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No.44 トラッシュトーク


「はぁはぁはぁ」


 疲れて息のあがっている俺に薫は話し掛けてきた。


「もうアップはいいみたいだな」


「ああ、どっかの暴力女のおかげですよ」


「だれが暴力女よ!!」


『ジリジリジリ』


 再び火花が散る。


 そんな俺を落ち着かせるように薫はいった。


「落ち着け、試合前から体力を消耗しすぎてどうする?」


「ん? ああ、わりぃ」


 薫は部員たちに聞こえるような声で言った。


「よし、そろそろ試合が始まるな。集合!」


『オス!』


 薫の周りに部員たちが集まる。


『今日の相手は佐川商業。センターの松岡のポストプレイと、フォワードの加藤のドライブを中心としたチームだ! 実力は同じくらいだと思うが、フォワードの加藤は調子にのらせたら次々に得点してくる。みんな、最後まで気を抜かないように!』


『オッス!』


 部員たちの気合いの入った声が体育館に鳴り響く。


************


 ここは相手側ベンチ。

 監督が部員を集め話しはじめる。


「朱雀さんはなかなかいいチームだ。元全中MVPの木ノ下薫が常にチームをリードして流れを作っている。かれを止めるのは至難の業だろう。しかし!!」


 監督は顔をしかめ、少し声のトーンをさげる。


「木ノ下薫以外は物足りない。センターの実力だってうちの松岡のほうがあるだろう。ほかにもフォワードからだっていくらでも付け入るスキはある。シューティングガードの我利勉はよほどのフリーにならないかぎりシュートは打ってこない。適度にプレッシャーをかけておけば大丈夫だ」


『オッス!』


 部員たちは返事をしてベンチに戻る。


「おい、松岡、加藤」


 監督が主力メンバーの二人を呼ぶ。二人はまた、監督に歩み寄る。


「5番、センターの永瀬や7番の小田原より、明らかにお前たちのほうが実力が上だ。松岡、相手のセンターには絶対に負けるなよ」


 松岡と言われた男は監督に向かって話しはじめる。


「まかせてください。僕の方が身長も体格も上です。絶対に負けません」


 更に加藤。


「おい松岡、あんなヒョロヒョロしたヤツなんかぶっとばしちまえ」


「おい、加藤。期待してるぞ」


 加藤は拳を握りしめ、監督に言った。


「まかせてくださいよ。全中MVPだか何だか知らねぇが、俺が倒してやるぜ」



――――――


――――


――



************


 試合が始まった。俺はさっきの話し通りベンチスタートだ。


 まず亮がドリブルをしながら周りを見る。


 そのボールが薫の手に渡る。


 中に入った永瀬がボールをもらい、シュートに行こうとしたときだった。


バシッ!!


 195センチの大型センター松岡のブロックにより阻止されてしまった。

 そしてそのまま相手チームは得点をした。


 朱雀のチームはほとんどが外からのシュートで、佐川商業は中からのシュート。

 リバウンドも相手の松岡に支配され苦しい展開となった。

 ディフェンスの方も、相手チームのエース、加藤のドライブ力の前にうちの小田原君はまったく歯がたたずに次々と得点される。


 薫も頑張って巻き返すが、永瀬が完全に捕まり、厳しい状況だ。


 ドリブルをする加藤に、薫がついていく。


 荒々しいが、ファールギリギリの強引なシュートを放つ。



パスッ!


 見事にリングに吸い込まれた。


シュートを決めた加藤は、薫のほうを向き、突然言った。


「こんなもんかよ? 全中MVPも落ちたものだな」


「!?」


 驚いた顔を見せる薫。


 加藤は自分のディフェンスに戻る。


「薫さん、気にしないでください!」


「……ああ」


 心配になった長谷川亮が話し掛ける。

 まぁ薫があんなので取り乱したりするはずはないと思うが。


 その後もシュートを打つが、相手のほうがシュートの回数も多く、確実に決めていった。


 そして、


『ビィィッ!』


 前半の終わりを告げるブザーが鳴り響く。

 スコアを確認すると、45―28という大差をつけられ負けていた。

 部員たちは無言で控え室に戻る。


――――――


―――


――



「すまない、相手のトラッシュトークで思わず熱くなってしまった」


 薫が控え室でみんなに謝る。それにあわてて長谷川亮が言った。


「薫さんのミスでは無いですって。なんかあのセンターやりにくいんですよ」


 松岡とつねにマッチアップしていた永瀬が答える。


「ああ、さすがに10センチ差はキツイぜ。なぁ薫? どうするつもりだ?」


 その言葉を聞いた薫は一旦目を閉じる。



そして、俺に向かって言った。



「純也、博司、後半行くぞ!」


 やっと出番が来たか! 

あの加藤とか言うヤツ気に入らねぇんだよ。


「ええ!? 僕も!?」


 やはり博司は驚いているようだった。


「うるせぇ! 練習の成果みせろよ!」


「う、うん。わかったよ、純也くん。やってみるよ」


 17点差か……これ以上はきついな。


 そして俺たちは控え室からまた、試合会場の体育館へと向かった。



――――――


――――


――



『それでは、両チーム、スタンバイしてください』


 審判が両チームに向かっていった。


 薫が気合いを入れる。部員たちも真剣だ。


「気合い入れていくぞ!!」


『オウ!!』


 両者が中央に集まった。加藤が薫に向かって一言。


「気合いを入れたところで何も変わらねぇよ」


 その言葉に薫は軽く笑みを浮かべながら答えた。


「やってみなきゃ、わからんさ」




 俺たちの攻撃が始まった。

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