No.27 突然の久留美ちゃん
ある日のこと。
俺は部活が終わり家に帰る。時刻は七時半をまわっており空は微妙に薄暗い。 先程『家』と言ったが、実際は大家に借りているアパートだ。俺の実家から朱雀高校まではそれなりの距離があるので、俺だけ、アパートを借りて一人暮らしをしている。
学校からアパートまでは20分くらいだが、考え事をしているとあっと言う間だ。
アパートにたどり着き、いつも持ち歩いている鍵を取り出す。
ガチャ!
扉が開き、俺は中へと入る。当然部屋の中には誰もいなく静まり返っている。俺はカバンをとりあえずそこらへんに置き、ベットの上で横になる。
「…………メシどうしよう」
いつもは自分で飯を作っているのだが、今は部活で疲れているので飯を作る気力がない。一人暮らしである程度は料理ができるようになった。
ん?何か忘れているような気がする。
何だろう?何だっけ?何か大事なことを忘れているような………。
……………う〜ん。
読者さんが何か言っているような気がする……。
……………あ!
スマンスマン!自己紹介を忘れてた!
俺の名前は『長谷川亮』。木ノ下薫さんと言う人に憧れて、朱雀高校に入学した。薫さんはとにかく凄くてついていくのにもやっとだ。でも、学ぶものが多く、朱雀に来てよかったと思っている。
俺は深く息を吸い込み、
「ふぅ〜」
一気に吐き出した。そして、必要最低限しかものが無い質素な部屋を見渡す。
俺の目に写ったのはもう随分古い本だった。名前は『バスケットボールマガジン』と言うもの。略して『バスマガ』。これは俺が中学一年のときに発売されたもので、今だに所持しているのには理由がある。
俺はその本を手に取り、ページをめくりはじめる。そして、あるページでその動きは止まる。
2ページ丸々使った記事の見出しを見ると大きく
『氷室中、全国大会制覇』と書かれている。
この『氷室中学校』とは、別に俺の母校な訳では無い。
そう……俺のもっとも尊敬する人、木ノ下薫さんの母校だ。
優勝チームの集合写真にの中央には、優勝カップを手にして今と変わらず『4番』を背負っているキャプテンの木ノ下薫さん。長身、副キャプテンの福岡誠、そして優勝旗を持っているエース五十嵐拓磨。
今あげた選手は全国でも名の通っている凄い選手達だ。
勝因と書かれている記事を見てみると『焦るエース五十嵐を木ノ下が落ち着かせ、確実に点に結び付けていった』と書かれてある。そして、最後の決め手は薫の逆転スリーポイントシュートだそうだ。
結果は86対85で氷室中が勝利している。
俺はこのバスマガを何度見たのだろうか?自信が無くなったりしたときは、この本を見る。すると自然に勇気がわいてくるんだ。
でも、薫さんはこの時のバスマガ以来、もう注目されることは無かった。
俺は当時、薫さんは白川第一高校に行くと思っていた。世間もきっとそう思っていただろう。しかし、彼はなぜか朱雀高校を選んだ。理由はわからない。
今ではもう、『自ら才能を潰した』だの『過去の人間』だの世間で好き勝手言ってる奴らがいる。俺はそんな奴らをいつかギャフンと言わせてやるんだ。もちろん、薫さんと全国制覇も夢だ。
そして俺は中二になり、なぜ薫さんが朱雀に行ったのか確かめるために友達と試合を見に行ったんだ。
そこで俺は衝撃を受けた。
そこには世間からものを言われてもまったく気にせず、楽しそうにバスケットをしている薫さんがいた。(入学してから気付いたのだが、もともと図太い神経で細かいことは気にして無かったと思う)
そして俺は一緒にバスケをしたいと思うようになり、現在にいたる……と言うわけだ。
「は〜あ……」
――考えごとをしていたら腹が減ってきたな……。
そう思い、俺はしかたがなく冷蔵庫にむかう。
中を開けてもあまりものが入っていない。最近買い溜めしてなかったからなぁ……。材料を見てもできるのは目玉焼きと一目瞭然だ。
また目玉焼きだな。と思っていたときだった。
アパートの扉が勢い良く開かれる。
バァン!
『お〜っす!亮!』
疲れている今、もっとも会いたくない人物があらわれてしまった。
そ〜だよ。俺視点のまま最後までいくはずが無かった。俺はその人物を見る。
石川純也である。
コイツとは口喧嘩ばかりで、まさしく犬猿の中だ。
純也は靴を脱ぎ捨てると、勝手に部屋に上がり込んできた。そして部屋の中央にあるテーブルの横に座った。俺もとりあえず座る。
「亮!元気か!?」
「………ああ」
「しっかし、何にもねぇ部屋だな!お前らしいぜ」
「………ああ」
「一人暮らしか……大変だな!」
「………なあ純也」
「ん?なんだ?」
「いったい何のようだ?」
「おい亮。腹減ったぞ。何かメシ作れ!」
「帰れ」
いったい何なんだコイツは?いきなり上がり込んでメシ要求してきやがった。
「亮、冗談だって!怒るなよ。そんなことより鍋やるぞ鍋!」
「はぁ?いきなり何言ってんだ?俺んちは今目玉焼きしか作れねぇぞ?」
「そうか……残念だ」
純也がそう呟いたときだった。
『おじゃましま〜す』
再び玄関から人の声。
まさかこの声は……。
「遅かったじゃねぇか久留美。腹減ったぞ」
うわ〜!!俺んちに久留美ちゃんが来た〜!!ど〜ゆ〜ことだ!?
俺は少しの間思考が停止してしまった。