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No.29 すたーと その1

――とある日の授業。


黒板の前に先生が立ち何やら語っているようだ。

 しかし、俺はそのとき睡魔と格闘していた。


『……という訳で』


 先生の言葉がまったく理解できない。右耳から入ってきた言葉が左耳からでていく感じだ。

俺はひたすら押し寄せる睡魔と格闘する。

 しかも今日はよい天気で日差しはポカポカ。教室中に眠りガスを充満させる。どうやら睡魔は眠りガスという卑怯な最終兵器を使ってきているようだ。


 俺は次第に意識が遠くなっていく。

『……することにより』


――――――


――――


――


――あれ?ここは?


 目の前には見慣れた風景が広がっていた。ここはよく知っている。近くの商店街だ。


『ちょっとぉ……』


『あ?なんだよ?』


一人の少年を少女が呼び止める。

『ママがそっちはわるい人たちがいっぱいいるからいっちゃだめって言ってたよ』


『ダメって言われたら余計に気になるんだよ!!じゃあ俺は一人でも行くからな!』


『あ!まってよぉ!』


少年は商店街の裏路地へと入っていく。少女もその後をついていく。


――これはもしや……


『暗いよぉ。こわいよぉ。変な落書きいっぱいあるよ……』


 少女は少年の右腕を両手でしっかりと抱き抱え、小さく震えている。

『あ?うるせぇな。じゃあついてくんな!』


『うう……だって…』


 少女は泣きそうになる。少年はそれをあわてて慰める。


『な、泣くなよ。』


『グスン。え〜ん』


少女は泣きだしてしまった。少年は自分のポケットをに手をいれものを取り出す。


『しょうがねぇな。ホラ』


そして少女に見せる。


『ナニこれ?』


『メガトラマンのカードだ!凄いだろ?しょうがなくお前にやるよ』


 少女はそのカードをじ〜っと見つめる。


「いらない」


ポイ


『あ!捨てるなよ!』


『その人かっこわるいよぉ……何だか変だよぉ』


『あ!メガトラマンをバカにしたな!?コイツは強いんだぞ!』


『つよい?』


『ああ。悪者がやってくるとどこからか現われて戦うんだ。そして、最後にはかならず勝つ!あちょー!』


 少年はメガトラマンの真似をしているようだ。


『あはは、ナニソレ〜!変だよぉ』


『バカにすんな〜!あ〜あ、お前に秘密教えてやんね〜!』


『え?秘密?教えて教えて!』


幼少期は秘密ごとが大好きである。


『え〜?どうしよっかな〜?お前絶対誰かに秘密バラすもん』


『え〜?言わないよぉ』


『本当か?』


『うん。本当』


『本当に本当か?』


『うん。本当に本当』


『ほぉ〜んとぉ〜に本当に本当か?』


『うん。ほぉ〜んとぉ〜に本当に本当だよ』

 幼少期は基本的に確認をとるのが長い。


『じゃあユビリキだ』


『うんうん』


少女はうれしそうに少年の差し出した小指に自分の小指を重ねる。


『ゆ〜びき〜りげ〜んまんうそついたらは〜りせんぼんの〜〜ます』


そして少年が言った。


『わかったよ。しょうがねぇな』


『うんうん』


 少女は興味深々に目をパチパチさせている。


『俺、実は将来メガトラマンになるんだ』


『え〜?無理だよぉ』


『絶対になる!メガトラマンになって悪者を退治するんだ!』


『じゃあ私はお姫さまになる〜!』


『ん?どうしてだ?』


『お姫さまになって、さらわれたときにメガトラマンに助けてもらう!』


『う〜ん。そうだなぁ……お前がはすぐにさらわれそうだからなぁ……。よしっ!じゃあしょうがなく助けてやろう!』


『ホント!?やったぁ!』


『ふふ、正義の味方だからな』


 二人は裏路地を奥へと進む。少女の顔はもう悲しみではなく笑顔でいっぱいだ。しっかりと二人は手を繋いでいる。


 しばらくすると物音が聞こえる。

 二人は物音のしたほうを覗き込む。


『け、喧嘩!?』


 少年が声をあげる。少女は少年の腕にしがみつく。

