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No.146 自信

黒沢高校監督『進藤力也』についてキャプテンの阿部は、いつもこう語っていた。


「正直、鉄也の父さんが監督をしていることに今だに違和感がある」


彼は何故こう思っているのか?いや、彼だけではなく、きっと細川も同じようなことを考えているのだろう。


阿部、細川、鉄也の3人は同じ小学校の幼馴染だった。学年は哲也が1つ下だが、バスケを始めた時期はみんな一緒だった。そう、実業団のポイントガードとして活躍する力也の影響でだ。力也の試合が地元で行われるときは、いつも3人で応援に行ってたし、負けた時はいつも3人で落ち込んでいた。


そして休日になれば公園でバスケの勝負してくれることもあった。『指導』ではなく『勝負』だ。


「少しは手を抜けよ!鉄也の父さん!」


阿部がそう叫ぶ。しかし力也は笑いながら答える。


「嫌だね。俺は選手なんだ」


そう言って小学生を相手に全力でプレーする大人気ない男、それが力也だった。あくまでも現役に拘り、選手であることを主張する。阿部が先ほど『違和感がある』と言っていた理由がもうお分かりだろうか。


本来、人にものを教えるのが大の苦手な性格だったのだ。その証拠に、現在監督をしているのも、現役時代恩になった人の頼みで断れなかったから、という理由らしい。


「お前ら、前の大会で負けたんだってな。だっせぇ!」


「うるさいな!次やれば勝てるさ!」


進藤がそう叫んだ。


「次?はぁ…だからいつも負けるんだよ。確かに失敗を反省するのは大事なことだが、いざ試合になったら次は無いと思ってやらないとダメだぞ」


小学生にそんなことを言っても意味はない。その証拠に、話の途中から既にバスケで遊び始めていた。


「ま、今は楽しんでいりゃあ十分か」


力也はそう言って笑うと、子供たちがプレーしている中に混ざり、不意にボールをカットする。


「ああああああああああ!サイアクだよコイツ!!」


細川が駄々こねる。


「ははははは、悔しかったら俺からボールを取ってみろ!」


3人がかりでも力也からボールを奪うことができなかった。そして最終的には阿部と細川が二本の足を両腕で抱え込み、力也の動きを封じて、鉄矢がボールを奪いに掛かる。


それでもボールを渡したくない力也は、明後日の方向に向かってボールを投げ飛ばした。


敵が感念したのかと思って3人は力也から離れ、ボールに向かって走っていく。


ゴンッ!


しかしボールは電柱に当たるとそのまま力也の方向へと跳ね返って来たのだった。




『ああああああああああああああ!』


「ははははは!」


驚いている3人を笑う力也。そこにはもう大人と子供の壁は無かった。



中学校に入る頃には力也は現役を引退していた。最後まで現役を希望していたらしいが、プロの世界でやっていくには厳しい状況だったため、仕方がなかったと言える。引退後は仕事をしながらも週末は、子供たち3人を連れて、バスケットボールクラブに通っていた。


「鉄矢はもっと周りを信頼しないとダメだ。一人じゃあ絶対に限界が来るんだから。それに細川、阿部はシュート力が無さすぎる。離れてうつのが苦手なら、どうやって中に入るかを工夫するのも1つの手段だぞ」


子供が成長して、話が通じるようになったからか、小さい頃よりもアドバイスをくれることが多くなっていた。特に鉄也には期待しているらしく、大嫌いだった指導までしていた。鉄矢をそれが嬉しく思い、メキメキと上達していったのだ。


そして中学校最後の大会で稲川中に敗北してしまった翌日、彼らの運命を決める出来事が起こった。


「すまないなお前ら。ちょっと単身赴任することになっちまった。もうバスケットボールクラブにはいけないな。やりたくは無いんだが、バスケの監督をすることになった」


『ええええええええ!?』


驚く3人。小さい頃からの力也の姿を見ていれば当然の反応だった。


阿部が鉄也に話しかける。


「お前、当然進学先は決まったんだろ?」


「そうですね」


それを聞いただけでも阿部は鉄也がどこに進学するのか分かったようだ。


「俺たちが先に行ってるから、また一緒にやろうぜ」


「先輩たちも弱点を克服してくださいね」


「お前は正直すぎるその口を治しとけよ」


翌年、順番がおかしいが、鉄也を追いかけて先に黒沢高校に入学した阿部と細川なのであった。


------


----


--


***


朱雀高校対黒沢高校の試合をベンチで眺めながら力也はこんなことを考えていた。


(まさかあのモヤシっことオデブちゃん、更にはガキまで入学してしまうとは、まいったねぇ)


(しかし、本当に強くなったな。入学当初は中野が得点源になると思ったんだが、予想が外れてしまった。小さい頃のダメなイメージが強すぎたかな、ハハ)


力也がそう勘違いしてしまうのも無理は無い。このチームで圧倒的に成長したのが阿部と細川だったのだから。


阿部が再び薫をかわしてシュートを決める。


『わああああああああ!』


(最初はこの3人でバスケが出来ればいいと思っていた。だが今は違う…)


阿部がディフェンスに向かいながら選手達に気合をかける。


「気合入れていくぞ!」


『オオ!』


(絶対に負けない!朱雀にも、白川にも…!)


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