表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/152

No.31 すたーと その3

 今日もまた、俺はひたすらストリートバスケに明け暮れていた。俺が初めてここに来てから随分経つ。今日はカズもいて一緒に1対1で勝負していた。


「くそ〜……」


 勝負は大抵カズが勝つ。そして今日も俺はカズに負けたのだった。


「よし!俺の勝ち〜」


「もう一回!」


「ああ、いいぜ」


 カズは嫌な素振り一つ見せずに戦ってくれる。最近になって『れいあっぷしゅーと』と言うものを覚えたのだが、カズにはまだまだ勝てない。


 カズがドリブルで俺を抜き去ろうとする。


「よし!こっちだ!」


 俺はそれを必死に止めるのだが……


「逆」


 あっさりと抜かれてしまった。


「卑怯だぞ!騙したな!」


「フェイントだよフェイント」


 カズはふぇいんとがうまい。何が何やらわからなくなる。ここにいる高校生も引っ掛かるほどだ。


 結局また俺は負けてしまった。


「くっそ〜、勝てない」


「純也、そろそろ休憩しないか?」


「ああ」


 俺たちはコートの隅にすわり、他の人たちの試合をみる。他の人たちの試合はタックルや頭突きなどが普通に使われている。別に嫌いあっているわけじゃなくて沖さん曰く『シャレ』ならしい。その証拠にみんな攻撃されても笑顔でやりかえしている。


「暑いな……」


 カズが突然つぶやく。


 今日は快晴でとても暑い。夏も終わりそうなのだが、まだまだ暑い日が続いていた。


「そう言えば今日も久留美ちゃん来てないな」


「ああ。また母さんの見舞いだそうだ」


 久留美もよくこのストリートのコートにくる。でも、最近は母さんの調子が悪いようであまり来ていない。


「そうか……色々大変なんだな」


 そんな会話をしていたときだった。


 「うわ!?つめてぇ」


 カズが叫ぶ。空をみるとさっきまでの快晴が嘘のようにくもりになっている。小雨も降りだした。


ザァァァ


雨は激しくなる。


「やべぇ!カズ!どうする?」


「そうだな……俺んちにくるか?」


「お前んち?わかった!早くいこーぜ!」


 俺たちは走りだす。


――――――


――――


――



「よし、あがっていいぞ」


「おじゃましま〜す」


 カズの家についた。特に普通の一軒家のようだ。俺はカズの支持に従い家の中へ入る。



 部屋にはいって俺は驚いた。なぜかと言うと……。


「うわ〜……すげぇ」


部屋中にNBAのポスターやユニフォーム、バスケグッズなどでいっぱいだった。


「ああ、バスケが好きだからな」


「これ全部カズが集めたのか?」


「う〜ん……中にはここらでなかなか売ってないものもあるしな。俺の場合は父さんがNBAが好きでよく一緒に買いに行くんだよ。バスケ好きは完全に父さんの影響だな」


「そうなのか……それにしても凄い……」


 俺のメガトラマングッズとはワケが違う。


 俺はカズコレクションを見渡す。するとあることに気付く。


「なぁカズ。この人のポスターが多くないか?」


 俺は一人の選手のポスターを指差す。周りをみてもこの選手がかなり多い。


「ああ、アイバーソンか」


「あいばーそー?」


「アイバーソンだよ。アレン・アイバーソン」


「ほう、あいばーそんね」


 俺はよくわからずに答えた。


「デビュー当時ポジションはPGで、とにかくいい意味でも悪い意味でも目立っていた選手だ」


「悪い意味?」


「言動だよ。言動」


「口悪いのか」


「ああ。それも魅力の一つだがな。しかしながらオフェンス力には目を見張る物があって。シュート、アシストなんでもできるんだ。」



※現在はSGとしてNBAで一、二を争う攻撃力を持つ。


 カズの話は続く。


「しかし、彼は身長にはあまり恵まれなかった…だが、彼は言った。」



「何て?」


「『バスケは体じゃない、ここなんだ……』そう言って胸に手を当てたんだ。オールスターのMVPをとったときそう言ったんだ……。オレはその言葉を忘れない。その言葉を聞いたときから彼は俺の中の神様なんだよ」


