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No.28 鍋


「しょうがないでしょ、ジュンったら何にも準備しないんだもん」


「だって腹減ったもん」


「『お腹すいた』じゃないでしょ。まったく……あ、そういえば亮くん」


 久留美ちゃんは突然俺に話し掛けてきた。


「ん?何だ?」


「亮くんのお家でお鍋やるってジュンが言いだしたんだけど……やっぱり突然よね」


 マジ!?願ってもいないチャンスだぜ!!


 俺がそんなことを思っていたとき、純也が余計なことを言いだす。


「あ〜、久留美。そのことなんだが、亮はどうやら無理――」


「うんうん大丈夫!久留美ちゃん!鍋おいしそうだね!」


急いで俺は純也の言葉をかき消す。


「ありがとう。じゃあ今から準備するね。でも、材料がまだ全部揃ってないし……」


『ご、ごめんください』


 またまた玄関から客がやってきた。今日は来客が多い日だな。

 奥からやってきた人物は2メートル近い巨大男、博司だった。手にはおそらく鍋の食材であろう、野菜の入ったビニール袋を持っている。


「純也くん、家でとれた野菜持ってきたよ」


博司はなぜかうれしそうだ。そう言えばコイツの家は農家だったっけ?


「やっしゃあ!始めるか!久留美、準備を頼む!」


「……しょうがないわね」


 久留美ちゃんはしかたがなさそうに調理場へと向かう。そして、博司からもらった野菜を手に取り切り刻み始めた。


トントン……


 規則性のある音がまな板から鳴り響く。


「よし博司!トランプやるぞトランプ!」


「ええ!?」


純也と博司はどこからか取り出したトランプで遊び始めた。




「…………」


何もすることがなくただ立ち尽くしていた俺だが、さすがに久留美ちゃん一人に任せるわけにはいかないので手伝うことにする。


「久留美ちゃん、手伝うよ」


「え?でも………」


「別にいいって。料理は慣れてるしさ」


「ありがとう。じゃあこれお願いね」


そう言って白菜を渡される。


トントントン……


 二人で同時に野菜を切り始めた。俺は久留美ちゃんの方を見てみる。慣れた手つきで次々に野菜を切り刻んでいく様子は、見ていて感心する。


「料理うまいね」


「え?そう?」


「うん。一つ一つ大きさが揃っていて感心するよ」


 久留美ちゃんは少し照れた様子をする。


「えへへ、料理は趣味だからね。亮くんもなかなかうまいじゃない」


「ん?一人暮らしだから一応一通りはね……」


「それでも凄いと思うよ。お姉ちゃんやジュンとは大違い」


「さすがに純也に負けたら終わりだよ……」


 俺たちは純也の方を見る。博司と純也はひたすらトランプに熱中していた。


「へへ〜、またまた俺の勝ち〜」


「うう……」



 見た感じ純也が一方的に勝利しているようだ。いつまでも見ている訳にはいかないので料理に戻る。


「もう……ジュンも手伝ってくれればいいのに……」


「ははは、それは猿に言葉を教えるくらい無理な話だよ」


「ふふふ、そうね」


 久留美ちゃんはそう言ってから、再び野菜を切る。 久留美ちゃんは今日は髪を後ろで二つにまとめている。エプロン姿もよく似合っていて見ているだけで落ち着く。


じっと見ていたら久留美ちゃんに気付かれてしまった。


「ん?どうしたの?」


「え?あ、いや……今日は違う髪型だね」


「うん。やっぱり変かな?」


久留美ちゃんは心配そうな顔でこちらを見る。

「に、似合っているよ。か、か――――」


――可愛いね。


 と言おうとした瞬間、純也が話し掛けてきた。


「おい久留美!まだできねぇのかよ?腹減ったぞ」


「何もしないくせに文句言わないでよ」


「わかったわかった。ホラ、包丁貸せよ」


「あっ」


純也は久留美ちゃんから包丁をとり、野菜を切り始める。


「フンフンフ〜ン♪」


ザクザクザク


 変な鼻歌と同時に野菜は切り刻まれていく。

 その大きさはバラバラでとても雑だ。


「ち、ちょっとジュン!」


「無敵の要塞〜♪俺は無敵の要塞さぁ〜♪むしろジンギスカンさぁ〜♪」


ザクザクザク


久留美ちゃんの言葉が聞こえないようで、今度は変な歌を歌っている。と言うか、意味がわからん!ジンギスカン!?


あっという間にすべての野菜を切りおわる。はやり大きさもバラバラで見栄えが悪い。


「ほら、出来たぜ!俺の手にかかればこれくらいの野菜なんて相手じゃねぇぜ!」


「ちょっと!バラバラじゃないの!」


「まあ、小さいことは抜きだ。よし!鍋を準備しろ」


 純也の手によって料理は進められていく。


――――――


――――


――


『いただきま〜す』


 鍋を取り囲むようにしてみんな座る。目の前の鍋に目をやると具の大きさがバラバラだ。中には綺麗に切れているものもある。おそらく久留美ちゃんが切ったものだろう。

一口食ってみると、結構うまかった。味付けは久留美ちゃんがやっていたので当然か。


「へへ!肉もらい!」


「ちょっ、純也くん!返してよ!」


 この二人は相変わらずいつもにぎやかだ。


 かなり腹が空いていたため、すぐに鍋は空っぽになる。


「久留美ちゃん、ごちそうさま」


「え?あ、みんなで作ったものだしね」


「ほとんど久留美ちゃんが作ったようなものだよ。じゃあ、かたづけるのも手伝うよ」


「ありがとう」


 外ももう真っ暗だったので俺たちは急いでかたづけた。純也と博司はまたトランプをしている。


――――――


――――


――


「………」


 みんなもう帰ってしまって部屋は静まり返っている。

――結局あいつら何がしたかったんだ?


 とりあえずもうやることが無いので風呂に入ろうとしたときだった。


ピピピピ


突然携帯が鳴り響く。


「ん?誰だ?」


 俺は携帯電話を確認する。


From純也

『よし!今度は焼肉やるから肉買っとけよ!じゃあな!』


「………」


ピピピ


『死ね』


 これでよしっと……。さぁ、風呂でも入るかな。


そしてまた携帯が鳴り響く。


ピピピピ


「アイツめ!いい加減にしろよ!?」


 俺は勢い良く携帯を開く。どうせまた肉がどうとかぬかしやがるんだろ?



From久留美

『今日は突然ごめんね!一人暮らしでごはん作るのが大変だったら手伝いに行くから。それじゃあね』




…………。




「よっしゃあ!!!!」




久留美ちゃんがごはん!?マジかよ!?


ピピピ


「ん?」


From純也

『プププ、負け犬』



「…………」






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