No.13 桜とタコ
朝目覚める。
またムカつくくらいに小鳥の野郎共がチュンチュンと鳴いている。自分がもし飛行能力をもっていたのなら、すぐさま追跡して捕獲して更に焼き鳥にしてやるのに……。
「命拾いしたな…」
特に意味のない言葉を呟いてから、俺はいつものように時間を確認して洗面所に向かう。
「あ、お兄ちゃん。オハヨー」
「ああ」
洗面所からでてきた妹とあいさつをかわし、俺は顔を洗う。
パシャパシャ
「う〜、冷てぇ」
冷たい水は俺の眠気を一瞬で覚ましてくれる。さっきまで寝ていたのがウソのようになる。
「あら、純也。おはよう」
「ああ」
居間に行くと母さんがあいさつをしてきたので一応返す。
テーブルには朝食が並んでいる。親父はあいかわらず新聞を読むことに夢中だ。
「いただきます」
俺は勢い良く朝食を口に運ぶ。
5分とかからずにかたずけることができた。
「ごちそ〜さま」
そう言って俺は制服に着替え、そのまま久留美がむかえにくるのをテレビを見ながら待つ。
丁度よく『お目覚めテレビ』という番組で占いがやっていた。
ちなみに俺は乙女座だ。
『次は乙女座のアナタ!!』
「お?きたきた!」
『乙女座のアナタ!今日はまったくよいことがありませんなり〜。喧嘩をしている人がいたら早く仲直りするなり〜。特に身長170センチ、坊主頭、気性が荒い性格の人は気を付けるなり〜』
……………………。
……………………うん。
「占いのクセに具体的すぎるだろ!!!なめんなよコラ!おいコラ!コアラ!!でてこいよコアラ!!びびってんのかコラ!?テレビから引きずりだすぞ、このコアラ!!」
※『お目覚めテレビ』の占いのキャラクターはどうやらコアラのようです。
『それじゃあ気を付けるなり〜。僕は知らんなり〜』
「なにが『しらんなり〜』だコラァ!!ナリ?さてはてめぇキ○〇ツんとこのコ○○ケだろ!?チョンマゲひっこぬくぞ!!」
「純也!!朝からうるさい!」
「あ?ああ、すまんね」
母さんに注意されてしまった。
しかし何なんだこの占いは?まあ、占いなどこれっぽっちも信じちゃいないんだが、このコアラ野郎は気にいらねぇ……。
そのままニュースでも眺めて久留美を待つことにした。
――――――
――――
――
「なんでむかえにこねぇんだよ!!」
さっきののんびりムードとは一変して今俺は急いで走っている。
久留美がむかえに来るのを待っていたのだが久留美は何故か来なかったため、こんな状況になっている。
久留美の家の前で止まり、インターホンを押した。
ピンポーン
…………
ピンポーン
…………
相変わらず反応なし。
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン!
『ふわぁ〜い、どなたぁ?』
しばらくして返事とともに中から出てきたのは眠そうな女性だった。
いかにも寝起きといい感じの頭で目をこすっている。茶色の髪は肩くらい。身長は160くらいだ。
「どなたですかぁ〜?」
「ど、どなたですかって……俺です、純也ですよ」
「あら?純也くん?」
そう言って目をぱっちりさせながら俺に顔を近付けてきた。綺麗な顔で思わずドキッとしてしまう。
この女性は久留美の姉の『春風桜』さんだ。今は寝起きだが、普段は超がつくほどの美人だ。前にも言ったが大学のミスコンに選ばれるくらいだ。
「あらあら、純也くん。そんなに急いでどうしたの?」
「久留美が今日、むかえに来なかったんで……」
「純也くん」
「……はい?」
突然桜さんが俺の名前を呼んだ。
「プリン食べる?」
どかーん!!
思わずコケそうになる。
この緊迫とした雰囲気で相変わらずおっとりとした口調だ。
とゆうか、どっからプリン出した!?マジックか!?
「い、いいえ、別にいらないっす……」
「あらそう…残念ねぇ。プリンおいしいのに」
そして桜はプリンを食べようとフタを開けたところであることに気付いた。
「ああ!!」
「どうしました!?」
俺は桜の言葉を待ち、唾を飲む。
「大変!スプーンがない!!」
ドッカーン!
コケてしまった。
つ〜か、プリンをいきなり出すことができたならスプーンも出せよ!!セットで出しなさい。たやすいでしょう?
「ちょっとまっててね〜」
そう言って桜さんはスプーンを取りに家の中に入ってしまった。
しばらくして戻ってくる。
「ごめんなさいねぇ〜」
そう言ってプリンと一緒にもってきたものを取り出す。
だが言っておく。桜さんのもってきたものはスプーンではない。決してスプーンなんかではない。
すごいツッコミにくいのだが一応聞いてみる。
「あの……ソレ何?」
「え!?何ってスプーンじゃないの」
「違います。よく目をこすって見てみなさい。明らかに丸いでしょう」
そして桜さんは自分の持ってきたものをまじまじと見る。
「あらいけない!!これ、『石』だわ」
ストーン!!
この人、スプーンとストーンを間違えてるよ!!
スゲーよ!なんかすげぇ!すごい知的なボケだよ!
「じゃあこっちね」
そう言って桜さんはどこからともなくスプーンを取り出した。
スプーンだせるのかよ!!だったら初めからだせよ!
「あ〜おいしい」
パクパク
桜さんはプリンを食べ初めてしまった。
パクパク
「あの〜、桜さん?」
「あら、純也くん」
『あら』って……。
「久留美はいますか?」
「ふ?ふるひはらはっほふひひっへふほ〜」
「プリンしっかりと食べてからしゃべってくださいよ!!」
ゴクンとプリンを飲み込んでから桜さんは答えた。
「久留美なら学校に行ってるよ〜」
「失礼しました」
その言葉を聞き、俺は速攻学校へ向かう。
「純也くん」
桜に呼び止められた。
「今度は何ですか?」
「はい」
そう言って桜さんが投げたものを俺はキャッチする。
「……これは?」
「タコよ。知らないの?」
タコは生きたまま俺の手に絡み付いてくる。
うねうね
「…………」
どうしよう、この状況。
ツッコミどころ満載なんだが……。
「一緒に泳いでね」
「ええ、がんばります」
とりあえずつっこんでいると遅刻してしまいそうなので話を合わせておく。
「それじゃあ純也くん、いってらっしゃ〜い」
「はい、それでは」
俺は学校に向かって走りだした。