No.22 我が目標に狂いなし 後編
亮がハーフコートまでボールを運ぶ。
その亮を2年生の吉原さんがマークをする。
しかし、さすがは県でナンバー2の黒沢高校からスカウトがきた男。
吉原さんのマークなど楽々かわしているようだった。
「亮!」
純也が中のポストに上がり、亮にボールを求めた。
亮はそれに気付き、純也が声を出す前からすでにパスをだしていた。
パスをもらう純也に7番、3年生の小田原君がマークをする。
しかし次の瞬間、小田原君の顔は驚愕の顔となる。
「え!?」
純也にパスが渡ったとたん、すぐに抜かれてしまったのだ。
純也はそのまま小田原君を抜き去りレイアップシュートを決める。
パスッ!
ボールはリングを通り抜ける。
「純也ナイス!」
「おお!」
亮の言葉に純也は答える。
そんな中、小田原君が立ち尽くしていた。心配になり薫が声を掛ける。
「どうした小田原?」
「なにがおきたのかわからなかった。純也にボールがまわったと思った途端に抜かれていた……」
「ああ、アイツはパスをもらう前からすでにバックターンで抜きさる体勢となっていた。さらに驚くのはアイツの加速力だ。」
そう言って薫の話はつづく。
「抜き去る方向の膝の力を一瞬抜きその勢いで一気に加速したんだ。こうすれば踏ん張る本来踏ん張っていた時間を削減できるし明らかに踏ん張るより速い。これは日本の古武道の動きと共通してるんだ。」
「古武道?」
「前に一度雑誌で見たことがある。無駄がなく日本古来の動きだそうだ。スポーツ界でも注目され始めている。まあ、純也は古武道なんてしらないだろうな。自然と身についたものだろう」
「そんなものがあるのか……」
「はは、そんなに気を落とすなよ。いくら古武道言っても純也は止められないほどキレがあるわけではないしな。小田原なら今までどおりに普通に止められるさ」
「ああ、ありがとうな」
そして2、3年合同チームの攻撃となった。
2年生のポイントガード、吉原さんがボールを運ぶ。永瀬勇希にパスをだす。そのままボールは我利勉の手に渡る。
我利勉がシュートをした。
そのボールは弧を描きリングに向かう。
しかしリングに嫌われてしまい、外してしまう。
「っのやろぉ!!」
そのボールを純也がうまくリバウンドした。
「純也!!」
純也が取ったのを確認して亮は速攻のため走る。
「ドカーン!!」
純也の意味不明な言葉と共に放り投げられたボールはすごい勢いで前を走る亮に向かっていく。
バシィィッ!
鈍い音がなり亮はボールをキャッチする。
そして前を見ると薫がついてきていた。
――くっ、さすが薫さん!戻りがはやい!
亮のドリブルに薫がついていく形となる。先程(NO.15参照)とはお互い逆の立場となった。
なかなか振り切れない薫を相手になんとかリングに近づこうとする。
そしてリング付近で踏み切った。
薫もブロックのために跳ぶ。
亮は一度シュートをしようとして差し出していた手を引っ込める。
そう、いつぞやの純也たちとの3ON3で見せたダブルクラッチである。
しかし、薫はそれを読んでいたらしくブロックのタイミングはドンピシャリであった。
――まだだ……
薫は亮がシュートをするのを待ち構えているようだった。
――まだだ……
「なにっ!?」
――まだだ…
薫は驚きの表情を浮かべている。
薫は亮をブロックするために真上に跳んだ。
しかし亮はリングから少し離れたところを目標に跳んでいた。
しかも、リングは亮からして見れば後ろ。コレでは入るのも入らない。
――今だ!!