 小さい空き地の中にはたくさんの人がいた。どうやら喧嘩では無いらしい。でも激しく体をぶつけたり、悪口を言ってたりする。


――ああ、そうだよ。たしか俺はここで……。


 どうやらみんな何かに熱中しているらしかった。

 ボールを地面についてそれをみんなが取り合う。そして網目状のひもがぶら下がっているワッカにそのボールを投げている。


 少年の興味が高まり、遠くから見ていたのが次第に近づいていく。


 そして視線が一点に集中した。


 そこには、自分よりすこし大きいくらいの人が大人に交じっていたのだ。

 体をぶつけられそうになったら身軽にかわしてボールをリングに向かって放り投げる。

 ボールは見事にワッカに吸い込まれた。


 歓声が沸き起こる。そしてしばらくして歓声がやむと、みんなの視線が少年、少女二人に集中する。


『こ、こわいよぉ』


 少女は小さく震えている。

 周りには怖そうな人が沢山いる。不思議な色の髪の人も沢山いて、少年、少女を不思議そうに見ている。


 しばらくして先程の大人に交じっていた少年が二人の前に近づいてくる。そして一言。


『おまえらもバスケットやるのか?』


 少年は不思議そうな顔をして答えた。


『ばすこっと?』


『違う違う、バスケットだよ。ば す け っ と!!』


『ばすけっとって何だ?うまいのか?』


少年はどうやらビスケットの一種だと思っているらしい。


『ちょっとこっちにこい』


 少し大きい少年は二人をワッカの近くまで連れていく。周りにいる不思議な髪をした人たちは相変わらず二人をジロジロと見ている。少女は怯えているようだった。そして少し大きい少年は言った。


『このボールをあのリングに入れるんだ。そう言うスポーツさ』


『りんぐ?あのワッカのことか?』


『そうだ。シュートしてみるか?』


 そう言って少し大きい少年は少年にボールを渡す。


――懐かしいな……


 少年はボールを受け取る。リングを見上げるが、相当高い位置にあるようで、届きそうに無い。


『届きそうにないぞ?』


『加速をつけるんだよ。そして思いっきり投げてみ』


 少年は大きい少年の言葉を聞き、加速をつける。当然ドリブルという技術はなく、手にもったままだ。


 リングの近くまで近付き、ボールを放り投げる。


パス!


 ボールは見事にリングに吸い込まれた。


 一瞬の沈黙の後、歓声が沸き起こる。


いいぞ!そこのチビ!


ヒュー!ナイッシュ〜!


フォームもバラバラ、ドリブルも無しだが、少年が生涯で初めて決めたレイアップシュートだった。


 少し大きめの少年が少年に近づく。


『お〜!すげ〜な!どうだ?おもしろいか?』


 少年は嬉しそうだった。自分に向けられた歓声、そして、自分のシュートがリングに入ったこと。


『よくわからない。けど、たのしい』


 それは要するにおもしろいと言うことである。


『名前は何だ?』


――ああ、ここで……


少年は答えた。


『純也。石川純也』


『純也か。よろしくな!俺の名前は森村一輝だ。カズって呼んでくれ』


――そうだ……コイツとの出会いはこんな感じだったな。


『カズか。よろしくな!俺の隣にいるのは久留美。凄い泣き虫だなんだ』


『泣き虫なんかじゃないよぉ』


『久留美ちゃんか……よろしくな』


『う、うん』


 久留美は怯えながらも返事をした。カズはさらに問い掛ける。


『ここに小さい人が来るなんてめずらしいな。何年だ?』


純也は答えた。


『小学3年だ』


『へぇ〜、じゃあ俺より二歳年下か……ちなみに俺は5年生だ』


『5年か。何でこんなところにいるんだ?』


カズは答える。


『バスケットたのしいだろ?ほとんど毎日来てるよ。お前もやるか?』


『うん!やるやる!』


――この時のことはハッきりと覚えている。ただ、もう一度シュートを決めたくて夢中だったな。



純也はその後、ほぼ毎日ここに通うことになる。



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