No.32 すたーと その4
時は流れ、俺は小学5年になった。この学校は3、5年生になるときにクラス替えがある。ちなみに久留美とは昔からずっと同じクラスだ。
そしてクラス発表。
「う〜ん……石川純也、石川………」
俺は玄関前に貼りだされた紙と睨めっこする。
「あったぞ!!」
5年3組のところには、しっかりと『石川純也』の文字が。
次に俺はある人物の名前をさがす。まさかなぁ……とか思いつつ確認する。
「うわぁ〜……またアイツと同じかよ……」
そこにはしっかりと『春風久留美』の文字が記されていた。
「ホントね………変な縁でもあるのかしら。困ったものね」
いきなりあらわれる久留美。
最近久留美は気が強くなった気がする。
だが俺は負けない!!
「はぁ〜、またこんなガキと一緒か……先が思いやられる」
「ちょ、ちょっと!誰がガキよ!」
追い掛けてくる久留美から俺は逃げる。そのまま学校に入り、新しい教室へと向かう。
「3組……3組っと」
新しい教室を探しつつ、後ろを振り返ってみると追い掛けてくる久留美の姿が見える。
「まて〜!!」
「へへ!待てと言われて待つ野郎がどこにいる!」
俺が後ろを見ながら走っているときだった。
「あ!ジュン!」
突然久留美が俺の名前を呼んだ。
ドォン!!
俺は何かに衝突して、倒れこむ。
「いって〜……」
俺は衝突した物体に目をやる。そして凍り付いた。
『純也……お前は学年が上がっても何も変わらないようだな』
そこには生活指導の先生『鬼瓦哲造』の姿が。
顔は怒りに満ちている。背後には炎がメラメラしている錯覚に陥る。この鬼瓦は普段、生徒達から恐れられている。
『廊下は走るな!』
ゴン!
鬼瓦のゲンコツが俺の頭にクリーンヒットする。
そのまま鬼瓦はどこかへ行ってしまった。
「いって〜……」
「あはは、ジュン大丈夫?」
後ろから追い付いた久留美が言ってきた。
「大丈夫じゃねぇよ……クソ〜、あの鬼瓦め!久留美も走ってたじゃねぇか!」
「私は止まってたから。それに鬼瓦先生は女の子には優しいし」
あのロリコン教師め!
俺たちは『速歩き』で教室に向かった。
「あっ、ジュン!まってよ!」
――――――
――――
――
『はい。新しいクラスの担任になりました、小松田聖子です』
新しいクラスの先生があいさつをしている。綺麗な先生で若々しい。
『それでは、何か質問はありませんか〜?』
聖子先生はにっこり笑いそう言った。その言葉にクラスの男子共が一斉に手をあげる。まぁ俺は上げないが………。
『はい!』
『え〜と……じゃあそこの君』
先生が生徒を指差す。
『歳はいくつですかぁ〜?』
『こら!女の人に歳は聞いてはいけませんよ。今日は特別に教えます。23歳ですよ』
先生は笑顔で答える。
『はい!』
『どうぞ』
また手を上げた生徒に先生は指差す。
『かれしはいますか〜?』
『秘密で〜す』
その質問にもサラッと笑顔で答える。大人の対応だ。
その後も似たような質問が繰り返される。相変わらず先生は笑顔で対応している。
――ふっ……ガキ共め!いつも沖さんたちといるとみんなガキに見えてくるぜ!見せてやろう!大人の質問と言うヤツを!!
一通りの質問が終わり、生徒達の手が上がらなくなった。
「先生……」
俺は格好よく、ゆっくりと手を上げる。沖さんに教わった『格好いい手の上げ方』だ。
クラスのみんなが俺に注目する。
『えっ、ええ。じゃあそこの君』
俺は先生に呼ばれ立ち上がる。
「どうも。石川純也です。よろしく」
『え?よっ、よろしく』
大人はあいさつを忘れない。
「先生……」
俺はキリッとした目で見つめる。
『はっ、はい』
クラスのみんなは相変わらず俺に注目だ。
見せてやろう!大人というヤツを!!
「結婚してください」
『………』
クラス中が静まり返る。
――ふっ、決まったぜ!!
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『ここからは純也妄想モード』
「結婚してください」
先生は照れながらも言う。
「ええ、あなたのような大人の男を待っていたのよ!」
クラスの生徒たちからの歓声。
『うお〜純也〜!かっこいいぞ〜』
『キャー!純也く〜ん!ステキ〜!先生じゃなくて私と結婚して〜』
『大人だ〜!!』
「先生、行きましょう」
「はい!幸せにしてね」
『純也!純也!純也!純也!』
『いやぁ〜純也く〜ん!行かないで〜』
――――――
――――
――
教室は静まり返っている。
――ふっ、決まったぜ!
次の瞬間
『わははははは!』
クラス中で大爆笑の渦が巻き起こる。
――あれっ?何か現実は違うぞ?
「ぷっ……コラッ!みんな!笑ったら可愛そうでしょ!?……プッ」
先生がフォローを入れるが、明らかにフォローになってない。だって、必死に笑いをこらえてるんだもの。
『はははは!いいぞ純也!』
『ははは!腹いて〜』
『純也は子供だなぁ〜』
「あ〜!誰だ今子供って言ったヤツ!!」
『わはははは』
「俺は大人だぁ〜!!」
俺は一人、ひたすら叫ぶのだった。