No.31 すたーと その3
今日もまた、俺はひたすらストリートバスケに明け暮れていた。俺が初めてここに来てから随分経つ。今日はカズもいて一緒に1対1で勝負していた。
「くそ〜……」
勝負は大抵カズが勝つ。そして今日も俺はカズに負けたのだった。
「よし!俺の勝ち〜」
「もう一回!」
「ああ、いいぜ」
カズは嫌な素振り一つ見せずに戦ってくれる。最近になって『れいあっぷしゅーと』と言うものを覚えたのだが、カズにはまだまだ勝てない。
カズがドリブルで俺を抜き去ろうとする。
「よし!こっちだ!」
俺はそれを必死に止めるのだが……
「逆」
あっさりと抜かれてしまった。
「卑怯だぞ!騙したな!」
「フェイントだよフェイント」
カズはふぇいんとがうまい。何が何やらわからなくなる。ここにいる高校生も引っ掛かるほどだ。
結局また俺は負けてしまった。
「くっそ〜、勝てない」
「純也、そろそろ休憩しないか?」
「ああ」
俺たちはコートの隅にすわり、他の人たちの試合をみる。他の人たちの試合はタックルや頭突きなどが普通に使われている。別に嫌いあっているわけじゃなくて沖さん曰く『シャレ』ならしい。その証拠にみんな攻撃されても笑顔でやりかえしている。
「暑いな……」
カズが突然つぶやく。
今日は快晴でとても暑い。夏も終わりそうなのだが、まだまだ暑い日が続いていた。
「そう言えば今日も久留美ちゃん来てないな」
「ああ。また母さんの見舞いだそうだ」
久留美もよくこのストリートのコートにくる。でも、最近は母さんの調子が悪いようであまり来ていない。
「そうか……色々大変なんだな」
そんな会話をしていたときだった。
「うわ!?つめてぇ」
カズが叫ぶ。空をみるとさっきまでの快晴が嘘のようにくもりになっている。小雨も降りだした。
ザァァァ
雨は激しくなる。
「やべぇ!カズ!どうする?」
「そうだな……俺んちにくるか?」
「お前んち?わかった!早くいこーぜ!」
俺たちは走りだす。
――――――
――――
――
「よし、あがっていいぞ」
「おじゃましま〜す」
カズの家についた。特に普通の一軒家のようだ。俺はカズの支持に従い家の中へ入る。
部屋にはいって俺は驚いた。なぜかと言うと……。
「うわ〜……すげぇ」
部屋中にNBAのポスターやユニフォーム、バスケグッズなどでいっぱいだった。
「ああ、バスケが好きだからな」
「これ全部カズが集めたのか?」
「う〜ん……中にはここらでなかなか売ってないものもあるしな。俺の場合は父さんがNBAが好きでよく一緒に買いに行くんだよ。バスケ好きは完全に父さんの影響だな」
「そうなのか……それにしても凄い……」
俺のメガトラマングッズとはワケが違う。
俺はカズコレクションを見渡す。するとあることに気付く。
「なぁカズ。この人のポスターが多くないか?」
俺は一人の選手のポスターを指差す。周りをみてもこの選手がかなり多い。
「ああ、アイバーソンか」
「あいばーそー?」
「アイバーソンだよ。アレン・アイバーソン」
「ほう、あいばーそんね」
俺はよくわからずに答えた。
「デビュー当時ポジションはPGで、とにかくいい意味でも悪い意味でも目立っていた選手だ」
「悪い意味?」
「言動だよ。言動」
「口悪いのか」
「ああ。それも魅力の一つだがな。しかしながらオフェンス力には目を見張る物があって。シュート、アシストなんでもできるんだ。」
※現在はSGとしてNBAで一、二を争う攻撃力を持つ。
カズの話は続く。
「しかし、彼は身長にはあまり恵まれなかった…だが、彼は言った。」
「何て?」
「『バスケは体じゃない、ここなんだ……』そう言って胸に手を当てたんだ。オールスターのMVPをとったときそう言ったんだ……。オレはその言葉を忘れない。その言葉を聞いたときから彼は俺の中の神様なんだよ」
