No.150 厄介なヤツ
黒沢高校のオフェンス。鉄也に亮がディフェンスをする。
この試合鉄也は自信に満ちていた。嫉妬の対象であった相手をこれでもかというほど叩き潰し、自分の父親を理解させたのだから。もう亮に負ける理由が無い。そう確信して鉄也は再びミスマッチを狙った動きで亮を攻める。
その時、亮はとても疑問に感じていることがあった。
(これ…手を出せば届くんじゃないんだろうか。でもわざとらしすぎて誘っているのか?)
もちろん鉄也のドリブルに無駄がある訳では無かった。そして次の瞬間。
パシッ!
「なにっ!?」
鉄也が驚いていた。手では無く、体ごと突っ込んできた亮がボールをカットしてしまったのである。かわされた後のリスクが大きいために、よっぽど自信があったとしか思えない。
(取れた…!?偶然じゃないのか?)
亮はそのままスティールからの速攻を始める。攻守が一斉に入れ替わっていた。
キュキュキュ!
黒沢高校の渡辺がカバーについていた。進藤はゴール寄りの場所でカットされたために、亮は味方ゴールまでの距離が遠かった。よって、黒沢高校には十分に戻って態勢を整えるには十分すぎる時間があった。
しかし亮はそのままのスピードで中に切り込んでいく。
(おかしい…わざとやってるのか? これはきっと俺を騙すための演技じゃないのか?)
(そして、薫さんは間違いなくここにいる。会場の音、ディフェンスの目線、そして薫さんなら間違いなくここにいるんだ)
亮はそのままシュートに行くフリをして、外にいた薫に向かって『その方向を見ずに』パスを出した。亮にディフェンスが集中していたために、薫がフリーの状態になった。
そして…
パスッ!!!
綺麗にスリーポイントが決まる。
ガタン!!
その時黒沢高校の監督が急に立ち上がった。勢い余って椅子が後ろへと弾かれる。その表情は目を丸くして、まるで珍しいものを見てしまった時のようだ。
「ま、まさかな…」
『ハハッ』と笑いながら黒沢の監督が試合の様子を見つめる。
ここまでの点差は13。点差を一桁に戻すにはあと数回ディフェンスで黒沢高校を止めなければいけない。
(ここまで役に立てていない分、なんとかして取り返さないと!)
我利勉が必死にディフェンスをしていた。そこそこ『やれる』と判断されているために、露骨に弱点を突かれることはなかったが、それでも現在の朱雀高校を攻略するには一番手っ取り早い相手だろう。
(まずはパスをまわさせない)
我利勉が渡辺についていく。
そして渡辺にパスが渡ってしまった。
(選択肢はドリブル、パス、シュート。全てに対応出来る距離を維持しよう)
渡辺が我利勉を見ながらドリブルをしていた。そしてそのまま我利勉を抜き去ろうとする。
(ドリブルで距離を詰めた。シュートを警戒しろ!パスは今のところ捨てていい)
渡辺が微妙な距離でドリブルを止める。すると再び我利勉が厳しいチェックをする。渡辺がとても嫌がるそぶりを見せ、パスを返そうといったん鉄也を見た。
(パスか!?いや…まだ二択だ)
そう思いきや一度ステップを挟み、我利勉との身長差を活かして渡辺がシュートモーションに入った。
我利勉のジャンプ力とリーチでは渡辺を抑えることが出来ない。しかし…
「コイツ…また膝を!」
渡辺が叫んだ。我利勉がフェイントに引っかからずに、相手が膝を曲げられないポジションを維持していたのだ。
(手だけでもこの距離ならうてる!)
渡辺はそう思ってシュートモーションに入った。渡辺の予想通り、ブロックに跳んでくることはなかった。その代わりに…
(しまった!目を隠され…)
渡辺がシュートする直前に我利勉が敵の視界を塞いだ。行く先が定まらないボールはリングに入ることが無く、そのままバックボードにぶつかってしまった。
「博司!」
亮が叫ぶと同時に博司がリバウンドに成功する。そして朱雀高校のオフェンスが始まった。
「やるねぇ。自分の身体能力が無いなら無いなりに、出来ることを全力でやるタイプだな。中途半端に手をつけているヤツよりはよっぽど厄介って訳だ」
黒沢の監督が関心した様子で我利勉を見ていた。
「しかし、ディフェンスだけなら6番の方がもっと色んなことが出来ただろう?彼を入れた理由はスリーーポイント以外ありえない」
朱雀のオフェンスが始まった。再び我利勉にボールが渡るが…
(く…警戒されすぎていてシュートどころじゃない…)
我利勉はドライブが無いと判断されているために、いつもよりも近めにマークされていた。黒沢のその判断は正しい訳だが。
中に入ってきた永瀬にボールが渡る。そしてそのまま薫にパスがまわされる。
「なにっ!?」
阿部の顔が一瞬で驚いたものとなる。薫は再び城清戦で見せたスリーポイントからのフェイド・アウェイを放っていた。阿部のブロックよりも先にボールがゴールへと向かって行く。
会場中が静まり返っていた。選手たちはリバウンドに向けて腰をおろしている。
………
「リバウンド」
薫がいつもの癖でそう叫んでいた。
………
スパッ!
『うわああああああああああ』
『すげええええええええええ!』
先ほどの静寂が嘘のように盛り上がっていた。そして黒沢高校のタイムアウトにより、選手たちはベンチへと戻っていく。
点差がまだ10点あるはずなのに、負けている朱雀高校が喜び、勝っていた黒沢高校が静まり返っている不思議な状況だった。