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No.2 初敗北

 チリリリリン



「…………」



 チリリリリン



「………ん」



 チリリリリン



「…………」

 



 チリリ……ゴンッ!!


「さっきからうるせぇんだよ! 機械のクセに人間様をなめんなっつーの!」


 俺は朝自分の睡眠を邪魔した目覚まし時計に向かって叫んでいた。

 朝自分を起こす目覚まし時計の音ほど不快なものはない。

 今までに何個の目覚ましを粉砕してきたことか……。

 今日、俺を起こしやがった目覚ましは見るも無残な姿になっていた。


「ったくよぉ」


 そして俺は顔を洗うために洗面所へ向かう。

 この家は全部で家族四人だ。父、母、俺、そして……妹だ。

 俺の家族は変り者が多い。

 一階にある洗面所で運悪く変り者一人目、妹に遭遇してしまった。



 はぁ……めんどくせぇ



「あ……お兄ちゃん。おはよう」


「………ああ」




「今日は起きるの早いね」


「………ああ」

「お兄ちゃん、どうしたの?眠い?」


「………ああ」


 普通の人から見ればどこの家にもありそうな会話だ。

 しかし、俺にとっては苦痛なんだ。


 それは………


「おい、絵梨佳………」


「なぁに? お兄ちゃん」


「いい加減その『お兄ちゃん』っていう呼び方やめてくれないか?」


「なんで〜? 別にいいじゃん。兄弟なんだし」


「兄弟だからじゃねぇ〜!! だいたいお前、中学三年じゃねぇか」


 こいつの名前は絵梨佳えりか

 困ったことにコイツはまだ俺のことをお兄ちゃんと呼ぶ。

 家の中だけならまだいいんだ。

 でも、コイツの場合はタチの悪いことに町中で俺を見かけても『おにいちゃーん』と笑顔で駆け寄ってくる。

 当然周りにいる人々の視線は俺に集中する。

すごく恥ずかしいんだ。


 妹との会話が終わり、顔を洗って目が覚めたところで台所へ向かう。


「あら? ジュン、どうしたの? 今日はずいぶんと早いのね」


 そこには朝飯を作っている母と椅子に腰をかけて新聞を呼んでいる親父がいる。

 どこの家庭でもありそうな風景だ。


「ああ、今日は学校に行こうと思ってな」


 パリィィン!



 その時、母の手から野菜炒めを盛り付けようとしていた皿が落ちた。


「そ、そんな……アナタ! ちょっとアナタ!!」




「どうしたぁ!?」


 ち……近!!

 親父、いつのまに俺の背後に?


「ジュンが………ジュンが学校に行くそうよ!!」


「なぁにぃぃ!? それは本当かい!?」


「ええ……本当よ!! 入学式から一ヵ月……もう行かないと思っていたのに」


「おい! ジュン! 学校で何があった!? まさか、恋人かぁ!?」

「え!? 本当なの!? 悪い娘に引っ掛かったらダメよ?」


「そうだぞ! ママみたいな人を見つけるんだぞ?」


「いや〜ん、アナタったら……」


「愛してるよ……」


「私も……」


イチャイチャ



――なんでいつもこうなるんだろうか?

