No.129 焦り
「行くぞ!」
「はい!」
石塚のシュートにより点差を8に広げられた朱雀高校だったが、気持ちを切り替え、すぐに反撃を開始する。
亮は後半にもかかわらず、素早いドリブルでディフェンスをかき回す。それに合わせて他の部員達も動き回っていた。
「持ちこたえるんだ!」
近江に合わせて、他のメンバーも次々とコート内を動き回る。すると亮が不意に自分の背中越しにパスを出した。
シュッ!
そのボールを朱雀高校キャプテン、木ノ下薫がキャッチをする。大分動き回った後だと言うのに、特に肩から息をしている訳でもなく、いつもの冷静な顔つきだった。
「くっ!」
急なパスにすぐさま近江が反応するも、ボールは薫の手に渡ってしまっていた。そして…。
スパッ!
素早いフォームから繰り出されたスリーポイントシュートが見事にリングに突き刺さった。すぐに近江はボールを拾い、エンドラインから杉山へとパスを出した。
残り3分。点差は5点。
時間を稼ごうとする城清に、朱雀が激しくディフェンスをする。杉山と近江はなんとかディフェンスをかわしながらボールを敵コートへと運んだ。
「ちっ!」
(ペースを落としてきやがった。時間も少ねぇ…)
亮が近江をマークしながらそんなことを考えていた。
「亮!気を抜くなよ!」
「オス!」
薫が亮に向かって叫ぶ。そう、城清は常に相手の隙を窺っていたのだった。少しでも気を抜いた途端に、序盤の純也のような展開になってしまう。
メンバー達はただ時間だけが過ぎていく展開に、苛立ちを感じ始めていた。そして城清のオフェンス時間も残り5秒。近江は杉山に素早いパスを出した。
(コイツはこの試合絶好調だ。そう来るだろうな…!)
永瀬が相手のシュートを警戒して距離を詰めていた。そして杉山のシュートモーションに合わせてブロックをする。
「なにっ!?」
しかし杉山はシュートはせずに、空中で石塚にボールを渡す。石塚も来るのが分かっていたようで、すぐにミドルシュートを放つ。ボールはリングの上で何度か跳ねた後、中へと吸い込まれていった。
『わぁああああ!』
『いいぞ! 石塚!!』
残り約2分30秒。
点差を7点に広げられた朱雀は急いで反撃を開始する。薫の支持通り、的確にコート内を動き回り、城清のディフェンスを掻き回す。そしてボールが永瀬に渡った。
素早いドライブで中へと切り込んだ。ディフェンスをしていた佐藤の足が一瞬フラついてしまう。永瀬はその隙を見逃さなかった。
すぐに佐藤を抜き去った永瀬は、先ほどのお返しと言わんばかりのシュートを決めたのであった。
そしてまた城清ペースのオフェンスが開始される。朱雀がきつく当たるが、城清のガード陣のキープ力により、なんとか城清ボールを維持する。そして残り時間は2分を切った。朱雀メンバー達の顔にも焦りの様子が窺える。時間をギリギリまで使った城清のオフェンスだったが、最後は杉山で締めくくるため、ボールが彼の下へと渡る。
「くっ!」
ツーハンドの素早いフォームからシュートを放とうとしたが、それを読んでいた永瀬はすぐさま手を天井に向かって伸ばす。
永瀬の指先によって、軌道を変えられたボールは、そのままリングに向かって行く。
「リバウンドッ!」
手ごたえがあったのだろう、珍しく永瀬が叫んだ。このリバウンドが相手に奪われてしまったら、再び城清は時間を稼いでくるだろう。ボールは永瀬の予想通りリングの縁にぶつかり、勢い良く外に弾かれた。
ゴール下で待ち構えていた選手達がタイミングよくボールに向かって跳び付いた。
「博司! 取れるぞ!」
亮が叫んだ。ボールの跳ね返りが強かったため、予想よりも外へボールが来ていた。
「そう簡単にヤラセマセンヨー!!」
やや体勢が悪かった大蔵だが、指先を精一杯伸ばしてボールを触る。そのまま外へと弾いた。
「よし! 速攻だ!」
小田原がボールを手にしたのを見た薫はメンバー達にそう叫ぶ。城清のメンバーもすぐにディフェンスに戻った。
(くそっ、戻りが速いな…)
亮がドリブルをしながらリングに向かっていた。それに合わせて薫も走る。それに合わせて近江、石塚がマッチアップしていた。
亮がフリースローライン付近で薫を見る。そしてそのまま右にる薫にパスを出すモーションになった。それを見た近江はすぐに反応する。
しかし亮はパスはせずにボールを左手に移した。
「なにっ!?」
近江が驚きの表情を見せる。近江を振り切った亮はそのままシュートモーションへと入った。
パシッ!
「甘いんだよ! この1年が!」
それをどこからともなく現れた佐藤がブロックしたのであった。そして再び攻守が切り替わる。
「さあ、落ち着いていこう」
近江が冷静に試合をコントロールする。残り時間は1分25秒。城清はこの5点差を守りきれば勝ちとなる。だが黙ってやられているだけの朱雀ではなかった。
青のユニフォームが不気味なプレッシャーを放っていた。




