No.38 すたーと 終わり
『ナイスゲーム!』
準決勝を見事に勝利した俺たちは控え室に戻る。
するとストバスのみんなに祝福された。
『一輝さん! かっこよかったっす! さすがはコートができて以来の天才ッスね!』
「ああ、ありがとう」
おそらくカズのファンだろう。カズはこの大会でかなりのファンが増え、知らないバスケ少年から話し掛けられ、尊敬の眼差しでみられることになった。
『きゃ〜! 優くん! お疲れさまです!』
今度は優のファンクラブっぽいやつらだ。
あ〜、ウゼェ!! 早くどっかに行ってくんね〜かな?
『純也、ナイスだったぜ! ギャハハハハ』
……俺の周りにはこんな野郎ばっか。何だろうか、この怒りは?
「ジュン! お疲れ〜」
「ああ、久留美か」
「頑張ったね〜はいジュース」
「サンキュ」
久留美からもらったジュースを一気に飲み干した。
「次はいよいよ決勝だな! 頑張ろうぜ!」
カズがみんなに気合いを入れる。
『おっしゃあ!!』
――このままぶっちぎりで優勝だぜ!!
――――――
――――
――
と気合いを入れて望んだ決勝戦だったが、高さとスピードのあるバスケに苦戦する。そんな中でもカズのプレーが光り、接戦にもつれ込む。
とってとられてのシーソーゲーム。
しかし、カズの奮闘も虚しく、大会成績は二位という結果に終わった。
――――――
――――
――
「くそ〜! 4点差か……悔しいぜ」
「まぁまぁ純也。俺たちはよくやったほうだぜ? 初出場二位なんですげぇよ」
カズにそう言われたが納得がいかない。
控え室で俺とカズが話しているときだった。
ガチャッ!
突然控え室の扉が開かれる。
中に入ってきたのは二人。一人は見覚えがある。久留美だ。しかし、その後ろにいた人物は知らないヤツだった。
「久留美、そいつ誰だ?」
「こらジュン! そいつじゃないでしょう!?」
「その人誰?」
「もう……カズ君に用事があるって」
「え!? 俺!?」
突然のことに驚くカズだった。知らないヤツが話しはじめる。
『君がカズ君か。いい試合だったね』
「あ、ありがとうございます。あの…用事って」
『君と二人で話がしたい。いいかな?』
――――――
――――
――
************
カズとなぞの男以外誰もいない廊下。
「あの……用事って何でしょうか?」
『ははは、突然スマンね。私はこの高校でバスケの監督をしている者だ』
そう言って名刺を渡す。
「ふ〜ん…それで、何の用ですか?」
『突然だが君をスカウトしにきた』
「え!?」
驚いた様子のカズだった。
『試合をみていて君が中学生だと聞いたから急いで駆け付けたんだ』
「…………」
『どうかね?』
しばらく考え込んでからカズは答えた。
「……ここって私立だろ?わざわざそんなとこに言ってバスケしたいとは思わないね。ドレッドのことも言われそうだしな」
『別にその髪型でもかまわない。さらに、君を特待生として入学させる。どうだ? よい条件だと思わないか?』
「………」
『もっとレベルの高い所で頂点を極めたいとは思わないか? 君にはその力がある』
さらにカズはしばらく考え込む。
「……考えさせてください」
『そうか……急にすまなかった。決心したなら名刺に書いてある番号に電話してくれ』
なぞの男はその言葉を言い残し、廊下の奥へと消えていった。
「レベルの高い所……か」
――――――
――――
――
************
大会が終わり、俺はストバスのコートに直行する。
コートにつく頃にはもう七時を過ぎており辺りは薄暗かった。
俺は黙々と一人で練習をする。あのとき、俺がシュートを決めていれば優勝できたかもしれない……
そんな想いが体を動かさずにはいられないのだ。
敗北が俺を強くする。
カズに負けて悔しいから練習する。そうやって強くなってきた。
カズと言えば、大会が終わって帰り道、考え事をしていたようで一言も口を聞いてくれなかった。あの謎のおっさんと何があったんだろうか?
練習を開始してしばらく経った頃、コートに一人の人影が現われた。
その視線の先には……
「カズ!? いったいどうしたんだ!? 急に」
「ふっ、純也のことだから練習していると思ってな」
「ああ、悔しいからな」
カズは俺に次第に近づいてくる。
「なぁ純也?」
「ん? 何だ?」
「俺と1ON1しないか?」
「!?」
1ON1はいつもやっているのだが、なぜか今日は雰囲気が違う気がした。
俺はカズに言われたままに1ON1を開始した。
「純也! どうした!? それがおまえの実力か?」
「くっ!」
カズは強かった。フェイントがかなりうまく、さらにどこからでも点をとれる。
「純也、もっと本気でこいよ!」
「くそっ!」
カズに気合いをかけられ、俺たちは接戦になる。カズとこんなに競ったのは初めてだろう。近差の戦いが続いた。
「なぁ純也、これからもバスケを続ける気か?」
「え?」
カズの突然の発言に俺は動きを止める。
「隙あり!」
「!?」
カズは止まっていた俺を抜き去り、シュートを決めた。
そして、こっちを向いて一言、
「俺、高校行ったらバスケやろうと思うんだ」
「急にどうしたんだよ?」
「いや、さっき高校の監督にスカウトされてさ」
――あの謎のおっさん、監督だったのか。
「観てみたくなったんだよ」
「何を?」
「高いレベルのバスケってヤツをね」
そう言いながらカズはシュートをする。
外す事無くボールはリングに吸い込まれた。
「だからここ(コート)にはもうこれなくなる」
「………」
「安心しろ、俺とお前がバスケを続けているかぎり……バスケを好きでいるかぎり、きっとまたいつか戦えるさ」
突然のカズの言葉に俺はなんて言えばいいのかわからなかった。
「だからこの1ON1の続きはその時な」
そう言ってその場を立ち去ろうとしたカズ。
「ちょっとまてよ!」
「ん?」
「俺は今まで、カズを目標に練習をしてきた………。本当に……本当にまたいつか戦えるんだろうな?」
「ああ。いつか必ずな」
そう言ってカズは俺に背を向け、歩いていく。
「誰にも負けんじゃねぇぞ! 負けたら死刑だ!」
俺の言葉にカズは振り向きもせず、右手をあげて別れの合図だけをして、コートから消えた。
……カズ。
この時から俺とカズとの時間は確実に、音をたてて止まった……。
――――――
――――
――
………ジュン
――んん……。
……ねぇジュン!
「う……」
『ジュン! 起きろ〜!』
ユサユサユサ!
俺の体が揺れる。
――ん、んん。
「ん? あれ? ここは? カズは?」
目を明けるとそこには久留美の姿があった。
「なに寝呆けてんのよ!? カズ君なんてこの高校にいるわけないでしょ?」
――ん? 高校?
「なぁ久留美、ここはどこだ?」
俺の言葉に久留美は呆れた様子で答えた。
「はぁ? どんな夢みてたか知らないけどまだ寝呆けてるようね!? ここは朱雀高校教室よ、教室!」
「……教室」
――夢だったのか。懐かしい夢だったな。
「わりぃ、今何時間目だ?」
「もう終わったわよ。ジュンったら朝からずっと寝てたんだから!」
「マジで!?」
――道理で長い夢だったのか。
「マジよ!! さぁ、早く部活に行くわよ」
――ぶかつ?
――バスケ!!!
「おう!! 行くぜ!」
「ええ!? 急に元気に!?あ……ジュン! まってよぉ!」