No.43 スタメン!?
「スターティングメンバーを発表する!」
『オス!』
キャプテンの薫の言葉に、並んでいた部員たちは一斉に返事をした。いつもとは違う、部員たちの気合いの入った表情がうかがえる。
それもそのハズ、今日は練習試合なのだ。会場も朱雀高校体育館なので普段の練習試合より少しだけ、早起きしなくていい。
ちなみに、相手の高校はまだ来てない。
「まず、4番スモールフォワード、俺」
そう言って薫は自分の胸に手を当てる。
ん?薫がフォワード?なんか引っ掛かる……
「5番、センター、永瀬勇希」
「はい」
永瀬は返事をし、マネージャーからユニフォームを受け取る。
「7番、パワーフォワード、小田原君」
「はい!」
はぁ? 俺じゃねぇのかよ!?
特に顔に特徴もない、なんとも言い表わしがたい小田原君は、元気良く返事をしてマネージャーからユニフォームをもらう。
「8番、長谷川亮」
「はい」
くそ〜……何であいつが!
「9番、我利勉翔太、以上!!」
「ちょっとまった!!」
「ん? どうしたんだ純也」
「俺、レギュラーじゃねぇのかよ?」
俺は必死に薫に抗議する。
「ああ」
たった二文字で返されてしまった。
「冗談じゃねぇ! 後悔するぜ?」
「純也、良く聞け」
「あ? なんだよ?」
真面目な顔をして薫は話しはじめた。
「確かにお前はなかなかの実力を持っている。しかし、技術があってもそれを試合で発揮する技能が無くては意味が無い」
「俺は技能MAXだっつーの!」
「だから少しずつ試合慣れをしていくんだ。だから、後半……」
薫はひとまず間を置き、再び語りはじめる。
「後半はお前を試合に出すから、しっかりと体を温めておけ!」
「!!」
や………………
やったぜぇ!! 俺の試合初デビューかよ!!
「よっしゃあ! 薫! その言葉、絶対に忘れんじゃねえぞ?」
薫は軽く微笑んでから、
「ああ」
と、再び2文字で答えた。
――――――
――――
――
そしてレギュラーの奴らはアップをはじめる。
補欠の俺たちはムカつくことに、モップがけ、オフィシャルの準備など、かなりコキを使われていた。
「あ〜、マジダリィ……俺も試合に出るんだったらアップさせろよな」
「こら、つべこべ言わずに働きなさい。ほら、ボールカゴ持ってきて」
俺の横にはスコアブックを持った久留美の姿があった。
「はぁ、なんだ、お前かよ。ビビらせやがって」
「ちょ、ちょっと! 何よその態度は!?」
「しらね」
俺はそう言って鼻糞をほじる真似をする。あくまでも『真似』だからな。
「ム、ムカつくわね」
久留美の表情がだんだん曇ってくるのがわかる。
俺は人差し指で久留美の額を突いた。
「きゃっ! ちょっとぉ! 何すんのよ!?」
「そんなに怒ってばかりだとシワだらけの顔になっちゃうよ、エヘ☆」
その言葉を聞いた久留美は一気に爆発した。
「もぉ〜怒ったわよ! 覚悟しなさい!!」
「うわっ!」
俺は追い掛けてくる久留美からひたすら逃げ回る。トムとジェリーのように。
ゴン!
「いてぇ!」
急に頭に衝撃が走った。何かが当たったのだろう。 足元を確認するとなぜかホウキが転がっていた。
「いてぇな! 飛び道具は卑怯だろ!?」
「アンタが悪いんでしょうが!」
「しらねぇよ!!」
『ジリジリジリ』
お互いの目線に火花が散る。花火に点火できそうなくらいだ。
そんなときだった。
『ねぇ純也くん』
「ん?」
俺は突然声のしたほうを見る。
「す、純麗さん!」
そこには何と、三年生のマネージャー、赤川純麗さんの姿があった。
「はい、何でしょうか!?」
「相手チームさんにだす麦茶を準備してくれる?」
「はい、喜んで!!」
「それじゃあお願いね」
「はい! わかりました!」
そう言って純麗先輩は他の仕事に取り掛かる。雑用も悪くないかもしれん。
そんなことを考えてると不意に後ろから冷たい視線を感じる。
『じ〜〜』
やはり案の定、久留美だった。
『じ〜〜』
「どうした?」
「アナタずいぶんと私と純麗先輩と話すときの態度が違うわね」
「当たり前じゃん。俺とお前の仲だぜ? 昔からのダチみてぇなもんじゃん。気使わなくてもいい仲じゃないか」
「ジュン……」
久留美はうれしそうな笑顔をする。
「それに、純麗さんは可愛いから特別なんだよ☆お前と一緒にすんな」
「…………アンタは」
久留美の背後から物凄い気炎がみえる。錯覚か!?
「アンタは……」
「お、おい……どうした?」
「いつも一言多いのよ!!」
またホウキを持った久留美が追い掛けてくる。
「わっ! じ、冗談だって! 早まるなぁ〜!」
「うるさぁ〜い!」
こうして、俺たちの熾烈な追い駆けっこは、キャプテンの薫がとめるまで続いたのだった。