亮は少し離れたところから後ろに向かってボールを放り投げる。
ボールは一度、二度リングの淵にあたりリングの中に吸い込まれた。
パスッ……
亮は薫をみて一言、
「チビはチビなりに考えてるんですよ」
そして亮はディフェンスをするために戻る。
「ははは、なんてヤツだ」
微笑している薫に永瀬勇希が話し掛ける。
「ドンマイ、マグレだ。気にするな」
「マグレじゃない」
「ん?そうかぁ?」
「あれがヤツの戦い方なのかもな」
「ずいぶんと不思議な戦い方だな」
「そうだな」
そして2、3年の攻撃が始まる。
吉原さんがボールを運び、薫へとパスがまわる。
永瀬勇希が中へと切り込んでボールをもらった。
それに博司がマークをするが、永瀬のジャンプシュートをあっさりと決められてしまう。
「何やってんだよウド!!この前のブロックはどうした?」
純也が博司に言った。
「え?ブロック?わかった……ごめん」
そして石ちゃんズの攻撃。いつものように亮がボールを運び試合を展開する。
純也にボールがわたりシュートにいく。
小田原君は頑張ってついていったのだが抜かれてしまいシュートを決められる。
これで6―5と、石ちゃんズが逆転した。
2、3年生の攻撃が始まり吉原さんが薫にパスをだす。そして再び永瀬勇希にボールがまわる。
そのままシュートにいこうとジャンプをしたときだった。
「博司!」
純也が突然叫んだ。
「え?あ、うわぁぁ!」
その意味を理解したのか博司はジャンプをした。
「何!?」
突然の壁の出現に永瀬勇希は驚いた様子だった。
ドォーン!
勇希のシュートは博司の腕に当たり、弾きとばされた。
「よっしゃあ!よくやったぞ博司!」
こぼれたボールを拾いながら純也はそう言った。
そのまま前を走る亮にパスをだし、速攻でシュートを決める。
これで8―5と石ちゃんズが引き離す。
博司を見て永瀬は一言、
「驚いたな……それなりにサマになっている」
その言葉に薫は、
「ああ、そうだな。練習は真面目だし将来は朱雀の大黒柱になりそうだ。」
「たしかにな。素質は無いが努力家だな。そんなことより薫…」
永瀬は薫を見る。薫はアイコンタクトだけで永瀬が言いたかったことがわかったらしい。
「ああ、実力もわかったことだしこれ以上はやらせない」
そう言って薫はボールをもらう。
2、3年のオフェンスとなり、薫に一年生の遠藤がマークをする。
「!!」
今まではアウトサイドの攻めが目立っていた薫だが、朱雀ではポジョンがフォワードなためインサイドも超高校級だ。
遠藤は軽く抜き去られてしまう。
「博司!カバーだ!むしろ跳べ!」
純也が叫ぶ。
「え!!う、うわぁぁぁ!」
博司は向かってくる薫にディフェンスをする。
薫がシュートフォームにはいり、それに合わせて博司は跳んだ。
「うわぁぁ!」
パスッ!
ボールは綺麗にリングに吸い込まれた。
「アレ?なにが起きたんだろ?僕はしっかりと跳んだのに……」
そんな不思議そうな顔をしている博司に純也は言った。
「バカヤロォ!あんな単純なフェイクに引っ掛かってどうする!」
「え!?おかしいなぁ……シュートしたと思ったんだけど……」
「そう思わせるのがフェイクっつ〜の!あんな単純なのに引っ掛かるなっつ〜の!つ〜か、おまえ、ブロックの度にいちいち目をつぶるなよ」
「え!あ、うん。頑張るよ」
気合いを入れ直し、戦いにのぞんだ石ちゃんズであったが、永瀬勇希のインサイド、木ノ下薫のどこからでも得点できる攻めにより、次々と得点される。
必死に亮や純也が追い付こうとするが2、3年生の厳しいディフェンスによって押さえ込まれる。
終わってみれば14―37という大差で2、3年生が勝ち、試合は幕を閉じたのであった。
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クソ〜、これは何かの間違いだ!俺が負けるなんて……
「よく頑張ったな、純也」
試合が終わり、薫が話し掛けてきた。
「へっ、勝ったクセによく言うぜ」
「はは、そうだな。でも、お前のオフェンス力もなかなかだったぞ。ディフェンスはまだまだだが。それと……」
「あ?なんだよ」
「シュートパターンが少なすぎる。本当にお前はゴール下でしかシュートしないからな。それ以外は安パイなんだ」
くやしいが薫の言うとおりだった。試合でも俺に薫がディフェンスしてからと言うもの、得点力が落ちた。それでも何点か決めたのだが……。
「うるせぇ、俺はダンクで十分なんだよ!」
俺の言葉を聞き薫は微笑して、
「ふっ、まあ、参考程度にな」
と言って永瀬薫と部室に向かって行った。
「クッソ〜………」
俺は博司に近づく。
「ウド!」
ポカッ!
「痛!じゅ、純也くん!?いきなり何するのさ?」
「デカすぎ!!」
「ええ!?」
「博司!練習するぞ!居残りだ!」
「ええ!?」
とにかく薫に負けるなんて今後あってはならん………今度こそボコボコのギッタンギッタンにしてやる!!
俺たちの居残り練習は夜遅くまで続いた。