No.34 すたーと その6
恐ろしく長く書いてしまいました、申し訳ないです、はい。過去編は実はもう一山あったりします。どうしても慎重にいきすぎて長引いてしまいます。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
俺が小学5年生になり、約半年が経過した頃、
俺たちの担任、小松田聖子先生がみんなの前に立ち話しはじめる。
「は〜い、みなさ〜ん!注目して」
ガヤガヤしていた教室が一瞬にして静まり返る。
いったい何のようだ?
先生が話しはじめる。
「今日からこの5年3組に新しい仲間が加わりま〜す!」
『おお〜!!』
『転校生だってよ!』
『男かな?』
『どんなんだろ〜?』
静まり返っていた教室が先生の発言により、再び騒がしくなる。
「は〜い、みなさん!静かにして〜!それじゃあ入ってきて」
先生は教室の入り口のドアに向けて声を発した。
しばらくして教室のドアが開かれる。
ガラガラガラ
教室に一人の少年が入ってきた。背は小さめで目は大きい。パッと見ただけでは女と間違えてしまいそうだ。
『え?嘘!?かわい〜』
『キャー!女の子みたい!』
どうやらクラスの女子には大人気のようだ。
「それじゃあ自己紹介お願い」
先生が少年に言った。少年は自己紹介を始める。
「……柿崎優です。よろしくお願いします」
なんか暗そうなヤツだな。後ろに影が見える気がするぞ。
「優くんはお家の都合で、この学校に来ました。みんな仲良くしてね〜」
『は〜い』
先生の言葉にクラスのみんなが返事をする。さらに続けて先生
「じゃあ優くんの席はどうしようかしら?」
先生は腕をくみながら辺りを見渡す。
「純也くんの隣が空いてるわね。優くん、そこに座って」
先生は俺の隣の席を指差す。優と呼ばれたヤツは軽く返事をした後、俺の隣に座った。
「オッス!」
俺は何となく話し掛けてみると、
「…………」
見事に無反応だった。気を取り直してもう一度、
「俺は純也ってんだ。ジュンって呼んでくれ!」
「………」
「お前の名前は?」
「……さっき先生が言ったろ」
「くっ……」
なっ、何だコイツは?ノリが悪いにも程があるだろ!!
この会話を聞いていた先生は慌ててクラスのみんなに話し掛ける。
「え、え〜と……。優くんは周りが知らない人ばかりで不安だと思うから、みんな、仲良くしてあげてね。優くんも、わからないことがあったら聞いていいのよ」
「……はい」
優はそう一言だけ呟くと再び下を向いた。
いったい何なんだコイツは?もっと友好的にいこ〜ぜ。
――――――
――――
――
一時間目が終わり、クラスのみんなが優を取り囲む。転校生にとっては、避けて通れない道だ。
『ねぇ、優くん。どこから来たの?』
「……仙台」
『へぇ〜、東北かぁ。どうだった?』
「……寒い」
みんなの質問に対し、優は一言でかえす。相変わらずノリが悪い。
その後も授業が終わるたびに、みんなが優を取り囲み質問攻めをするが、なかなか優はしゃべらないため、イマイチつかみづらかった。
『さようなら〜』
すべての授業が終わったのにもかかわらず、まだまだ質問攻めは続くようだった。
しかし俺はストリートバスケに早く行きたかったのでかまっている暇はない。まぁせいぜいがんばりたまえ、ひま人たちよ。
「久留美、お前今日はどうする?」
「あっ、ジュン。待って、私も行くから」
久留美も優を取り囲む大衆には加わらず、ストバスに来るようだ。机の中の教科書をランドセルに入れる。
「じゃ、行くか」
「うん」
俺たちは商店街へと向かう。
「ねぇ、ジュン」
「んあ?」
「何よその変な返事は……別にいいけど」
「なんだよ?」
「え?え〜と、優くんについてどう思う?」
久留美が質問をしてくる。まぁ、下校中にこの話題がでてくるのはある程度予測していた。
「アイツ?なんか暗いヤツだな」
「そうよね。何かあったのかしら」
「知らね。俺の知ったこっちゃね〜」
「もう、ジュンったら」
その後もどうでもよい話が続き、気付いたらコートについていた。
コートにはあまり人がいない。カズみたいにこれから来る人がほとんどだ。
俺は自分のボールを取り出し練習を始める。
ダムダム
「シュート!」
俺の放ったレイアップシュートは見事にリングに吸い込まれる。レイアップが今の俺のベストショットだ。
『よっしゃあ!ジュン、勝負しようぜ』
近くにいた中学生が俺に勝負を挑んできた。
「よし、負けたほうはジュースおごりな」
『ああ、いいぜ』
売られた勝負は全部買う。最近は、ぼちぼち勝てるようになってきたのでジュースを賭けたりしている。
試合が始まり、両者とも激しい戦いが繰り広げられる。
