『じゃあ何でだよ?』
俺は続けた。
「最近、俺たちのようなガラが悪い奴らが商店街の近くにたまっているのが目立ちはじめたそうだ。もちろん、俺たちは悪いことをしているわけではない」
『ってことは、俺たちが集まらないように、土地を買い取って立ち入りを禁止するってことか?』
「そうだ。物分かりがいいな」
まわりのメンバーは、いても立っても居られない様子で激怒したようだった。
『冗談じゃねぇ! 買い取ったヤツをブン殴ってやる!』
暴れはじめたヤツに、優は言った。
「県が買い取ったんだ。下手な事をすると警察ざたになるぞ?」
『警察が恐くて不良なんかやってられっかよ!?』
突然、一人の男が落ち着いた様子で話しはじめた。
『でも、もし買い取られたとしても、また違うところにコート作ればいいだろ? 粗末なもんだし、すぐに作れるだろう』
その言葉にまわりの奴らが賛成する。
『おお! 確かに!』
『その手が有ったか!』
『リングを置くだけだから簡単に作れるもんな』
俺は、やれやれと言った様子で話しはじめた。
「確かにいい案だ。だが、お前等は本当にそれでいいのか?」
『え?』
「俺はこのコートに沢山のおもいでがある。お前等もそうだろ? 俺にとってこのコートは原点なんだ」
黙り込むメンバーに続けて言う。
「このコートが無くなったら俺はバスケを辞めるね」
まわりがみんな、黙り込んでしまった。
やはり、みんな俺と同じようにこのコートは特別な存在なのだろう。
「だが、可能性が無いわけではないぞ」
『え?』
みんな一斉に顔をあげる。
「実は俺、買い取るヤツに問い合わせてみたんだ」
************
『もしもし、こちら環境管理…』
「うるせ〜!! とっとと商店街の近くの土地を買い取る責任者にかわれ!」
『あの……どちら様で』
「うるせぇ! さっさと変われっつってんのが聞こえねぇのか!」
『は、はい、ただ今』
そしてしばらくの間をおき、ナイスミドル的な声が聞こえてきた。
『はい、変わりましたが』
「てめぇ! 商店街の近くの土地を買い取るってどういうつもりだ!?」
『ああ、なるほど。君があの不良グループのリーダーかね? どうもこうもない。ただ買い取るだけだよ』
「だからそれがワケわかんねぇって言ってんだろうが!」
『君たちはがあの土地にたまっているのに不満を覚える人も少なくなくてね、とくに商店街に頻繁に買い物にくる客のことだが』
「迷惑かけてねぇだろ!?」
『やはり不安なんだよ。君たちのような人たちが集まったら何をしでかすかわかったもんではない』
「俺たちは真面目にバスケットが好きで練習してるだけだ」
『………』
「たしかにガラのワリィやつだっているさ。だけどな、奴らはバスケが好きで集まってんだよ!」
『………』
「何とか言えよ?」
しばらくして、電話の受話器から声が聞こえた。
『わかった。ただし、コート存続には条件がある』
――――――
――――
――
************
『ストリートバスケ大会?』
周りの奴らが口をそろえて言った。
「そう。このコート存続の条件は今週の土、日曜日の二日間で開催されるストリートバスケ大会で優勝することだ」
土、日曜日で助かったぜ。月曜からは関東カップがあるからな。
ちとばかり、ハードスケジュールになるがな。
「本当にバスケが好きで練習をしているなら優勝できるだろう。とのことだ」
『でも、誰がでるんだ? 純也と優は確定だろ? あとの一人は……』
みんな、お互いの顔をあわせはじめる。
残念ながらこのコートには飛び抜けて強いヤツなどいなかった。
沖さんがいたあたりだと何人かいたんだが……。
『な、なぁ純也。その大会ってレベルはたけぇのか?』
一人が心配そうに問い掛けてきた。
「ああ、間違いなく高い。優勝チームには20万円の賞金があるそうだ」
『おお〜!』
「だから県外からも優れたチームが集まるんだ。俺が昔出場した時よりもレベルは格段に上がっているだろうな」
『そんなに強いのか!? ど、どうする?』
ここは悩みどころだ。ここにいる奴らには悪いが、コイツらではいいところまでは行けても、優勝できるかと言うと、微妙だ。
俺と優だけではキツすぎる。ましてや、優は少しのブランクもある。
どうしたらいいんだ……。
『どうして俺を呼んでくれないんだ?』
!?
突然、コートの入り口から声が聞こえた。
姿はまだ見えない。
やがて、その声の主はライトの照らす範囲に入ってきた。
その人物を見た誰もが驚いた。
「カ、カズッ!! どうしてここに?」
特徴のあるドレッドヘアー。
そこにはなんと、コートが出来て以来の天才児と呼ばれていたカズ、こと森村一輝がいた。
「久留美ちゃんに教えてもらった」
やがて、カズの後ろから久留美が顔をだす。
『よ!』
何が『よ!』だよ。いきなりカズを呼んでくるとはな。
「純也、俺だってこのコートには愛着があるんだ。呼んでくれないなんてみずくさいぞ?」
「いや、だってカズは関東大会予選があるからやばいだろ? キャプテンだし」
「それはお前も同じ条件だろ」
「ははっ、そうだな。スタメンかはわからねぇけど……しっかし、そろっちまったな」
俺は優に向かって話し掛ける。
「ああ、久しぶりだな。このメンバーは」
俺は気合いを入れるようにしていった。
「しゃあねぇ……こうなったら本気でやってやろうじゃねえか!!」
『ああ!』
そう言って俺たち三人は空を見上げる。
夜空には沢山の星が輝いていた。