カズは目を輝かせながら話す。本当にバスケが好きなんだなぁと思った。
「だから俺は、自分より体格のいい高校生達にまざってバスケをしているんだ。気持ちで勝つためにな」
「ほ〜。だからカズはストリートをやっていたのか」
カズに勝てない理由は気持ちで負けていたからかもな。よし、今度からは絶対に勝つ気で行こう。
「ああ。それとアイバーソンはジョウダンにも勝ったときがあるんだぜ!」
「冗談に勝つ?急に何言ってんの?」
「いや、なんでもない……」
その後も俺とカズとの会話は続いた。
――――――
――――
――
「じゃ〜な〜」
「おう、じゃあ!」
俺は帰る時間になりカズの家をでる。外は大雨で、冷たい雨が降り注ぐ。
「うひゃあ〜!つめてぇ〜」
早く帰らないと……
俺は全力で走る。カズの家は走っても15分くらいかかる。当然、ずっと走っているワケにはいかなく、歩いてしまう。
そんなことを繰り返しているうちにだんだん家に近づいてきた。
「よし、もうすぐだ」
俺の体は雨で濡れていてる。かなり冷たい。微妙に薄暗くなってきている。
俺の近くまでくる。そして家の前に人影が見えることに気付く。
「久留美!」
そこにはびしょぬれで立ち尽くしている久留美がいた。
「どうしたんだよ?カゼひくぞ?」
「…………」
下をむいたままじっとしている。空から降る雨は久留美の髪を伝って下へと落ちてゆく。
「………」
「………」
沈黙のなか、空から降る雨が俺たちの体をぬらしてゆく。
「なぁ?久留美。どうした――」
「死んじゃった……」
――え?まさか……
俺の頭の中に浮かんだことはおそらく正解だと思うが、口にだす勇気がない。
「ママが……ママが死んじゃったの!!」
降る雨が一層強くなる。雨が屋根を叩きつけてさらに激しい音をたてる。
「………」
「どぉしよう……私、どうしよう……」
泣き崩れる久留美。
俺は立ち尽くしていた。
無言の時が流れる。
「あちょ〜!」
「?」
久留美は突然俺のとった行動を驚いた目で見つめている。
「あちょ〜!どこだ!?そこかぁ!?あちょ〜!」
俺は見えない敵に対してひたすらキックやパンチをする。
「……何してるの?」
俺は久留美の言葉を無視して、その動作を続けた。
「そこか!?久留美を泣かせる悪者はそこか!?あちょ〜!」
「え!?」
久留美は驚いた表情を見せる。
「そ〜ゆ〜ことだ」
「………」
「どんな悪者が来ても俺が久留美を守ってやる。メガトラマンとしてな。だから泣くなよ」
自分が馬鹿なことを言っているのはわかる。親が死んでしまった女の子に泣くな!なんて言うのは無理な話だ。
ただこのときは久留美には笑ってほしかった。久留美の悲しんでいるのを見ていると自分まで悲しくなるから。
だから久留美には笑ってほしかった……。
「クスッ」
「ん!?」
「あはは、悪者なんているわけないよぉ」
「あ!笑ったな!?」
「ジュンがあまりにもおかしいからぁ」
「じゃあ泣くなよ?」
久留美は笑顔をつくってみせる。
「うん、もう泣かないよ」
「そうか、じゃあ帰るか!」
「うん」
そう言って俺たちはそれぞれの家に向かう。
「あ!ジュン」
「ん?」
家に入ろうとした途端、突然話し掛けられた。
「あのぉ……この前私がいらないって言ったカード……ちょうだい?」
「ん?ああ、メガトラマンか。お前もあの格好よさがわかったか」
俺はカバンからカードを取り出し、久留美に渡す。 カードは少し雨に濡れてふやけているようだった。
「うん……ありがと」
久留美はメガトラマンのカードを受け取った。
「じゃあな」
「うん。じゃあね」
俺たちは家の中へと入る。
雨がさっきより小降りになったような気がした。
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次の日
俺は見事に風邪をひいた。
もうすこしで過去編も終わりです。