No.35 すたーと その7
「ここは?」
優は俺に不思議そうに言った。
「バスケットのコートだよ。粗末なもんだけどな」
「バスケット……」
「知ってるのか?」
「知ってるけどやったときはない」
「ふ〜ん」
そう言って俺はドリブルをする。
「じゃあやってみるか?」
「ふ、ふざけるな!何でおれが……あっ!!」
優は俺が突然パスしたボールを落とす事無くキャッチした。
「ナイスキャッチ。ルールくらいは知ってるだろ?」
「一応な」
「よし、勝負だ!」
「まだやるとは言ってないぞ……」
「スキあり!」
俺は優からボールを奪い取る。
「スキだらけだな。よしっ!俺からボールを奪ってみろ!」
「くっ!このっ!」
優は俺のボールをカットしようと手を出すが、触れることができない。
俺はそのまま優をかわし、レイアップシュートを決める。
「2対0だ」
そして俺は優にボールを渡す。優はぎこちないドリブルで俺に向かってくる。スキだらけのドリブルなのですぐにカットすることができる。
「もらい!」
「あっ!」
そのままシュートを決めて4対0とする。
「ほらっ、お前の番だぞ」
「わかってる」
優は俺からボールを受け取ると、再びぎこちないドリブルで攻めてくる。
しかし、簡単にボールを奪われてしまう。
「おいっ!俺を止めたければもっと腰を落とすんだな」
「腰……」
俺は優にそう助言し、オフェンスを始める。
「遅いな」
俺は楽々優のディフェンスをかわしたかのように思えた………が
「くっそ!」
――何!?
優のディフェンスにより、とめられてしまった。優のディフェンスはぎこちないながらも必死に腰を落としている。
――こっ、コイツ、しつけぇ
「とった!」
少しのスキを突かれ、俺は優にボールをカットされてしまった。
「と、とった」
「い、今のはマグレだ!さぁ、早くかかってこい」
再び優のオフェンス。
「どうした?シュートしねぇと得点にねぇぜ?」
「っと」
優はリングから少し離れたところからシュートを放つが外れてしまう。
そのボールを俺はリバウンドし、今度はオフェンスをする。
「オラオラどうしたぁ!?もっとかかってこい!」
「……見てろよ」
その後も俺たちは時間を忘れ、ストリートバスケにうちこんでいた。
――――――
――――
――
「はぁ、はぁ、はぁ……優、なかなかやるな」
「はぁ、はぁ、……運動には自信があるからな」
俺たちはコートの隅に横たわっていた。コートでは他の人たちが試合をして楽しんでいる。
俺たちの試合は俺が勝ったのだが、かなり疲れてしまった。優の根性のディフェンスには正直まいった。
俺たちがそんな会話をしているときだった。不意に自分の頬に冷たいものが当たった。
「お疲れ〜。はいジュース。はい、優くんも」
「あ、サンキュー」
「……ありがとう」
それを俺たちは一気に飲み干した。
「なぁ優?」
息を整えた俺は優に話し掛ける。
「何だ?」
「楽しいか?」
その言葉を聞いた優は軽く笑みを浮かべる。
「ああ、こんなのは久しぶりだ」
「そうか……」
俺たちの会話が途絶える。聞こえるのはコートで試合をしている人のドリブルの音だけだ。
「お前は聞かないんだな。クラスのみんなは興味津々に俺のことを知りたがってたのに」
今度は意外にも優から話し掛けてきた。
「言ったろ?興味ない。話したいなら聞いてやるぞ」
「ふっ」
優は微笑する。そして話し始めた。
「俺の母さんが再婚する話は聞いているな?」
「んあ」
「前に離婚した原因は父さんの浮気なんだ」
「ふ〜ん」
「それも何度も。何回も目をつぶっていた母さんだけど、ついに怒って離婚さ。その時、母さんは泣いてたんだ。だからもうあんな思いをしてほしくないんだ」
「つ〜か、さっきお前の母さん泣いてたぞ」
「え!?」
優は驚いた表情で俺を見る。
「母さんには幸せになってほしいんじゃねぇのか?」
「それはそうだ……」
「新しい父さんにはもう会ったのか?」
「いや、まだ会ってない。」
「とりあえず会ってみたらどうなんだ?もしむかつくヤツだったら全力で反抗すればいい」
俺の言葉に久留美が続く。
「そうよ。会ってみないとわからないじゃない。それに………きっとお母さんだって幸せになりたいはず!」
「…………」
