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No.119 得点

――マッチアップゾーン。


名前を聞いただけでは、どうも矛盾しているような気もする。それもそうだ。

マンツーマンとゾーンを合わせた、夢のようなディフェンスがマッチアップゾーンなのである。

しかし、その便利さゆえに、いくつかの弱点もあった。



――――――


――――


――


************


『石塚! カバーが遅れてるぞ!』


『くっ…はいっ!』


城清高校の体育館からは、このような会話が毎日の様に聞こえてくる。



このディフェンスには何十とも言われるディフェンスパターンが存在する。

相手のポジション、ボールの位置、狙いなどにより常にディフェンスの陣型が変わるのだ。

この動きによって、相手のパスやドリブルコースを塞ぎ、更にはプレッシャーをかけ続けることが可能だ。このディフェンスがハマった時の効果は絶大で、酷いときは相手にやりたいことを何もさせないで終わるような時もある。


 しかし、このディフェンスを操るには高校三年間という時間では短すぎた。特に能力的に飛び出た選手のいない城清は、ディフェンスの練習に、ほとんどの時間を費やしているのが毎年の現状であった。


 なので、二年生でレギュラーの座を杉山が勝ち取ったことは、例年通りでいけば、非常に珍しいことだった。


並大抵の練習量では難しい。城清の選手でさえ、プロが操るディフェンスパターンの半分ほどしか操ることが出来なかった。


このディフェンスの弱点は、まさに習得するまでに時間がかかりすぎること、なのである。


――――――


――――


――

 

(ディフェンス『だけ』のチーム…。この学校がそう言われ続けて何年経ったでしょうか)


近江がドリブルをしながら人指し指でメガネを触る。


(先輩たちは、いくら守っても自分達が点をとれずに試合に負けてしまうこともあった)


――当たり前ですよね。


近江が基本に忠実なドリブルで、亮にフェイントをかける。石塚へとパスを出し、そのまま中に入った大蔵にボールがまわった。



(中か? 外か?)


永瀬が泰助をマークをしながら、周りを見ていた。

大蔵の目線が外に居る杉山に移った。しかし、次の瞬間――。


シュッ!


大蔵が自分の右ななめ後ろにノールックでボールを放り投げた。それを、タイミングよく切り込んできた近江がキャッチする。

そしてリングの方を振り向き、シュートモーションへと入った。

バックボードを使い、確実にシュートを決める。まさに銀行のように安定したバンクシュート。


(点を取らないと勝てない……。わかってますよ。そんなこと。)

 

ウワァァァァッ!


「ちっ、相変わらず教科書から出てきたようなシュートを打ちやがって」


石塚が冗談混じりに近江に話し掛ける。近江は笑みを浮かべながらそれに答えていた。


************


この試合を城清のベンチから静かに見ている人物がいた。


この城清を名門と呼ばれるまでにした名将笹岡監督。


「良いチームだ」


ベンチに座り、静かにそう呟く。

************


今では沢山の人に支持されてはいるが、監督に就任して間もない頃は、批判の声もあった。特に部活は息抜き程度にしか考えていない、普通の進学校で、そこまで力を入れる必要があるのか。マッチアップゾーンを完成させるには難しすぎないか。


監督についていけなくなり、部活を辞める者まで出てしまっては、さすがに非難の声があっても仕方がないだろう。


『僕たちは監督についていきますっ!』


チームの方向性に悩んでいた監督のもとへ、三人の選手の声から声がかかる。


緊張しながら叫んだのは近江だった。隣には石塚、佐藤が並んでいる。


『僕たちは監督の考えに共感しています! 今のディフェンスをやめないでください!』


監督の前に居るこの三人は、中学時代はレギュラーにも選ばれていなかった人たちだ。

 しかし、監督はあまりにも真剣な目をしている三人に心を動かされる。


『わかった。君達を見て今後の方向性を考えるとするよ』


そう言って監督は微笑んだ。選手たちの顔は、より一層真剣なものとなっていた。


************

(ディフェンス練習をこなし、個人のシュート練習も欠かさない。本当に良いチームになりましたね)


監督がコート上でプレイをする近江を見る。


「実力さ。なぁ、近江」


 



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