 仲がいいのはいいことだがな。

 毎日こんな感じだ。


「母さん、朝飯は?」


 イチャイチャ


「お〜い…ご飯は?」


 イチャイチャ


「…………」


 イチャイチャ




 イチャイチャ




「だぁぁぁぁぁあっっ!! めんどくせぇ! 俺はもう学校に行くからな。栄養失調で倒れてもお前のせいだからな!」


 イチャイチャ


「…………」



 ここまで無視されるのも辛いね。

 ははは、良い家庭ですね我が家は。

 本当にオマエら最高だぜ。


 はいはい、邪魔者息子は出ていきますよ。


 そして俺は家を出ようと玄関に向かう。


 その途中、


「ママ〜、朝ご飯は〜?」


 という妹の言葉に対し、


「はいは〜い、今作りますからね〜」


 という会話が聞こえてきた。

 振り替えるのはやめておこう。


 生きるのが辛くなるから。



 そして俺は家を出た。


「学校か……久しぶりだな」


 学校まで歩いて十五分の道を歩きながらそんなことを考えていた。


 今は五月の始めだ。

 四月の半ばからもう学校へ行かなくなったので二週間くらい行かなかったことになる。


「ほぉ〜んと〜に、久しぶりね!!」


「!?」


 いきなり後ろから聞こえた声に驚き振り替える。


 そこに立っていたのは、俺と同じ朱雀高校の制服を着た女の子だった。

 スラっとのびた髪は肩くらい。


背は160cmくらいで目はパッチリとしている………と、初めて見た人物を説明するように言ってみたが、実は俺はコイツを知っている。

 知ってるというか家が隣だ。

 もっと詳しく説明すると幼なじみというやつだ。



 よし、コイツの説明は終わったし、そろそろ学校に向かうかな? と思い目的地へと向かおうとする。


 当然、俺はその女に肩をつかまれる。


「ちょっとぉ!! こんな美女を無視してどこに行く気!?」


「…………」


「ちょっ……何よその馬鹿を見る目は!? つっこんでくれなきゃ私がナルシストみたいで馬鹿みたいじゃん!!」


「久留美……俺が『え!?美女?どこどこ(周りをキョロキョロ見渡す)』みたいなありきたりなリアクションをするとでも思ったのか?」


「う〜、思ってないけどぉ……」


「大体なぁ、美女っていうのはオマエの姉さんみたい人をいうんだぞ? 顔は綺麗だし、大学のミスコンに選ばれてるし、

性格もいいし、胸はそれなりにあるし………オマエのその性格はなんだ? クラスの男子を騙せても俺は騙されないぜ!?」


 コイツの名前は春風久留美はるかぜくるみ

 二人姉妹で妹にあたる。姉さんはかなりの美人だ。

 俺は久留美と幼なじみで実感がわかないが、クラスでコイツは可愛いらしく人気者だ。

 性格は俺以外のヤツにはいい。

 俺と話すときは急に性格が一変するという困ったやつだ。

 そんな久留美の外見と性格に騙されて告白し、撃沈したヤツは軽く二桁はいるだろう。


「………」


 当然久留美は黙り込んでしまった。

 すこし言いすぎたかな? と思い、謝ろうとしたときだった。


「久留美、スマ――」


「………言わせておけば」


「ん?」


「だまって言わせておけばぁぁ!!」


 そう言って久留美は俺の背中に飛び掛かってくる。

丁度オンブのような形になる。

 しっかりと首をしめるのを忘れない。


「コイツめぇ!!死ねぇ〜!!」


――死ねってなんだよ!? 喧嘩は今まで無敗なのにこんなヤツに殺されたら死んでも死にきれねぇ!!


「胸だって……胸だってそのうち大きくなるんだから!!」


――なるほど、胸のことが感に触ったのね。別に、久留美が小さいとは言ってないんだが……。つーかマジで死ぬ!!



 その時だった。


「お兄ちゃ〜ん」




 普段はこのセリフ聞くのはたまらなく嫌なのだが、この状況では神様の声のようだ。


「絵梨佳……助け……」


「あら! お兄ちゃん。それに久留美お姉ちゃん。朝から仲がいいのね!」


――馬鹿野郎! これが仲がいいように見えるか!?


「それじゃあね、お兄ちゃん。私、お邪魔みたいだから」


「絵梨……ぐぉっ!」


「ふにぁあっ!!」


――ふにぁあっ、って猫かよ!! マジやめろって!


「や……やめて…ふははい(ください)」


「誰がペチャパイですってぇ!!?」


――そんなこと誰も言ってねぇっ!! 誤解だ!! お前の聞き間違えだろうが!!




 この日、純也は16歳の少女に初敗北する。






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