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No.141 うるさいハエ

女子の準決勝が終わりを迎え、ついに朱雀対黒沢高校の試合が始まろうとしていた。朱雀高校ベンチでは、薫を中心に最後の確認が行われている。


「…ということだ。先ほど控え室で言ったことは徹底して欲しい。」


『オス!』



「スタメンは俺、永瀬、亮、純也、博司で行く。しかし、他のメンバーもいつでも出場出来るように準備をしておいてくれ」


そう言って薫は周りのメンバーを見渡す。純也は『必要ねぇよ』と言っていたが特に触れずにスルーしていた。


ピィィイイイ!


審判が試合開始の合図を出した。両チームがコートの中央へと集、お互いに顔を合わせる形になる。



朱雀高校

4番 木ノ下薫 184cm

5番 永瀬勇希 185cm

6番 石川純也 172cm(入学当時よりも2cm伸びた)

8番 長谷川亮 168cm

11番 大山博司 198cm




黒沢高校

4番 安倍雅人 190cm

5番 中野翼 186cm

6番 細川啓志 198cm

7番 渡辺将 188cm

9番 進藤鉄也 184cm



 


「少しは強くなったのか? 今日は二軍の出番が無いようにしてくれよな。何のためにアップしてきたのか分からなくなるからよ」


突然敵チームの大男『細川』が朱雀メンバーに向かって挑発の言葉を浴びせて来る。その言葉に純也が顔を真っ赤にして反応すると思いきや…


「ははっ、確かに一軍が使えねークズばっかだったら、二軍の選手に頼ったほうがマシだろうな。せーぜー監督にメンバーチェンジされねぇように怯えてろよオッサン」


「なんだと!?」


『君たち!私語は控えるように!』


すぐにさま審判が2人に注意をした。喧嘩腰になっていた細川を他のメンバーが抑える。ストリートの罵声が飛び交う中で育った純也に口喧嘩を挑むのは無謀とも言える。


『お互いに礼!』


『お願いします!』


お互いの選手が頭を下げ試合が始まる。細川は純也が気に入らなかったのか、軽く頭をさげてセンターサークルの中へと入る。


「けっ、俺の相手は関東大会と同じど素人かよ。退屈な試合になりそうだぜ」


「こ、今度は負けませんよ!」


普段は気の弱い博司だが、今は気合が十分に入っているために相手を逆に睨みつけていた。


審判がボールを高々と上空に向かって放り投げた。それに合わせて細川と博司の2人は同時にジャンプをする。



パシッ!



細川の方が高めに跳んでいたのだが、博司はリーチが長いために勝負はほぼ互角となった。


行き先が定まらないボールがサークルの外へと飛び出す。


パスッ!



ボールをキャッチしたのは黒沢高校9番進藤鉄也だった。朱雀高校のメンバーはすぐにハーフラインまで下がり、予め決めていた相手をディフェンスする。




「まだ懲りてないみたいだね」


「…………」


進藤鉄也が亮に向かって話しかける。亮は集中していたので特に相手にはしなかった。


インサイドに入った細川に進藤からのパスが送られる。細川はボールをキャッチするとその場でどっしりと構えた。


「へい!パス!」


細川が入ることにより小さくなっていた陣形に、外にいた中野が声をかけた。細川は中野にパスを出すと思いきや…


パシッ!


中に切り込んできた渡辺にボールが渡った。中野に注意が惹きつけられていたため、インサイドに一瞬の隙ができていた。渡辺はそのまま高さを活かして純也をかわし、ゴールを決める。



『わぁあああああああ!』


『わったっなべっ!わったっなべっ!』』



進藤と細川によりトリックプレーに見事にはまってしまった。黒沢の強みはインサイドを使い、攻撃の起点を作りやすいことなのだ。


亮がボールを運び、敵のディフェンスを見て驚きの表情を見せる。


「ふざけやがって…」


亮がそう呟いた。博司がほぼノーマークとなり、代わりに細川が純也よりに配置されていたのである。


「さて、朱雀さんはどうくるかな?あの11番は得点能力が『全く』ないんだろう?違うか?過去のスコアを見させてもらえれば答えはもう出てるんじゃないのか?」


黒沢の監督が試合を見つめながらそんなことを言っていた。これは恐らく監督の指示だろう。


亮が進藤のディフェンスをかわしながら考え事をしていた。


(まいったな…。博司の得点力はほとんど0に近い。ディフェンスは元々持っていた足腰の強さと忍耐力で、上手い選手相手でも騙し騙しやれていたが、ここまで極端に弱点を突かれるとは思っていなかったな…)


「おい亮!よこせ!」


純也がボールを渡せと催促してくる。亮は一度薫にパスを出すふりをして純也にボールを渡した。


「ったく…随分と嬉しい『おもてなし』じゃねぇかよ。こんなザコ共、俺が2人かわせば問題ないんだろ?」


そう言って純也がドルブルをして、一瞬でトップスピードに入った。


キュキュッ!


渡辺が純也についていく。普段は目立たない選手だが、スタミナとディフェンス能力を買われてレギュラーに定着しているために簡単に抜くことは出来ない。


「遅過ぎて欠伸が出るんだよ!」


しかし、純也のスピードが更に上をいっていた。渡辺を一瞬でかわすとそのままダンクシュートに入る。


パシッ!


ボールが叩きつけられ、凄い音が辺りに鳴り響く。


「うるせぇハエだな」


地面に倒れこむ純也を上から見落としていたのは細川であった。博司を守らなくても良いため、割と遊撃した動きが出来ていたのである。見事に純也は細川に叩き潰されてしまったのだ。



「ちっくしょう…ふざけやがって…」


この時、純也の目つきが変わったことに誰一人として気がつくことはなかった。

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