No.125 マグレ?
ダァアアアン!
再び会場に、リングが叩きつけられる鈍い音が鳴り響いていた。それと同時に歓声も鳴り響く。
(これが、ヤツのバスケット…)
一瞬そう考え、立ち止まった近江だったが、すぐに持っていたボールをエンドラインからコートの中へとパスを出す。
その後の展開はまさに点の取り合いであった。城清が5点のリードを保っていると思いきや、純也、薫の活躍により同点に追いつかれる。
「くそおお! 大人しくしてろっつんだ!」
石塚のシュートが決まった。城清は乱戦になっても、石塚、大蔵の得点力、近江の冷静な試合運びにより、リードを許すことは無かった。
そして更に…。
スパッ!
杉山が再び点差を5点に広げるスリーポイントシュートを決めた。
『わぁああああああ』
『すっぎやまっ! すっぎやまっ! オッ!』
「はぁ…はぁ…」
肩から息をしている杉山と永瀬が目が合う。しかし杉山はそのまますぐにディフェンスに戻った。
「くっ…また止められなかったか…」
「さあ、すぐに行くぞ!」
永瀬は悔しそうな表情をした。しかし薫の一声により、すぐに我に返る。
亮も隙が出来たら遠慮なくパスを出していた。その攻撃を防ぐために、城清の部員達は必死に動き回る。
そして、薫にパスが回り、シュートモーションに入る。
「させるかっ!」
石塚が距離を詰めた。しかし薫はシュートはせずに、0度のポジションからリングの方向へ跳んでいた純也に鋭いパスを出す。
パシッ!
純也はそれを空中でいとも簡単に受け取る。大蔵が慌ててブロックに跳びつくが、純也が空中でかわし、レイアップシュートを決めた。
『うおぉおおお』
「あの6番が連携…」
近江はパスを受け取りながら呟いていた。そしてまたハイペースな試合展開になる。
「やられたままで終わるかよ!」
この試合、城清のキーマンになりつつある石塚が、スクリーンで薫を振り切った。
そして再びドライブシュートを試みる。
パシィッ!
「なにっ!?」
石塚が驚愕の顔になる。
完璧なタイミングでカバーに入った純也が、石塚をブロックしたのだ。そのボールを永瀬がキャッチする。
城清はすぐにディフェンスに戻る。そこへ朱雀の勢いあるオフェンスが容赦なく攻め立てる。
第3ピリオドも残りわずか。
「こっちだ!」
純也がローポスト付近でボールを受け取り、丁度ゴールに背を向けた状態になる。
「はっはっは、君はホント運が悪いねぇ」
第1ピリオドの時と同じように、泰助がすぐにマッチアップをする。
純也は重心を一度左足に移し、一気に右足に移動させる。
キュキュッ!
「おっと、その手にはのらないよ!」
泰助が自信に満ちた顔で純也のドリブルコースを塞いだ。しかし…。
純也は素早くゴールの方向へ向きを変え、その場で上空に向かってジャンプした。
「なんだと!?」
(決める!)
肘をリングに向かって固定させ、そのままワンハンドでボールをシュートする。
泰助だけではない、そのコートに居たプレイヤー、更には観客含め会場中が驚いているようだった。
スパッ
ボールがリングに吸い込まれた。
『…………』
ビィイイイイ!
そしてほぼ同時に第3ピリオド終了のブザーが鳴り響く。メンバーが目を丸くしながら純也を見ていた。それはまるで珍しいものを見るときのように。
「ナイスシュート」
薫は特になんとも無さげな様子で純也に近寄り、そう声を掛けた。そして背中を向け、そのままベンチに向かって歩き出した。
「ナ、ナイスシュート」
亮がそう言いながら拍手をする。それに他メンバーが続いた。
パチパチパチ
「なんかそれ、普通にバカにされるよりもムカつくんだが」
『オォオオオオ!』
『ナイスシュートオオ!』
観客もそれに続く。
「うるせーぶっ殺すぞ!!」
暴れ始める純也を冷静にベンチに引きずっていくメンバー達であった。