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No.151 分からない。

黒沢高校のベンチでは作戦会議が行われていた。


「連続スリーポイントとはやられたねぇ。何としてでも点差を二桁にしておきたいところだ」


監督が選手たちの前にしゃがみ込み、そして話し始める。


「まずは絶対に次のオフェンスで得点しろ。鉄也はいけると思ったところから攻めればいい。どこからでも点を取れるのは俺たちの強みだからな」


そして監督が阿部を見て話を続ける。


「はっきりしたことがある。きっと交代で入ってきた9番で勝負を決めてくることは無い。間違いなく木ノ下薫か永瀬で来る」


「でも、9番はスリーポイントを決めるために出場しているんじゃないんですか?」


監督は少し考え込んだ後に再び答えた。


「これ推測なんだが、あの9番は入ることにより、中が空きやすくなっている。彼が入ったことで薫やほかの選手への負担が減ったことは事実だろう。それが狙いなんじゃないのか?スリーも2本連続で外しているしな。その証拠に最後のパターンは9番→永瀬→木ノ下だったし、9番はパスをしただけだ」


監督が渡辺の方を向き、話しかける。


「9番はある程度プレッシャーをかけたら、薫を止めた方がいい。アウトサイドからフェイド・ア・ウェイを平気なツラして決めてくる彼の方がよっぽど警戒するべきじゃないのか?」


選手たちは『確かに』と言った表情を見せる。そして阿部が選手たちを向き、気合をかけた。


「9番はダミー、本命は恐らく木ノ下か永瀬だ。あまり9番に構いすぎるなよ!」


『オス!』


その頃、朱雀高校ベンチでは…


「というわけだ。我利勉お願いできるな?」


「はい!頑張ります!」


作戦会議が終わったらしい。そのまま選手たちがコート上へと歩み寄る。


そして黒沢高校のオフェンス。鉄也は先ほどまで有利な状況だったにも関わらず、亮に不気味な気配を感じ取っていた。


(さっきのは偶然だろうが…)


鉄也がフェイントを混ぜながらボールをキープし続ける。


(この場面で一番点を取れるのは中野さんだろう。一旦、細川君にパスを出して…)


鉄也から細川にパスがまわされる。そしてある程度、細川に皆が注目していた。黒沢高校は3点とは言わず、ここは確実に点が欲しい。


細川が距離を詰めてシュートをしに行くが、博司が根性のディフェンスで行く手を阻む。そこで外に居た中野にパスを出した。中野はボールを受け取ると、すぐにシュートモーションに入った。


それに永瀬が反応する。中野は反応してきた永瀬の裏を突き、一気に中へと入っていった。


ダンダンダン!


一瞬だけ中野からゴールまでの間に隙が出来ていた。中野はそのままシュートモーションに入った。


「お前にはこの試合やられっぱなしだったからな」


「!?」


かわしたハズの永瀬がしっかりと着いて来ていたのだ。正確には、中野がかわした『つもり』になっていただけなのかもしれない。そして…



パシッ!



永瀬が見事に中野をブロックした。




「切り替えろ!絶対に抑えるんだ!」


阿部が選手たちに気合を入れていた。点差は10点。黒沢高校は意地でもキープしたいところ。鉄也のセーフティーにより朱雀の速攻を防ぐ。


亮から我利勉にボールが渡る。そして我利勉がシュートフォームに入った。先ほどよりも警戒が薄れているために、十分にシュートする余裕はある。


パシッ!



しかし、我利勉はシュートをせずに薫にボールを渡す。


「やはりな」


阿部が先ほどよりも厳しいマークで薫を抑えていた。我利勉がダミーだという予想が見事に的中する。


薫が中に切り込んできた永瀬にボールを出す。


(ざーんねん♪そこまでは完全に読んでいたんだよねー♪)


今度は中野が永瀬の動きを封じていた。この場面で警戒するべきはこの2人。


(さっきやられた仕返しにこっちもブロックしちゃうよ!)


永瀬を止めるために中野、渡辺が2人がかりで壁になる。そして次の瞬間…



『え?』



会場中が再び静まり返る。この場面でシュートを託された人物は我利勉だった。最初のパスで警戒が解かれていたために、ほとんどフリーの状態でパスが渡ってしまった。渡辺が慌ててカバーに戻った。


我利勉が冷静にシュートモーションに入っていた。



(自分には素質が無い。そう思って諦めようとしたことは何度もあった)



我利勉がゴールをまっすぐな目で見つめる。


(でも薫さんや永瀬さんの姿を見てずっと頑張ってきたんだ)


そして何千何万と練習してきた、いつもと変わらないモーションで腕を上げる。


(いまだに母親には理解されていないけど、やっと変われる場所を見つけたんだよ)


我利勉が体験入部の時に『上手い』と思っていた周りの人物は、結局一年も経たないうちにほとんどやめてしまった。結局はその程度のものだったんだろう。


(僕はこのチームの一員として戦いたい!純也君に言われた通りに、本気で戦いたいんだ!そして…)


我利勉の手からボールが放たれた。渡辺は完全に抑えることができず、前のめりな態勢になっていた。


(僕にとってもバスケットを見つけるために!)



ボールが宙を舞っていた。薫のスリーポイントとは違い、飛んでいる時間が長い。


落下してくるボールを選手たちはただ見ているだけしか出来なかった。


長い…



こんなに一瞬の出来事が長く感じられるなんて…。


ボールは空中で止まっているのかと錯覚してしまうほど落ちてこなかった。



カサッ!



リングの真上から打ち下ろされる形になるので、ほとんどネットが揺れることは無かった。



「ナイスシュートだメガネ君!」


純也の声が会場に鳴り響く。それとほぼ同じタイミングで観客の声援が追いかけてきた。


『わああああああああああああ』


『よくやたあああああああああああ!』



「メンバーチェンジ!青9番外れて、青6番入ります」


審判からメンバーチェンジが告げられ、我利勉がベンチに下がった。会場がその姿を見て再び拍手で包まれる。


そして会場でこっそり試合を観戦していた母親も静かに拍手をしていたのだった。


ベンチに戻った我利勉はぐったりとした様子で天井を見ていた。ライトが眩しくて一瞬視界がボヤけてしまう。




(ハハッ、まだ分からないや。困ったな。まだバスケットをやめられそうにないや…)



その後、しばらくの間会場が沸いていたのだった。

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