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No.138 根性なし?

純也が猛ダッシュで我利勉の家へと向かっていた。その後を必死に久留実が追いかける。流石に無尽蔵な純也のスタミナには敵うはずもなく、ジリジリと離されていく。


目的地についた純也は乱暴に家のドアを開けるとそのまま家の中に向かって叫んだ。



「おぉおおおい!我利勉! 出てきやがれ!」



当然我利勉が出てくるはずもなく、代わりに母親が姿を現した。



「な、なんですか!?ひっ…非常識な! わかったわ、バスケ部の人ね!本当に常識のない!!!周りがこんなのばっかりだからウチの翔ちゃんは…」


「おぉおおおい!我利勉!無視すんな!」



出てきた母親は一切相手にせずに純也は叫び続けた。しばらく経っても出てくる気配が無い。


「す、すみません! はぁはぁ…」



遅れて久留実もやってくる。すぐに我利勉の母親に謝ったが、流石に走ったあとなので体力が回復していなかったらしい。膝に手を当てて呼吸を整えていた。



「脅しじゃありませんからね!本当に警察を呼びますよ!?」


「そ、それだけは! 今このバカを連れて行きますので!」


久留実は無理やり体を引き起こすと、今度は純也の服を掴み「グイグイ」と引っ張る。



「我利勉!聞こえてんだろ!?親がどうこうじゃなくてな!お前の気持ちはしっかりと伝えたのかよ!!ウジウジ心の中で考えてても、お互いに超能力者じゃねぇんだから相手には伝わるわけねーだろうがっ!!」


「純也!いい加減にして!今までの練習がパァになっちゃうじゃないの!!」



久留実を無視して純也が叫び続けた。その間も必死に久留実は純也を連れて行こうとする。



「そんな中途半端な気持ちで来られたとしても足引っ張られるだけなんだよ!勘違いすんなよ!?本気で戦う気のあるヤツしかいらねーんだからな!お前にとってバスケってのはそれだけだったのかよ!たった一言もいえねーくれぇの根性だったのかよ!えぇ我利勉!?なんか言ってみろよ!」



『君の言うとおりさ!』



我利勉が家の奥から姿を現した。


『僕にとってバスケはそれだけの存在だったんだ。迷惑だから帰ってくれないか?』


鋭い目つきの我利勉がそこにいた。純也は『チッ』と舌打ちすると、『行こうぜ』と久留実に声をかけて学校に戻っていったのだった。久留実は会釈を一度お母さんにしてから純也の後を追う。



「翔ちゃん…わかってくれたのね! お母さん嬉しいわ!」


「…………」



(これで良かったんだ。ウチの母さんには話が通じない。これ以上部の皆に迷惑をかける訳にはいかないんだ…)




――――たった一言もいえねーくれぇの根性だったのかよ!



(そうかもしれないな。親の言いなりになってきた自分にはこれしかなかったんだ。)



――――――


――――


――




場所は変わってインターハイ予選大会の会場。軽い練習を終えた朱雀のメンバーは、純也と合流して市営のバスで現地に向かった。その際純也はイライラした様子で一言も喋らなかった。


薫も純也の様子から我利勉の説得に失敗したのだろうと悟り、深くは触れなかった。



「勝つぜ…あんなヘタレに少しでも期待した俺がバカだったぜ。俺が2人分働けば勝てる」


沈んでいると思いきや、純也は燃えていた。きっと純也の中でも「今日の試合は我利勉がいないと厳しい」とどこかで考えていただけに、先ほどの出来事が余計にイラっときてしまったのだろう。『2人分働く』というのは我利勉のことを指しているのは言うまでも無い。


建物の中に入ると、今日で決勝に進む2チームが決まるということで、大勢の観客が会場に来ていた。


ロビー付近で待機していた純也のもとへ、「知ってる顔」が歩み寄る。その人物をみた純也は驚きの声をあげる。


「カ、カズ!」


「よう。お前らもここ(ベスト4)まで残ってんだな」


「楽勝だったぜ!」



純也の顔に笑顔が戻った。それをみた久留実はどこかホッとした様子だった。


「まったく…退場してた癖になにが『楽勝だったぜ!』よ…」


「うるせぇ! どっちにしろ俺が居なかったら負けだったろうが!」


「それはどうでしょうねぇ~」


純也と久留実がにらみ合っていた。それを見たカズはハハハッと笑う。



「本当は話しかける予定は無かったんだがな。さっきのお前を見ていると『熱くなりすぎている』気がしてな」


「…! んなことねぇよ!」


図星だった純也は一瞬驚いた顔を見せるが直ぐに否定した。



「一応敵だからな。しかし、お前には決勝まで来てもらわないと困る」


真面目な顔になりカズは純也に話を続ける。


「次の試合、お前が熱くなりすぎると負けるぜ。気をつけるんだな」


「ああ? 余裕だろ。心配する要素がないっつーの」


「ディフェンスが堅いんだよ。城清みたいな組織的な堅さじゃない。特にインサイドの堅さは俺たちでも手を焼くほどだ。じゃあ、アドバイスはしたぜ!」


そう言うとカズは再び笑顔になり、純也から離れて歩き始める。


「決勝で待ってるぜ!」


まだベスト4だというのに、カズは決勝まで勝ち進んでいるつもりらしい。恐らくその通りになるだろうが、これが強豪校というやつなのか。



『決勝で待ってる というのはどういう意味ですかね?森村一樹さん』


カズは声のした方を向くと、まるでヤバイものを見てしまったようなリアクションをとった。


「ゲッ!」


「まるでウチが朱雀に負けるような言い方ですね。今年は覚悟してもらいますよ」


そこには黒沢高校のPG進藤鉄也の姿があった。彼は一年前の大会で森村に何もかも完敗している。そのためにライバル心を燃やしていたのだった。


カズは『どうしよう』といった様子でキョロキョロしていたが


「け、決勝で待ってるぜ!」


と、使い回しのセリフを鉄也に言うと、そそくさと会場の何処かへと消えてしまった。



「フン…朱雀は黒沢の敵ではない」


進藤鉄也は朱雀メンバー達に聞こえない声でそう呟くと、軽く睨みつけると、何処かへ居なくなってしまったのだった。


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