No.131 フェイド・ア・ウェイ
次回、いよいよ城清編が完結!でもまだ何かありそうです。
パシィイ!
ボールがはじかれる鈍い音が体育館中に鳴り響く。誰もがその光景を、信じられないといった様子で見ていた。
「え…」
なんと博司が、大蔵のシュートをタイミングよくブロックしたのである。本人が1番驚いているらしく、状況を把握するのに少しだけ間が空いてしまった。
「博司!」
亮が叫で我に返ったらしく、すぐさま亮にパスを出した。残り30秒を切ってた。
点差はわずか2点。
急いで城清が自陣の守りを固める。
(ここを抑えれば勝てるんだ!)
城清のメンバーたちの心が1つになっていた。最後の力を振り絞り必死にディフェンスをする。
(くっ…なんて圧力だ。一線すらかわせねぇ…)
亮が必死にボールをキープしていた。永瀬がポストへと入り、亮からボールを受け取った。
しかし素早いディフェンスにより、あっという間に大蔵、佐藤の二人に囲まれてしまう。
永瀬は冷静だった。一度フェイントを掛けるとディフェンスの穴に向かってドリブルをする。
(引き付けるんだ…もっと!)
そして永瀬は外に『いるはず』の薫に向かってすぐさまパスを出す。
シュッ!
そこには確かに薫がいた。石塚もそのパスを読んでいたらしいが、僅かに手が届かずに薫へのパスを許してしまった。
「やっぱり最後はアンタだよなぁ…抑えてやるぜ!」
石塚が気合の入ったディフェンスでプレッシャーをかける。これで薫の得意とするスリーを封じる意味もあるらしい。シュートの隙を決して与えない。
薫が相手の目を見ながらドリブルをしていた。残り時間は20秒も無い。必死に距離を詰めてくる石塚に対して、レッグスルーを1度入れた後、なんと薫は更に後ろへジャンプしたのだった。
「ナニィッ!?」
体を後ろに投げ出すようにして放つシュート。
しかしこのシュートを使うにしては距離が遠すぎる。
スリーポイントラインから1メートル以上も離れ、更には体を後ろに倒しているため腕の力に頼るしかない。石塚も慌てて手を伸ばすがボールはすでに薫の手から離れ、リングに向かっている最中だった。
ゆっくりとした時間が流れる。
ドクン…ドクン…。
会場中の…隣のコートの客席まで、薫のシュートに注目していた。
朱雀メンバーの脳裏に、先ほど薫が言った言葉が浮かぶ。
――皆、俺についてきてくれ。必ずなんとかする
薫の腕から放たれたボールが、重力に任せて落下を始める。薫は勢いのあまり後ろに倒れてしまったが、すぐに起き上がりいつもの言葉を叫んだ。
博司、大蔵、佐藤、永瀬の4人がボックスアウトをしてボールの行方を目で追っていた。
ドクン…ドクン…。
スパッ!
ボールはまるでこうなるのが決まっていたかのように吸い込まれていった。
会場中が静まり返った。隣のコートの観客まで口を手で覆って信じられない、といった様子で隣コートの試合を見ていた。
『わぁああああああああああああああ』
『なんだこれ…!すげぇえええ!』
『これ高校の試合だよな!?』
そして一気に会場が歓声に沸いた。同時に城清ベンチがタイムアウトを取る。
会場がどよめく中、選手達はベンチへと戻っていく。
「てめぇえ!こんなシュートを隠し持っていたのかよ!マグレ!!」
ベンチに帰るなり純也が薫を祝福していた。その言葉に亮が興奮した様子で返した。
「マグレじゃねぇよ。薫さんが全中の決勝戦、ラスト3秒で放ったシュートが今の『フェイド・ア・ウェイ』だ」
「中学生でスリーポイントラインからのフェイド・ア・ウェイとは…」
我利勉が信じられないといった様子でその話を聞いていた。現白川第一高校の監督が、現在のエース五十嵐よりも先に、実は薫に声を掛けていたというのは有名な話なのだ。その際、監督が1番薫の評価していた部分は『空間認識能力』と、とびぬけた『ボディーバランス』だった。
今のシュートは決して偶然ではなかったことが判る。
「試合はまだ終わってない」
薫が選手達に声を掛ける。そしてそのまま城清のベンチに目をやった。
彼らの目はまだ死んではいなかった…。
残り15秒。スコアは58対57。
きっと何かが起こる。
会場中が息を呑んでこの試合を見守っていた。