優はぼ〜っとして考え込む。そして、
「わかった。とりあえず会ってみるよ。ありがとな」
「べ、別に暇だったから聞いてやっただけだ」
そして、優は立ち上がりコートを去る。
「じゃあな」
「おう、じゃ〜な!母さん泣かせるなよ」
――俺んちだったら間違いなく死刑だな。
やがて優の姿も見えなくなり、久留美が呟いた。
「優くん……うまくいくといいね」
「んあ」
「クスクス、ジュンったら、興味ないフリして実は心配だったり♪」
「ああ!?なわけね〜だろ!きまぐれだ、き ま ぐ れ!!」
「『べ、別に暇だったから聞いてやっただけだ』だって……クスクス、かわい〜」
「うるせぃ!だまれぃ!」
「照れてる照れてる、子供ね〜、純也ちゃん♪」
「うがぁぁぁ!!」
――――――
――――
――
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レストランにて。
優の隣には母親。そしてむかいの席には、新しい父さんになる予定の男だ。
『この子が私の子供、優よ。ほら、あいさつしなさい』
優は渋々あいさつする。
「どうも………」
それに対し、男も言った。
『おお!コイツがお前の子供か。堅苦しいあいさつはなしにしよ〜ぜ!がははは』
「!!」
優は驚いているようだった。あまりにも意外な反応だったからだろう。
『クスクス、そうね』
話は進んでいく。優は相変わらず下を向いたままた。
そして、話も終盤に差し掛かった頃
『ねぇ優?何かこの人にききたいこととかある?』
『よし!何でも聞いてやるぞ!遠慮すんな』
「………」
下を向いていた優は顔を上げ、男に言った。
「お前は前の父さんみたいにはならないだろうな?」
『知らん。神様じゃねぇし、そんなことわかるはずねぇだろ?』
「なっ!だったらなんで――」
『ただ一つだけ、はっきりと今、言えることがある。』
「………」
しばしの沈黙のあと、男は口を開いた。
『俺はコイツを世界で一番愛してる。できれば一日中ずっと一緒にいたい。そして、これからもずっとコイツを見ていたい』
「………」
レストランが静まるかえる。恐らく他の客にも聞こえていたのだろう。優の母は顔を真っ赤にして男に言った。
『ち、ちょっと!!そんな恥ずかしいこと、大きい声で言わないでよ』
『がははは、別にいいだろ?京子、愛してるぜ!ベイビー!』
『もう!!』
『照れるなよ。おい、優だったか?お前の母ちゃんは頑固でさ、結婚してくれって何回頼んでも断りやがって』
『しょうがないでしょ、もう二度とあんな目にあいたくないんだから』
『心配するなって!ホラ、チューするかチュー』
『優、行くわよ!!』
『がはは、待てって!』
「ははははは」
『!』
突然優は笑い始めた。バカにするような笑いではない。
心からの、笑顔を交えた笑いだ。
きっと優はこのときこう思っただろう
――この人ならきっと………
――――――
――――
――
次の日。
キーンコーンカーンコーン
すべての授業が終わり、生徒達は下校する。
昨日は優の周りに沢山集まっていた生徒も今日はいない、さすがに二日目なので興味も薄れたようだ。
突然優は純也に話し掛ける。
『おい純也!』
『ん?』
突然話し掛けてきた優を純也と久留美は不思議そうに見つめる。
「早くストバスいこ〜ぜ!ホラ」
そう言って優は背中に隠していたものを二人に見せる。
二人の前にあらわれたのは新品のバスケットボールだ。
「おっ!バスケボールじゃんか!買ったのか?」
「ふふふ、昨日父さんに買ってもらったのさ。グズグズするなよ!先に行ってるぞ!」
そう言って優は大急ぎでコートに向かった。 やがて優の姿が見えなくなり、久留美が口をひらいく。
「優くん、うまくいったみたいね」
「ん?たぶんそ〜じゃねぇの?」
「よかった………。ジュンも本当はうれしいくせに」
「だから、俺は自分に関係ないことは興味ねっつ〜の」
「ふふ……そう。それじゃあ、いこっか」
「ああ。これから毎日優の相手をしなくちゃいけねぇしな」
「そ〜ゆ〜台詞はカズ君に勝ってから言いなさい♪」
「くっ、いつかぶっ倒すっつってんだろ!!!あ〜!そう考えてたら急にやる気が湧いてきた!よぉし久留美!早く行くぞ」
「あっ、待ってよぉ」