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No.120 まさかの変速シュート

 近江が見事にシュートを決め、城清メンバー達は再びディフェンスへと戻った。

 

「機械みたいな連中だな…」

 

 亮がボールを運びながらそう呟いていた。点の入らない焦りからか、顔に流れ出る汗をリストバンドで拭く。

 

「亮! こっちだ!」

 

 薫が亮に向かって叫んだ。そしてボールをもらった薫はダブルチームを簡単にかわし、シュートを決める。

 

『ワァアアアッ』

 

 城清のディフェンスでも、木ノ下薫を完全に抑えることはできないようだ。それでも点差が5点以内に縮まることが無く、城清が逃げ切る形で第2ピリオドを終えたのだった。

 

「ちっ、うざってーディフェンスだぜ…」

 

 純也が控え室の椅子に帰るなりそう言った。他のメンバーたちも、どうすればいいのか分からないような表情をしている。

 

「ったく…あんなのバスケじゃねーよ」

 

 純也は更にそう続けた。そしてバッシュのかかとで地面を蹴る。相手のディフェンスの凄さはわかるが、認めたくない、といった様子だった。

 

 亮はその様子をみて特に言うことはなく、座りながら組んだ指を額付近に持っていき、真剣な顔つきで考え事をしているようだった。

 

 控え室が静まり返る。沈黙に耐えられなくなったのか、椅子の背もたれに上体をあずけていた純也が、体を起こし薫に向かって言い放つ。

 

「なんか良い作戦でもねーのかよ?」

 

「ない」

 

 あまりにも即答だったため、純也は若干驚いた表情を見せた。すかさず薫に言い返す。

 

「じゃあどうすればいいんだよ! 俺はこのまま試合に出ていいのか!? 完全に押さえ込まれてるんだぜ!?」

 

 このセリフだけは言いたくなかったのだろう。純也にしては珍しい言葉だった。複雑な表情をしていた。そんな純也に、薫はいたって冷静に言葉を返した。

 

「あえて言うならば『我慢』だ。作戦はない。純也はこのまま第3ピリオドにも出場してもらう。」

 

「!?」

 

 純也は驚いていた。

 

「はいはい、我慢ね…」

 

 そして、軽く息を吐くと、再びダランと背もたれに上体をあずけていた。

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 ここは城清の控え室。キャプテンの近江が、監督に向かって話しかけていた。

 

「監督、後半はどうしましょうか?」

 

 その言葉を聞いた監督は、少しの間考えた。そして一人言のように呟き始めた。

 

「そうだな…リードしているとはいえ、いつ逆転されてもおかしくない点差だ。朱雀さんもこのまま黙っていることもないだろう…。」

 

 そして、選手全員の顔を見てから、続きを語り始める。

 

「みんなが知っての通り、朱雀さんの怖いところは後半の爆発力だ。いかにウチが相手にペースを握らせないかで試合は決まってくるだろう。ここからは体力的にも、精神的にも辛い戦いになるだろう。今までやってきたことを出し切るつもりで戦おう!」

 

『オッス!』

 

 選手たちの声が控え室中に鳴り響いた。

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 第3ピリオドが始まろうとしていた。両チームの選手たちはセンターサークルの周りを囲むように並んでいた。

 

 そして審判の手からボールが上空に放たれる。

 

 パシッ!

 

 勝負は互角だった。大蔵と博司が弾いたボールは、本人たちもどこへいくのかわからないまま、サークルの外へと飛び出した。

 

「さあ、いきましょう!」

 

 ボールをキャッチしたのは城清のキャプテン、近江だった。特に速攻するわけでもなく、再びスローペースなオフェンスを展開する。

 

「ちっ…またかよ…」

 

 純也はその様子をイライラしながら見ていた。

 

 攻める気のないようにボールを回す。しかし、第1ピリオドでもそうだったように、少しでも気を抜くとガード陣からのスリーポイントや、石塚、大蔵からのドライブが来る。

 朱雀メンバーも気を抜かないようにボールの行方を追っていた。

 

 そして、ローポストに入った佐藤にボールがまわった。純也が中には入れさせまいと、ぴったりとくっついてマークをする。

 

「ははは! 君も運が悪いね!」

 

 そう言って佐藤はドリブルをしながらジリジリとリングへ近づいてゆく。

 

「くっ…またかよ…」

 

 純也も必死にこらえているようだった。そして次の瞬間――。

 

 シュッ!

 

 ボールが外に居た杉山へとわたる。そして杉山がいつものようにシュートモーションへと入った。早めのモーションに対応するために、永瀬がブロックをするために跳ぶ。

 

「なっ!?」

 

 先ほどはツーハンド気味のジャンピングシュートだったのが、今度は綺麗なワンハンドのジャンプシュートへと変わっていた。永瀬のブロックとワンテンポずれる形でシュートを放つ。

 

そしてボールは薫のスリーポイントとはまた違った弧を描いてリングへと向かってゆく。

 

 スパッ!

 

『ワァァアアアア!』

 

 会場が歓声に包まれた。

 

「ジャンピングシュートの弱点は打点が低いからブロックされやすいんだ。そんなごど、このシュートフォームと長ぐ付き合ってきた自分がよくわがってます。アナタの狙いは正しかったべ」

 

 杉山は必死に不器用な標準語で永瀬にそう伝えると、すぐにディフェンスへと戻っていった。

 


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