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No.132 届け…!

監督がベンチへ帰った選手達に声を掛ける。

 

「うむ、良い顔だ。」

 

そう言って選手たちの顔を1人ずつ覗き込む。そしてなにやら納得したように笑みを浮かべて続けた。

 

「もう私から言うことは何もない。残り15秒、恐らく最後のチャンスだ。近江、頼んだぞ」

 

『はいっ!』

 

 ベンチで休む選手たちに向かって近江が口を開く。

 

「ウチはどこからでも点を取れます。しかし、最後のチャンスだからと言って臆病になってしまっては、かえってミスに繋がるでしょう。いけると思ったときは積極的に狙っていってください」

 

「ああ、俺も同じ気持ちだぜ」

 

 石塚が呼吸を整えながら近江に言った。それに佐藤が続く。

 

「なんたって僕らは信頼しあってる仲間だからね。1人のプレーは皆のモノ。誰も文句なんて言わないさ」

 

全員バスケ。これが城清の本当の強さなのだ。まだ点を取れる可能性は十分にある。

 

やがて審判が最後のタイムアウトの終わりを告げる合図を出す。両チームの選手たちはコートに戻っていった。

 

ハーフラインから試合が始まる。朱雀は相変わらずのマンツー。ここまで来たのだから死に物狂いでディフェンスをする。石塚もなかなかパスを出すことが出来ない。

 

「こっちです!」

 

 近江が叫ぶと同時に、石塚から近江へとパスが回る。

 

「絶対に抜かせねぇ…」

 

亮が厳しいチェックで近江にプレッシャーをかける。近江はいつものように冷静な様子で、亮に反応することは無かった。

 


残り10秒…。


近江がフェイントをかけて亮をかわそうとする。しかし亮も簡単には抜かせない。

 

キュキュキュッ!

 

地面を蹴る激しい音がコートに鳴り響く。

 

「こっち!」

 

 佐藤が中に切り込んできた。近江は横に移動しながら佐藤の方に目をやる。そして近江は僅かに開いた隙間から外にいる杉山にパスを回した。

 

 

杉山がすぐにシュートモーションに入る。永瀬も同時にブロックをしに行く。

 

杉山が地面を蹴りジャンプをする。

 

(先輩、後はたのみます)

 

 しかし、杉山はシュートはフェイントだったようで、永瀬の横からパスを出し、石塚にすべてを託した。

 

(みんな同じ気持ちだったようですね。石塚君、信頼してますよ!)

 

 近江がそう考えながら石塚を見ていた。

 

 残り5秒。

 

 石塚はボールを手にするなり、すぐに動き出していた。その顔にもう迷いは無い。

 

(近江…お前がいたから俺はここまで成長できた!)

 

 ドリブルをして一気にリングに突き進む。3年間磨いた瞬発力であっという間にディフェンスをかわした。

 

(イラっとしたときもお前を見るだけで冷静になれたよ。いつもニヤニヤしやがって…佐藤!)

 

 時がスローモーションで流れる。

 

(大蔵、杉山…よくこの学校に来てくれた。良い刺激になったぜ)

 

 石塚が地面を蹴ってリングに向かってジャンプをした。それに合わせて後ろから薫も跳ぶ。

 

――――――

 

――――

 

――

 

***

 

『そ、その…俺たちで目指そうぜ! イ…イ…あーやっぱだめだ!』

   



『インターハイ行こうよ!!』

 


 

『ええ、僕は最初からそのつもりでしたけど?』




 

 本当はな…自身が無かったんだ。怖くて…恥ずかしくて言えなかっただけなんだ。中学時代、補欠の俺らがインターハイなんて口が裂けても言えねぇ。

 

 最初は冗談だと思ってた。でも3年間一緒に練習して気づかされたんだ。

 

 目標にしていいんだって。それは全然恥ずかしいことじゃないんだって。


――――――

 

――――

 

――

 

***

 

「うおぉおおおお!」

 

石塚がトップスピードのままジャンプする。今まで何千、何万回と繰り返したシュートを繰り出す。


 ディフェンスが追いつく前に…とにかく速く!

 

(今ならハッキリ言える)

 


――俺たちで目指そうぜ! インターハイ!

 

 石塚の手から離れたボールはリングに向かって勢い良く向かっていく。

 



――届けっ!



 

――届けぇええええっ!



 

 精一杯手を伸ばして放ったシュート。しかし前回とは違い石塚はしっかりとボールの行方を目で追っていた。

 


パシィッ!!

 



『なっ!?』

 

 会場が静まり返る。石塚の後方から手を伸ばした薫が、見事にボールをブロックしていたのだった。

 



 

ビィイイイイイ!

 




 試合の終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 





 試合が終わったというのに声援が全くと言っていいほど聞こえなかった。近江がゴール下で地面に膝をついていた石塚に歩み寄る。

 

「なんでだよ…」

 

「石塚君…」

 

「なんでだよぉおおお!くそぉおお!」

 

 そう叫びながらコートを何度も手で叩いた。やがて、叩くのをやめ、石塚はそのまま顔を上げずに近江に向かって何度も繰り返した。

 


「ぐ…ひぐっ…本当に…すまねぇ…」

 

「顔を上げて僕らを見てください」

 

 近江の言葉に石塚は顔をあげてメンバー達を見る。

 

 2年の杉山は目に涙を浮かべて必死に泣くのをこらえている様子だったが、驚いたことに他の3年生は笑みを浮かべて誇らしげな様子だった。

 

「ここにいる誰が欠けても今日のような試合は出来なかった。もちろん石塚君もね」

 

 そう言って近江が手を差し出す。石塚は近江の手を握るとフラっとしつつも、立ち上がった。

 

「なんか不思議な気持ちなんだよねー。やることを全部やれたって言うか…。なんだか仲間が凄い誇らしい気分なんだよ。全く悲しくないかといえば嘘になるけどね」

 

佐藤が笑顔で石塚に向かってそんな風に語りかけた。

 

「さあ、行きましょう」

 

 近江が振り返ってセンターサークルに向かって走り出した。その瞬間、今まで抑えていた分の声援が一気に沸いた。

 

『じょ・うっ・せい!じょ・うっ・せい!じょ・うっ・せい!』

 

『石塚ぁああ!薫からとった1本、かっこよかったぞおお!』

 

『いつでも応援してるからなああ!』

 

 センターサークルで向き合った両チームの選手たちは礼を終えると共に握手をかわした。

 

「今日は『僕ら』の負けです。この大会絶対に優勝してくださいね」

 

「ああ、ありがとう」

 

 近江と薫が握手をかわす。純也が近江に歩み寄り、声を掛ける。

 

「今日の借りはいつか絶対に返させてもらうからな!次は覚悟しとけよ!」

 

「次…か、ふっ…」

 

近江が差し出した手を、純也はガッチリと掴んだ。

 

(気がついていないようですね。アナタが第3ピリオドのラストに放ったシュートが試合を決めたことを)

 

 そして近江と他のメンバーはベンチで待つ監督の元へと歩いていったのだった。

 

――予想以上に6番にやられた。敗因はただ1つ、それだけです。


 

その後、暫くの間、会場中がこの試合の話題で沸いていたのだった。

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