No.122 近江…?
佐藤のリバウンドからオフェンスに切り替わる。近江がいつものように辺りを見渡しながらドリブルをしていた。
(簡単なことです。相手の攻撃回数を減らせば減らすほど、ディフェンスで抑えることが出来ているこっちが有利なはず。オフェンスも調子が良いし、点を取れない訳じゃない。しかし…)
近江が朱雀高校キャプテン、木ノ下薫の方へと目をやる。
(監督の言うとおり、彼がこのまま黙っているとは思えない。ディフェンスが機能しているはずなのに、朱雀の得点はほとんどが彼によるものだ)
近江が急にドリブルをして、左の方へと移動する。ディフェンスの亮もそれについてゆく。
トップから杉山がパスを求め、叫んだ。
それと同時に石塚が逆サイドから石塚が台形内に飛び込んで来る。
ボールを受け取ると同時に、体をずらしディフェンスに微妙なズレを作る。素早いドリブルで、そのまま一気にリングへと向かう。
「おりゃ!」
石塚がディフェンスをかわしてシュートを決めた。会場に歓声が響く。
(でも、取れるときに取っておきたい。うちのオフェンスを信じるんだ。弱気になることはない)
近江が心にそう言い聞かせた。これで点差は10点に開いてしまった。
「亮、行くぞ!」
「はい!」
薫が亮に気合をかけた。亮がボールを運び、センターラインを過ぎる。朱雀高校のパスが回る度に城清のディフェンスの陣形が姿を変える。
キュキュキュッ!
亮がディフェンスの隙をつき、抜き去った。すぐにヘルプが来る。そして亮が微妙にフリーになった永瀬にパスを出した。そしてすぐにシュートモーションに入る。
「させるかっ!」
石塚が頑張って反応した。だが少し早く、ボールは反対側の薫の元へと渡っていた。
そして素早いモーションからジャンプシュートが放たれる。
スパッ!
あまりにもフォームが安定しすぎていて、何度もビデオを巻き戻して見返しているかのような錯覚に陥ってしまう。
「さあ、ディフェンスだ!」
まるで何事も無かったようにメンバーに声をかけると、すぐに味方コートへ戻り、ディフェンスを開始する。
城清も負けじと大蔵を使い、ゴール下を攻める。それに博司が慌ててついていく。
「マダマダネー!」
ボールを受け取り、一歩目で博司をかわした大蔵は、そのままレイアップシュートの体勢に入る。
パシッ!
「!?」
なんと、どこから現れたのか、薫が後ろから大蔵のボールを弾いた。ルーズボールを永瀬が拾い、そのまま亮に渡される。
朱雀は速攻を試みるも、城清の素早い戻りから防がれてしまう。
そして、そのまま薫にボールが渡った。
「いかせるかよ!」
石塚がディフェンスにつくも、素早いドリブルで抜き去ってしまった。そして、カバーにはいった佐藤も難なく抜き去り、シュートを決めたのであった。
『ワァァアアアア!』
『いいぞぉぉぉお!』
『タイムアウト!」
10点差があっという間に5点差に縮まる。これには城清も、たまらずタイムアウトをとった。大蔵が独り言のように呟く。
「オウ…彼は海外でも通用するネ…。ビクリしたヨ」
選手たちがそれぞれのベンチへと帰る。城清の近江はベンチに座るなり監督に話しかけていた。
「はぁ…はぁ…。監督、やはり相手のペースに付き合わない方が良いのでしょうか?」
その言葉を聞いた監督は、少しの間考えた。そして選手に聞こえる声で語り始める。
「去年までのチームなら、ここで守れと指示していたことだろう…」
そう言って監督は笑みを浮かべ、力強い言葉で選手たちに言った。
「朱雀さんの勢いを見る限り、もう守るだけではとまらないだろう。攻める気持ちだけは絶対に負けてはいけないよ」
そして、プレーの細かい注意点などを支持してゆく。
(攻めろ、と言ってこの選手たちのディフェンスが雑になることは無いだろう。守り抜いて、更に攻める。今年はそれができるメンバーなんだ。びびっていたら、それがプレーに出てしまうからね)
監督が朱雀側のベンチに目をやった。薫がなにやらテキパキと指示を出しているようだった。
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――――
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ピィィッ!
『青6番、チャージング!』
「くそがっ!!!」
タイムアウト後の第3ピリオドも、攻守切り替えは若干早くなったものの、相変わらず城清のリードは保たれたままだった。そして純也が今日3つ目のファールをとられてしまった。
純也にぶつかって倒れていた近江が起き上がる。
「大丈夫か?」
佐藤が近江に近づき、心配そうに声をかけた。近江は大丈夫、と言って純也の方へ近づいていった。
「ここは君のようなストリート出身の不良が居ていい場所じゃない」
ただでさえ機嫌の悪かった純也に追い討ちをかけるようなことを言ってしまったので、怒りが爆発したようだった。
「んだとコラァ!?」
手がでそうになる純也を薫が後ろから押さえる。近江は目を逸らさずに、純也に向かって続けた。
「今日君をこのコートから追い出してみせる」
「くっ…黙って言わせとけばこのクソ偽メガネくんがっ!!」
珍しい近江の姿を見たチームメイトは、とても心配しているようだ。
「ど、どうした近江。お前らしくないぞ」
「いや、なんでもありません」
石塚が話しかけるが、特になんでもないような素振りを見せた。近江を睨みつけていた純也の視界に薫が現れる。
「いいか? プレーで返すんだ。残念ながらバスケットにはお前が望んでいるようなルールはない」
それは恐らく、純也がストバスでやっていたパンチ、キック、頭突きその他のことだろう。
「追い出してみせるだぁ? おもしれぇじゃねぇか!」
そして試合が再開された。