「おっしゃあ!決まったぜ!」
『くっそ〜』
「しまった!」
『へへ、もらい!』
――――――
――――
――
『はぁはぁ、ジュン。約束通りジュースな』
「ちっ、わかったよ」
善戦したのだが、二点差で惜しくも負けてしまった。しょうがなく俺はジュースを買うために商店街にむかう。近くにあるので便利だ。
「久留美、今からジュース買いに商店街に行くけどお前は?」
「うん。私も喉かわいちゃった」
俺たちは先程来た道を逆戻りする。薄暗い路地裏をでるとすぐに商店街だ。
自動販売機は何度も通ったがまだ俺は買わない。
理由はもっと安いところで買うからだ。
俺たちはここらで一番大きい店に入る。ここでは、自動販売機の約半分の値段でジュースを買うことができる。そのかわり名前もメーカーも聞いたことのないものばかりだが、俺たちにとっては十分だ。
買い物をすませてから再びコートに戻ろうと店を出たときだった。
「ねぇ、ジュン。あそこにいるの優くんじゃない?」
「ん〜?」
久留美が突然そんなことを言いだしたので俺は久留美の示した方向に目をやる。
そこには確かに優がいた。下を向いたままうつむいている。誰かと待ち合わせをしているようだ。
俺は何となく話し掛ける。
「よぉ!」
「!!」
突然の俺の出現に驚いたらしい。
「……何のようだ?」
――相変わらず暗いヤツだな。
「いや、お前こそ一人で何やってんだよ?迷子か?」
「……迷子じゃない。人を待ってる」
「ん?誰?」
「お前には関係ないだろ」
――ちっ、話し掛けて損したぜ。
そう思い俺がこの場を立ち去ろうとしたときだった。
『優!』
一人の女性が優に向かって叫んだ。母親だろうか?そいつは優の近くまできて優に話し掛ける。
『優、遅れてごめんね。それじゃあパパの所、いこっか』
「………」
『ん?どうしたの?』
「……勝手に行けよ」
『え?』
優は下を向いていた顔を上げ、なぞの女に叫んだ。
「アイツの所なんて勝手に行けばいいだろ!!」
そう言って優はどこかに走りだして行ってしまった。
『優………。私、間違ってるのかしら……』
なぞの女は泣き始めてしまった。いきなり俺たちの目の前で繰り広げられたドラマに、まったく付いていけなかった俺と久留美は、何をすれば良いのかわからずにその場に立ち尽くしていた。
俺は恐る恐るなぞの女に質問する。
「おっ、おい。泣くなよ」
『え?』
俺たちの存在に気付いたらしく、慌てて涙をふく。
『ご、ごめんなさいね。優のお友達?』
「友達ではない」
俺はキッパリと言い切った。
「なぁ?どうかしたのか?アイツ何か暗かったぞ?」
『本当は明るい子なんです。でも私のせいで……』
さらに続ける。
『私、ずっと前に離婚したんです。それで、再婚が決まってこちらに来ました』
「じゃあ、再婚が原因なのか?」
『はい……、再婚の話がでた途端に急に目の色が変わってしまって……。本当は今日、新しい旦那に優と会うつもりだったのですが……』
「へ、へぇ〜」
――何か複雑そうな話だな……あまり関わらないほうが良さそうだな。
『私……間違っているのでしょうか?』
「え?い、いや、たぶんあってるよ。な、なぁ久留美?」
「うん……優くんならわかってくれるはず」
「じ、じゃあな!優の母さん!がんばれよ」
『はい、面倒なことに巻き込んでしまってごめんぬ』
「あ、ああ。よし、行くぞ久留美!」
「え?でも……」
思い止まる久留美を無理矢理連れていく。
優の母さんが見えなくなったところで、俺は久留美に話し掛ける。
「『でも』じゃねぇよ。ああ言う話は関わらないほうがいいぞ。大人の世界だからな」
「うん………」
そして俺たちはストバスのコートへと向かう。
路地裏に入ったところである人影があるのに気付いた。
先程の少年、優である。
「こんなところに逃げやがったのか……」
俺は優に近付き話し掛ける。
「どうした?今度こそ迷子か?」
「うるせぇ。俺に関わるな」
「はいはい、そ〜ッスカ。すまんね。じゃ〜ね。ばいばいサヨウナラ。いくぞ久留美」
「う、うん」
俺たちは優を通り過ぎてコートに向かう。
「……聞かないのか?」
「あ?」
突然の優の発言に俺たちは振り替える。
「何を?」
「母さんに聞いたんだろ?俺がこうしている理由を」
「あ〜、何か言ってたね」
「気にならないのか?」
「興味ねぇし、知ったこっちゃねぇ」
俺は優に背を向け歩きだす。
「どうせまた離婚するに決まってるさ……。新しい父さんも浮気するに決まってる。そんなもんだろ?まったく、母さんはバカだな」
俺は優に背を向けたまま、
「……ついてこいよ」
「は?どこに?」
「ついてこればわかるっつ〜の。まぁお前の勝手だが……」