No.127 危険な存在
「パスコースを塞げ! スリーを打たせるな!」
近江が叫んでいた。第4ピリオドが始まり、ジャンプボールで朱雀高校がボールを手にする。そして城清はいつものようにゾーンを展開していた。
(ちっ…これじゃあ外はきつそうだぜ…)
亮がそんなことを考えながらドリブルをしていた。なかなか攻めることができないまま時間だけが流れる。やがて亮は僅かな隙を見つけたのか、中に向かってパスを出した。
パシィ!
そのボールを純也がタイミングよくキャッチする。
『通った!?』
その瞬間観客が息を呑んだ。しかし…。
「くそ…ここへきてこのディフェンスかよ…。エリートさんよぉ…」
純也がすぐにディフェンスに捕まってしまう。そして24秒も残り僅かとなり、苦し紛れに放ったシュートを放った。
ガンッ!
「偶然は二度おきません」
近江がそう呟いた。大蔵がリバウンドを拾い近江へパスを出す。
「戻れっ!」
薫がそう叫んだ。近江もいけると判断したのか、素早い速攻を仕掛ける。近江から石塚へとパスが回り、そのままシュートモーションに入った。それにあわせて亮もブロックに入るが、上手くかわされてしまう。
『うわぁあああ』
『いっしづか!いっしづか!おっ!』
石塚のシュートにより、点差が3点に広がる。その後も名門城清の勢いは途切れることは無く、徐々にリードを広げたのだった。そして…。
スパッ!
『すっぎやまっ! すっぎやまっ! おっ!』
点差を8点に広げる。第4ピリオドも残り6分を切っていた。だが、そのままやられている朱雀ではなかった。薫を中心に反撃を開始する。
『ちっ!打てるもんなら打ってみやがれ!』
城清のディフェンスをかいくぐり、亮から薫へとパスが渡った。そこへ石塚がピタリとマークする。だが薫は少しの間も置かず、すぐに中へと切り込んだ。
「ソウ簡単ニハ決めさせマセンヨー!」
大蔵がブロックに入るが、空中でかわしてシュートを決めた。
『うおぉおおお!』
「あたれっ!」
朱雀は第4ピリオドからオールコートマンツーに切り替えていた。ボールを手にした近江に、すぐさま亮がチェックを入れる。
亮のしつこいディフェンスに、近江は苦戦しているようだった。ボールを運び、そのまま石塚へとパスを出す。
ポストへ入った佐藤にパスが回り、純也がディフェンスをする。常に笑いながら、チームのムードメーカーになっていた佐藤だが、さすがにここまでくると余裕も無くなっているらしく、その表情からは笑顔が完全に消えてしまっている。
キュキュッ!
佐藤がフェイクをかけ純也が跳んだのを確認すると、そのままシュートを放った。
パシッ!
(なっ!?)
近江が驚いた表情を見せた。
純也は精一杯手を伸ばし、ボールを捕らえていたのだ。すぐに城清はディフェンスに戻った。
朱雀のオフェンスになり、亮がボールを運ぶ。パスが何度か回った後に、純也の手に渡った。近江がマッチアップとなる。
(くっ…)
近江が必死に純也を抑えていた。
(どうやら…僕は考えを改めなければならないようですね)
ディフェンスには自信のある近江が珍しく苦戦していた。純也が体重を右側に寄せ、右手にボールを移す。
(これは…泰助くんにみせたクロスオーバー…。その手には乗りませんよ!)
そして体重が左側へと移る。近江はそれを狙っていたかのようにドリブルコースを塞ごうとしていた。しかし…。
(なにっ!?)
純也がその裏をかき、近江の読みが外れる。純也がその隙を見逃すわけが無く、一瞬で抜き去ろうとした。近江も体重を完全に片方に移していなかったため、すぐさまこれに対応する。
2人の体が接触する。そして次の瞬間、会場に審判の笛の音が鳴り響いた。
ピィイイイ!
『どっちだ!?』
『これはキワドイぞ…』
選手はもちろん、会場中が審判の判定に注目していた。
審判が青のユニフォームを指差す。
『青6番っ! 5ファウル!!』
会場が静まり返った。これで純也は退場となる。
「くそっ…」
純也が悔しそうにコートを叩いた。他の選手も信じられないと言った様子でその光景を眺めていた。
(これは…やばいかもしれないな…)
亮が肩で息をしながらそんなことを考えていた。選手たちが立ち尽くす中、近江が純也の下へと歩み寄る。そして純也に手を差し伸べた。
「けっ…嫌味かよ…」
近江はそんなことを呟く純也に、特に言葉は返さず、肩で息をしながら手を差し出し続けた。純也が近江の手を握り、起き上がる。その光景を見て、会場から歓声が鳴り響いた。
『6番!うまかったぞ!』
『ナイスプレー!』
純也は近江が決して嫌味で手を差し伸べた訳ではないと察すると、悔しそうに口を開く。
「結局は宣言どおりかよ。むかつくぜ…」
「やられたのは僕の方さ…」
近江は誰にも聞こえない声でそう呟いた。石塚、佐藤が次々に声を掛けるが、どうやら悔しそうな様子の近江だった。
(この6番は僕らが思っていた以上に危険な存在だった。なぜもっと早く…)
その後、朱雀高校のタイムアウトにより両チームともベンチへと戻ったのであった。




