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No.42 肉じゃが


 そんなことで――。


「お〜い博司! これってここに置いていいのか?」


「うん。気を付けてね」


「任せろって」


 さっそく仕事に取り掛かった。

 俺と博司は野菜をダンボールに入れてトラックの荷台に積み重ねる作業。

 久留美はそのダンボールにシールを貼り、どれだけ出荷したのかメモをとる作業。本来は博司の母さんがやっていた作業だ。


 ちなみに博司の父さんも一緒に荷物運びをやっている。身長は俺と同じくらい。いったい博司は何であんなにデカイんだよ?




「くそ……さすがに疲れるな」


 そう言ってダンボールを持ち上げる。野菜以外と重くて数をこなしていくにつれて疲れが増す。筋トレ並みに辛い。


「うんしょ」


 博司はフヌケた気合い声と共にダンボールを四個積み重ねて持ち上げた。


――!!?? 何だアイツは? 四個も持ち上げやがった!! くそ〜!


 俺は五個、ダンボールを積み重ねる。そして…


「ぬおおぉっ!」


 持ち上げた。


――さ、さすがにキツイぜぇ!


「ジュ、純也君! 大丈夫かい?」


 俺は笑顔を作り答える。


「ああ、余裕だぜ。それより早く終わらせようぜ」


「うん、そうだね。よいしょっと」


 博司はダンボール四個を軽がると持ち上げ、歩いていった。


――博司のバスケでの馬鹿力も納得がいく……



 俺たちは黙々と仕事を続けた。



――――――


――――


――



「ふぅ〜、終わったぜ」


 とりあえず仕事が終わった。かなり早く終わったほうだと思う。


「ありがとう春風さん。そして純也くん」


 博司がお礼を言う。かなり感謝しているようだった。


 携帯電話で時刻を確認せると、四時を過ぎたところだった。今からなら十分に練習ができる。


「それじゃあ博司。シュート練習に行くか」


「うん、でもちょっとまって」


 博司はそう言ってから一旦家の中に入った。

 そして出てくる。


「母さんがご飯作ったって。みんなお腹すいたでしょ? 食べていってよ」


 確かに。よく考えたら何も食わずに仕事をしていた。夢中になりすぎて気付かなかったぜ。


――――――


――――


――


『いただきます』


 俺と久留美の声がハモる。目の前には肉じゃがを中心とした料理が並んでいた。野菜も博司の家でとれたものだろう。


 俺は勢い良く目の前の料理を口に運ぶ。


「うまい!」


「おいしい!」


 そして、俺と久留美はほべ同時に声を発した。


「この肉じゃが、おいしいです。どうやって作ってますか? 私料理をやっているので参考にしたいです」


 久留美はこの肉じゃがの味に興味深々のようだった。


「そうかい? うれしいねぇ。料理なんて今時感心なこだよ。作り方はね、あとでメモをあげるから」


「あ、ありがとうございます!」


 とてもうれしそうだった。まぁ、久留美がこの肉じゃがを作れるようになればいつか作ってもらえるな。頑張れ、久留美よ。


 そして全員がご飯を残さずに食べおわった。


『ごちそうさまでした』


「よし、博司! 行くか?」


「う、うん」


「じゃあ博司の母さん、博司をちょっと借りるから」


「ふふ、どうぞどうぞ」


 にこやかに博司の母さんは答えた。


 俺たちは玄関から外に出る。外はまだまだ明るい。練習するには十分だった。


 玄関を見てみると博司の母さんが見送りにでていた。


「お邪魔しましたぁ」


 久留美がそう言うと博司の母さんは礼をした。


「ちょっと純也くん」


「ん?」


 博司の母さんが突然俺の名前を呼んだ。俺は近くに歩み寄る。何だ?何かいいたいことでもあるのか?


 俺が近くにくると博司の母さん、博司、久留美に聞こえないような声で言った。


「いつもありがとう」


「?」


 突然感謝されても困るんだが……


「博司のことだよ」


 なるほど。


「博司は優しい子でねぇ、小、中学校のときは文句も言わずに自分から仕事を手伝ってくれてね。遊びにもいかず、私たちは助かるんだけど、やっぱり友達がいるのかが心配で」


 更に話し続ける。


「高校になって部活を勧めたんだよ。はじめは気を使って嫌がっていたんだけど何とか返事をしてくれてね、バスケ部に入ったんだ」


――なるほど。


「そしたら急にあの子が明るくなって帰ってくるようになったんだよ。辛いけど部活は楽しいって。それでね、いつも純也君のことを笑顔で話すんだよ」


「悪口っすか?」


「悪口なんてとんでもない! 博司はいつも『わからないことをいつも教えてくれる。たまにキツイときがあるけど本当はとても優しい』って言うのさ」


「………」



「だからさ、これからも博司のことをよろしくね」


「は、はぁ…わかりました」


 俺は久留美たちのところに戻る。後ろを振り替えると博司の母さんが手を振っていたので礼をした。


「……博司、早く練習するぞ」


「え? う、うん」


「急げ! 走るぞ!」


「え!? ち、ちょっと!」


 俺たちはストバスのコートを目がけて走り続けた。


************



 前をみるとジュンと博司くんが駆け抜けていく。姿が見えなくなりそうだ。


 ジュンったら私もいたことを忘れていたようね。


 練習熱心なこともわかるけどもっと周りを見てほしいな。


……そう、周りを。



……………。



 いけない! 私ったら、急に何を考えてたんだろ?


 とりあえず博司くんのお母さんからもらった野菜もあるし、肉じゃがの秘蔵のレシピもあるし……帰りますか。



 あの練習熱心な人たちにジュースでも買って行ってあげようかしら?


 マネージャーも大変だわ。


 私は一人、コートに向かって歩いて行く。

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