 カズは目を輝かせながら話す。本当にバスケが好きなんだなぁと思った。



「だから俺は、自分より体格のいい高校生達にまざってバスケをしているんだ。気持ちで勝つためにな」


「ほ〜。だからカズはストリートをやっていたのか」


 カズに勝てない理由は気持ちで負けていたからかもな。よし、今度からは絶対に勝つ気で行こう。


「ああ。それとアイバーソンはジョウダンにも勝ったときがあるんだぜ!」


「冗談に勝つ?急に何言ってんの?」


「いや、なんでもない……」

 その後も俺とカズとの会話は続いた。


――――――


――――


――


「じゃ〜な〜」


「おう、じゃあ!」


 俺は帰る時間になりカズの家をでる。外は大雨で、冷たい雨が降り注ぐ。


「うひゃあ〜!つめてぇ〜」


 早く帰らないと……


 俺は全力で走る。カズの家は走っても15分くらいかかる。当然、ずっと走っているワケにはいかなく、歩いてしまう。


 そんなことを繰り返しているうちにだんだん家に近づいてきた。


「よし、もうすぐだ」


 俺の体は雨で濡れていてる。かなり冷たい。微妙に薄暗くなってきている。


 俺の近くまでくる。そして家の前に人影が見えることに気付く。


「久留美!」


 そこにはびしょぬれで立ち尽くしている久留美がいた。


「どうしたんだよ?カゼひくぞ?」


「…………」


 下をむいたままじっとしている。空から降る雨は久留美の髪を伝って下へと落ちてゆく。


「………」


「………」


 沈黙のなか、空から降る雨が俺たちの体をぬらしてゆく。


「なぁ?久留美。どうした――」


「死んじゃった……」


――え?まさか……


俺の頭の中に浮かんだことはおそらく正解だと思うが、口にだす勇気がない。



「ママが……ママが死んじゃったの!!」


 降る雨が一層強くなる。雨が屋根を叩きつけてさらに激しい音をたてる。


「………」


「どぉしよう……私、どうしよう……」


 泣き崩れる久留美。


 俺は立ち尽くしていた。


 無言の時が流れる。



「あちょ〜!」


「?」


 久留美は突然俺のとった行動を驚いた目で見つめている。


「あちょ〜!どこだ!?そこかぁ!?あちょ〜!」


 俺は見えない敵に対してひたすらキックやパンチをする。


「……何してるの?」


 俺は久留美の言葉を無視して、その動作を続けた。


「そこか!?久留美を泣かせる悪者はそこか!?あちょ〜!」


「え!?」


 久留美は驚いた表情を見せる。


「そ〜ゆ〜ことだ」


「………」


「どんな悪者が来ても俺が久留美を守ってやる。メガトラマンとしてな。だから泣くなよ」


 自分が馬鹿なことを言っているのはわかる。親が死んでしまった女の子に泣くな!なんて言うのは無理な話だ。


 ただこのときは久留美には笑ってほしかった。久留美の悲しんでいるのを見ていると自分まで悲しくなるから。

 だから久留美には笑ってほしかった……。


「クスッ」


「ん!?」


「あはは、悪者なんているわけないよぉ」


「あ!笑ったな!?」


「ジュンがあまりにもおかしいからぁ」


「じゃあ泣くなよ?」


 久留美は笑顔をつくってみせる。


「うん、もう泣かないよ」


「そうか、じゃあ帰るか!」


「うん」


 そう言って俺たちはそれぞれの家に向かう。


「あ!ジュン」


「ん?」


 家に入ろうとした途端、突然話し掛けられた。


「あのぉ……この前私がいらないって言ったカード……ちょうだい?」


「ん?ああ、メガトラマンか。お前もあの格好よさがわかったか」


 俺はカバンからカードを取り出し、久留美に渡す。 カードは少し雨に濡れてふやけているようだった。


「うん……ありがと」


 久留美はメガトラマンのカードを受け取った。


「じゃあな」


「うん。じゃあね」


 俺たちは家の中へと入る。

 雨がさっきより小降りになったような気がした。



――――――


――――


――



次の日


 俺は見事に風邪をひいた。



もうすこしで過去編も終わりです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