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No.121 700日

 第3ピリオド開始3分、試合は相変わらずスローペースのままで、得点は先ほどの杉山のスリーポイント一本のみとなっていた。

 

 博司と入れ替わるようにポストへ上がった純也にボール渡った。ディフェンスは佐藤。純也はこの試合、佐藤に完全に抑えられている。

 

(くそっ…こいつは力だけじゃねぇ…。ディフェンス能力だけを見ても、うちの小田原君か、それ以上だ…)

 

 純也が舌打ちをした。その様子を佐藤が不気味な笑みを浮かべながら見ていた。そして純也に聞こえる声で言い放つ。

 

「ふははは。一年なんかに簡単にやらせるわけないだろう」

 

「うるせぇ、黙ってろ! たかが700日早く生まれただけじゃねぇか!」

 

 激しい攻防の中、佐藤が言い返す。

 

「なら、その700日分の練習の成果を見せてあげよう」

 

 純也は苦戦していた。いくらドリブルで抜こうとしても、佐藤を振り切ることができなかった。

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

***

 

 2年前の城清体育館――。

 

「おつかれさまでしたっ!」

 

『おつかれさまでしたっ!』

 

 今日もディフェンス中心の厳しい練習が終る。とは言っても、1年生の近江達のやることといえば、ボール拾いや声だしくらいで、最初の全体練習くらいしか練習らしい練習はしていなかった。

 モップで床掃除をしながら、石塚と佐藤が近江に歩み寄った。そして石塚が話しかける。

 

「なぁ、今日もやるんだろ」

 

 近江もメガネのズレを人差し指で直しながら答えた。

 

「そうですね。いきましょうか」

 

 この会話を聞く限り、どうやら毎日の日課となっているようだ。彼らは一通りの掃除を終えると、すぐに学校をでて目的地へと向かう。

 自転車で5分ほどしてたどり着いたのは、市営の体育館だった。彼らは毎日、学校での練習が終わるとこの場所で秘密特訓しているのである。

 

 先輩から解放された彼らは、どこかリラックスをしながら楽しんで練習をしていた。佐藤が2人に向かって語りかける。

 

「なんか最近、バスケがすごく上手くなってきてる感じがするよね。ははは」

 

 その言葉を聞いた近江が、佐藤の方を見ながら返事をする。

 

「まぁ、僕らは中学校時代はレギュラーにも選ばれていませんでしたからね。その分他の人よりは成長する部分が多いんですよ」

 

 まだまだ気を抜かないようにしよう。近江が言った言葉にはそんな意味も込められていた。

 

「ちぇ、俺は監督に嫌われてただけだよ」

 

 本気ではないが、石塚が怒ったように近江に言い放った。それをみた近江は、はは、と笑って流した。そして練習が続けられる。

 

「なぁ…その…」

 

 シュートを決めた石塚が、急に声を低くして2人に話し始めた。

 

「まだ番号も貰ってない俺らが言うのもなんだけどさ…」

 

「はい?」

 

 近江と佐藤が石塚に注目した。

 

「そ、その…俺たちで目指そうぜ! イ…イ…あーやっぱだめだ!」

 

「インターハイ行こうよ!!」

 

「!?」

 

 石塚が言えなかった言葉を佐藤が代わりに発言した。その顔はとても真剣で、冗談で言ってるようには思えない。

 

「ええ、僕は最初からそのつもりでしたけど?」

 

 近江が真顔でアッサリ答える。思わずズッコケそうになる2人。どうやら拍子抜けしたようだった。

 

「お…お前ら、自分で何を言ってるのか分かってるのか!? 俺らの代には白川の五十嵐や黒沢の安倍、朱雀の木ノ下、その他にもバケモンがわんさか居る近年稀に見る黄金期と呼ばれてるんだぞ!?」

 

 その言葉を聞いても特に驚いた様子も見せず、いつもの冷静な近江だった。

 

「バスケットは5人でやるスポーツです。それに、うちのゾーンを扱えるようになれば、十分に戦っていけると思います。僕は仲間を信じていますよ」

 

 静まり返る2人に、近江が1つの提案をする。

 

「じゃあこうしましょう。どんなプレーも万能にこなすというのは当たり前として、その中でも『これだけは負けない』という能力を伸ばすというのはどうでしょうか?」

 

「これだけは…負けない…」

 

 石塚が考え込む。

 

「俺は…絶対に点の取り合いなら負けねぇ! やられたら絶対にやりかえす! チームのエースになってやる!」


「石塚君のドライブ力は凄いですからね。僕はどんなに苦しくなっても試合をコントロールできるように頑張ります。それと石塚君や味方へのアシスト能力もね」

 

 その会話を聞いて、佐藤が不安そうな顔をしていた。

 

「俺はなにをすればいいんだろう…。これと言ってとりえも無いしなぁ」

 

 落ち込んでいる佐藤に近江が微笑みながら言った。


「いや、佐藤君には十分にとりえはありますよ」

 

――――――

 

――――

 

――

 

***

 

「時間が無い! いったんボールをあげろ!」

 

 佐藤に苦戦する純也に亮が叫んだ。しかし純也は苦し紛れにシュートを放った。

 

ガンッ!

 

 リングにあたって外にボールがとび出る。それと同時に佐藤と大蔵がスクリーンアウトした。

 

「このっ…どきやがれ!」

 

「残念でした。はっはっは」

 

 純也がいくら押しても佐藤はビクともしない。そして落ちてきたボールを両手で掴みキープした。

 

「佐藤さん、ナイスプレー」

 

 近江が佐藤からボールを貰いながら笑顔で言った。

 

「ありがとう。君が前に言ってくれたように、当たり負けだけはしないみたいだ。ははは」

 

(この2年間、ひたすら長所を伸ばしたんだ。一年なんかに負けてたまるかよ!)

 

 そして城清のオフェンスが始まった。



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