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No.39 新たな風

「どうした!? ペースが落ちているぞ! 3対2、2対1の速攻はオフェンスが重ならないようにして確実に決めろ! ボールマンはカットインするなりして簡単なアウトナンバー(オフェンスがディフェンスよりも多い人数)を作ることも忘れるな!」


『ウッス!!』


 放課後、朱雀高校体育館ではいつになく大きい声で部員達に気合いをかけるキャプテン『木ノ下薫』の姿があった。


「キャプテン、気合いが入ってますね」


 マネージャーの春風久留美が部員に指示を出している木ノ下薫に話し掛ける。


「ああ、何せ関東カップが近いからな。少しでも気を抜けないんだ」


「そ、そうですか……。確かに大会まで2週間きりましたからね」


「ああ、そうゆうことだ」


 そう言って薫は再び練習に戻る。久留美は少々気合いに押され気味のようであった。


――関東大会


関東の高校が参加する大会である。インターハイ予選より早い時期に行なわれる。


 部員達はその大会に向けて必死に走り回っているようだった。


「よし! ひとまず休憩だな。休憩が終わったらすぐにセットからのオフェンスを始めるから、レギュラーとBチームは準備をしてくれ」


『ウ、ウッス……』


 ヨロヨロになりながらも部員達はマネージャー達が用意したジュースを手に取り、一気に飲む。

 そして地面に座り込んだ。


『き、キツイなぁ』


『最近のキャプテン、ピリピリしてねーか?』


『しかたねぇだろ? 大会が近いんだから』


 部員達はわずかな休憩時間で精一杯休んでいるようだった。


「大丈夫ですか? 我利勉さん」


 朱雀高校一年ポイントガードの長谷川亮が二年生の我利勉翔太に話し掛けた。我利勉はグッタリとしながら床に座っていた。


「だ……大丈夫…ゴホッゴホッ……だよ。ありがとう」


 見るからにアウトの気配が漂っていそうだった。亮は心配した様子で翔太に話し掛けた。


「そ、そうですか。 あまり無理をなさらないで下さいよ。ただでさえ速攻はフォワード、ガードが走りますからね」


「ははは、ありがとう。でもここでやめる訳にはいかないよ。みんなに迷惑かけるしね」


「そうですね……大会頑張りましょうね」


「うん」


 そう言って亮も我利勉翔太の横に座った。


 部員達が束の間の休息に全力で休んでいるときだった。


ダムダムダム!


『ん?』


 突然、聞こえたドリブルの音の方に部員達は目をやる。


 そこには休息もしないでシュート練習を始める純也の姿があった。

 ボクシングのシャドーのように、見えない敵と戦っているようだった。その相手が誰かはわからない。


「おい純也」


「ん?」


 薫が慌てて純也のもとへ駆け寄る。


「休憩のときはしっかりと休め」


「何で?」


「長時間ずっと練習するより、集中して練習、そして休む……の方がずっと身になるんだぞ」


「休憩なんて家に帰りゃあいつでもできんだろ? 第一俺休憩するほど動いてないし」


 純也の言葉に部員達はギョッとする。おそらく自分達と同じ量の練習をこなしているのにまだ練習したりない純也に驚いているのだろう。練習の辛さは自分達が良く知っているためだ。


「実は薫もあまり疲れてねぇんだろ?」


 純也のその言葉に薫は、


「……ほどほどにな」


 と、軽く笑みを浮かべていった。そのまま薫は休憩に入るべくジュースを取りに行く。


 そして、純也が練習を再開しようとしたときだった。


ダムダムダム!


「ん?」


 突然、純也は自分以外のドリブル音が聞こえたので、不思議そうにその方角に目をやった。


ダムダムダム!


 そこには自分と同じく練習をし始めた亮の姿があった。


「おい亮。疲れてんなら無理すんなよ。ひ弱なんだから」


 純也のツッコミに亮は『冷静に』答えた。


「はは、自分だけが体力があると思ってもらっちゃ困るなぁ。お前もあまり無理すんなよ」


 その言葉に純也は『笑顔で』答える。


「ははは、お前こそ! 足にきてんじゃねぇのか?ちゃんと飯食ってんのか?」


亮は『とても笑顔で』答えた。


「お前こそ瞳孔が開いてんぞ。無理すんなよ」


 純也は『歯の見えるような笑顔で』答える。どこからか歯ぎしりが聞こえるような……。


「余裕余裕。見よ、このボールさばき!」


 純也はそう言って物凄いスピードでハンドリングを始める。


「そんなもんかぁ?」


 今度は亮が持ち前のドリブルテクニックを披露する。


………………。




………………。




………………ニコ。



「おりゃぁぁぁあっ!!」


「はぁぁぁぁぁっ!!」


 純也と亮の馬鹿バトルが始まった。


「どうした亮?そんなへっぽこドリブル何かじゃ、いつでもスティールできんぞ?」


「お前こそ! そんなボールキープ力じゃあガードとして安心してポストにボールはだせねぇなぁ!」




………………。




………………。




………………ニコ。



「おりぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



 両者とも『ニコちゃんマークも真っ青なくらいの最高の笑顔で』ハンドリング、ドリブルテクニックを披露する。



「亮、お前背低いな」


「お前とたいして変わらねぇよ」


「お前のそのヘットバンド、かなり汚れてるな。俺が買ってやろうか? ごみ箱で」


「それほど練習を頑張ってるってことだよ! お前こそ顔洗ってんのか? 俺が洗ってやろうか? ゴム手袋で」



………………。




………………。




………………ニコ。



「ははは、お前は、え〜と……その、バーカ!」


「貴様、顔に鼻糞ついてんぞ!」


「貴様こそ、少し怒ってんじゃねぇのか? 顔が真っ赤だぜ? この『ゆでダコ』がぁ!」


「俺はオメーと違って紳士だから怒らねぇよ。俺を怒らせたらたいしたもんだよ」


「何長州風に言ってんだよ。このアンポンタンめ!」


「お前の母ちゃんデベソ!!」


「お前の父ちゃん水虫!」


 貴様等いくつだよ?



 二人の争いがデットヒートしてきたころ、二人の周りに変化がおき始めた。


『アイツらが練習してんだ。俺も負けられねぇなぁ』


『お、俺も!』


『よし!1対1やろうぜ!』


 突然他の部員も休息をやめ、練習しだした。どうやら二人に影響されたようだ。


 その光景を見ていた三年マネージャーの赤川純麗は木ノ下薫に笑顔で話し掛ける。


「あの子たち、朱雀に新しい風を吹き込んでるわね」


「う〜ん……」


「他の部員達にもいい刺激になってるんじゃない?」


 薫はその言葉に悩みながら、


「いい刺激か悪い刺激かはわからないけどね」


 苦笑いで答えた。




 そのころ二人は……


「クソ亮! 殺すぞ!」


「うるせぇ! ションベン純也!」


 今だに低レベルな争いを繰り広げていた。




「新しい風………確かに競争が生まれてチームの状況はいい感じになってきたな……」


 純麗の言葉に考えさせられる薫だった。

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