No.46 ライバル心
そして、
『わぁ!!』
『す、すげぇ! ダンクだぜ?』
『トマホークかよ!?』
的味方関係なく声援が純也に向けられた。
それに調子にのった純也は、リングにぶらさがったままピースサインなどをしている。
「イエーイ! みたか野郎共!」
ピィー!
「ん?」
突然審判の笛が鳴り響く。そして、
『ファール!』
「はぁ!? 何でだよ?」
その純也の頭を亮は叩いた。
「イテ!? なんだよ!?」
「ぶらさがりすぎだ。ちゃんと手を上げろ」
「なんじゃそりゃあ? そんなルール知らねぇよ。ダンクの特権は敗北者を見下ろすことだろうが!?」
薫が純也に近付き、呆れた様子で注意した。
「はぁ……途中までは良かったんだが、まだまだだったな」
「今のは完璧だろうが!!」
『青、6番、手を挙げて』
審判が純也に向かって注意した。
「ちぇ、しょうがねぇな」
渋々手を挙げたのだった。
その後も、永瀬のドライブ、純也のゴール下、さらに駄目押しの木ノ下薫のスリーポイントにより、朱雀高校は爆発的な得点力を見せる。
博司は少々相手が悪く、少しばかり失点がみられたが、練習の成果がでて、最小失点に抑えることに成功する。
相手チームの加藤は、リズムが崩れてしまいまったくシュートが決まらなくなったのだった。
朱雀の欠点がみられたと言えば純也のファールだ。
純也はダンクによるチャージング、荒々しいディフェンスによるファールが積み重なり、試合時間残り約一分と言うところで5個目のファールをし、試合初出場でわずか20分の間に初退場という、ある意味偉業を成し遂げた。
試合が終わってみれば、83ー64という、前半の結果が嘘のような快勝だった。
石川純也の初出場(18分52秒)
合計16得点
ファール 5(退場)
という結果に終わった。
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ふぅ、勝った勝った。楽勝だったな。
控え室に戻り、勝利の余韻に浸っていたときだった。
『しつれい』
控え室のドアが開き、人が入ってきた。あれは確か……佐川商業の監督じゃねぇか?
『薫くんは居るかね?』
「はい? 何でしょう?」
いきなり入るなり薫を指名してきやがった。
佐川の監督は握手を求め、薫の前に手をだす。
それに薫がてを重ね、握手をする。薫! チャンスじゃねぇか! 相手のボディがガラ空きじゃんかよ!!
『いい試合をさせてもらったよ』
佐川の監督は薫に話し掛けた。それに薫が答える。
「いえ、こちらこそ、あのセンターはいい経験になりましたよ」
『はは、松岡か。ヤツはまだまだだったな。また1から鍛え直しだよ』
「そうですか……それじゃあ、ますますこれからの試合が厳しくなりますね。僕達も負けないように頑張りますよ」
『ははは、そうだな。お互いに頑張ろう! それと……』
佐川の監督の顔が真面目な顔になる。
『後半からでてきた子何だが……あの坊主頭の6番』
え!? 俺かよ?
「ああ、純也ですか。ヤツはまだまだですよ。試合では色々とご迷惑をおかけしました。なにせ、純也は公式バスケ初めてまだ一ヵ月なので、まだルールは完全に覚えてないんです」
『いっ、一ヵ月だって!?』
監督の顔が驚愕の顔となる。
いや、俺、一ヵ月って言ったって、小学三年生からバスケをやっていた訳で、ヘタをすりゃ、今の高校三年の奴らよりはバスケ暦は長い訳で……。
「ええ、ですから今日もわずか19分で退場という結果に……」
『ということは彼はまだ一年生か……いい部員が入ったな』
「はは、手はかかりますけどね」
殺すぞ、薫! 俺はじゃが芋並みに手が掛からずに育つんだぞ!!
『これからの努力次第で、とんでもない化け物になるな。それと、薫くん。君に加藤からの伝言があるんだが……』
「加藤から、伝言?」
『ああ、今度会ったときは絶対に倒してやる、覚悟しな! ってね。ははは、とんだ恐れ知らずでして……加藤はなぜか薫くんにライバル心を持ってるんですよ』
「ライバル心……ですか。じゃあ俺からも伝えて下さい。『じゃあまず、不安定な精神をしっかりと治してからこい』と」
佐川の監督は笑いながら答える。
『ははは、こりゃあヤツにいい薬になるな。ヤツは精神的にムラがありまして、今日から猛特訓をはじめるに違いない。それじゃあ、忙しいとこ、失礼したね』
「はい、ありがとうございました」
パタン、とドアが締まり、監督の姿が見えなくなる。
俺は薫に近づいて話し掛ける。
「ったく……最初から俺を試合に出していれば圧勝だったのによ」
「いや、まだまだお前は課題だらけだ。第一、スタメンで出場していたとしても、どっちにしろ19分で退場だから変わらないだろ」
「審判がファールを大げさに取りすぎなんだよ。どいつもポンポン吹っ飛びやがって……ちゃんと飯食ってんのかよ」
「お前のは荒々しすぎるんだ」
「公式ってのはメンドクセェぜ」
「やれやれ……」
呆れた顔をする、薫だった。
ころで来週の関東大会もベンチスタートかな?
困ったものだぜ……。
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このとき、純也は来週の関東大会に思いもしない結果が待っていることは、まだまだ当然のように気付きもしなかった。