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No.134 俺ならもっと活かせる

夏のインターハイ予選会場。城清高校との試合を終えた朱雀高校バスケ部員達は、明日戦うことになる黒沢高校の試合を2階席から静かに眺めていた。


1度関東大会で負けている相手なので、選手たちはとても真剣な様子だった。試合は準決勝だというのに実に一方的な展開であった。キャプテンの安倍雅人は190cmながら高い技術力で敵チームから得点し、それを活かすのは2年生の『天才』進藤鉄也。外からは長身の中野翼がスリーポイントで得点する。ゴール下には198cm県内3大センターの1人細川啓志が鉄壁の守りで待ち構え、同じく守備に定評のある渡辺も確かな業を見せる。


スターティングメンバーの身長も白川第一をも上回る189、2cmと、かなりの大型のチームだった。1番背の小さな進藤でさえ、朱雀の長谷川亮とは15cmほどのミスマッチが発生してしまうのだ。


結果は圧倒的だった。試合を終えた黒沢高校の選手たちは挨拶を終えるとハイタッチをして、控え室へと消えていったのだった。


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「やっべー、早くしねぇとバスに遅れちまう!」


亮は突然の尿意に襲われ、まもなくバスが出発するにも関わらず体育館のトイレに急いでいた。目的の場所へたどり着き用を足す。


「ふぅ~~~」


この時の感覚はきっと誰もが幸せに感じることだろう。そしてそんな亮に横から話しかける人物がいた。


「ははは、そんなに急いでどれだけ我慢してたのかい?」


亮は「ハッ」となり、隣にいる人物に目をやる。そこには明日の敵チームの監督「進藤力也」が居た。元実業団のポイントガードで、現黒沢高校のポントガード鉄也の実の父親でもある。亮は何を話していいのかわからなかったので、とりあえずシンプルに挨拶をした。


「ども…」


その様子をみた力也はハハハ、と笑って亮の背中を軽く叩いた。


「!?」


「まだウチ(黒沢高校)の誘いを断ったことを気にしているのかい?それなら大丈夫さ」


「いえ…そういうわけじゃ…」


戸惑う亮に力也は容赦なく話しかけていた。


「俺も今では監督なんてやってはいるが、昔はずっとプレイヤーだったんでね。選手たちが時折羨ましくてしょうがないんだよな。そして無意識の内にそこらのポイントガードと過去の俺を比べちまうんだな、これが」


「………ハハッ」


1人で笑い出す力也に亮はただ愛想笑いを浮かべるだけだった。


「そしてな、たまに出会っちまうんだよ。過去の俺と比べたとき、ワクワクさせてくれるような選手がな。それが亮君、君だったんだ」


「いや、俺はそんなんじゃ…」


「白川の森村なぁ。ありゃあ、お前さんとは違うタイプの天才だよ。どこへ行っても誰の下についても『自分の』能力を発揮しちまうだろうさ。彼を獲得に失敗したときは少し残念だったが、俺個人としては君の獲得に失敗した時の方が痛いと思っちまったんだぜ」


呆然とする亮に力也は続けた。


「中学での君の試合を見たとき、俺ならもっと才能を開花させてやることができるって思ったんだよな。君は森村にも決して劣らない才能を持っているのさ。おっと、敵を褒めすぎたようだね、失礼。つまりなぁ」


力也は一瞬だけ真剣な顔つきになった。



「今の君ではウチには勝てないよ」


「なっ!?」


「他と噛み合ってないんだよな。一応敵なんでこれ以上は言えないが、高校時代の俺でも、朱雀の選手をもっと活かすことが出来るぜ」


力也はズボンのチャックを締め、再び笑顔になって亮に話しかけた。


「はは、こんなことを言っておきながら言うのもなんだが、そんな暗い顔すんなよな。俺は君のファンでもあるんだぜ?君を見ていると現役時代の自分が見えるようで楽しいんだよな。だからこそきつく言ってしまったことは謝る」


『父さん、早くいかないとバスが出ちまうぜ』


「おっと鉄也、居たのか」


不意に後ろの方から声が聞こえた。そこには黒沢高校のポイントガードであり、力也の息子でもある鉄也が居た。


「ああ、部長が監督を探してこいってな。迷惑かけんなよな」


「おっとすまねぇ、ハハ」


そして鉄也は亮に一瞬だけ目をやる。闘争心むき出しの鋭い目つきであった。そして誰にも聞こえないような声でつぶやいた。


「所詮は中学あがりさ…」



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(森村…長谷川亮…、さっきの会話に俺の名前は一切無かった。なんでなんだよ…チクショウ…! 俺とあいつらにどんな差があるってんだよ)










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