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115/152

No.116 ハンター

 名門、城清高校で二年生ながらレギュラーの座を勝ち取った男がいた。


 杉山健祐、172センチ。ポジションはシューター。


彼、杉山健祐は十二歳の時から身長が伸びていない。

 それは、少し、といった意味ではなく、言葉通りまったく伸びていないのである。

 

彼の出身地は高校バスケ界では王者的存在、全国優勝四十回以上を誇る秋田の名門校、稲川工業のある街だった。

そこは街全体がバスケムードで包まれていて、街のいたるところにバスケットリングが設置されていたり、駅にもバスケットリングが置かれ、電車の待ち時間にフリースローがうてるほどだった。


 当然、街の子供達は幼い頃からバスケに接する機会が多く、技術的にも優れた人物が多く現れる。


杉山もそんな子供達の一人だった。


小学生で、すでに現在の身長があった彼は、チームの大黒柱として、東北大会優勝に貢献した。

特別に動けるわけでは無かったが、身長が172もあれば小学生ではかなり大きい方だ。地元の誰もが杉山の将来に期待に胸を膨らませていた。


中学になり、時は流れる。周りの人物が次々に背が伸びていく中、杉山だけが昔のままだった。

やがて、自分達の代になり、新人戦を迎える。


杉山はレギュラーに選ばれていなかった。


この日本の、小学生の中で身長に頼っていた彼にとって、気づいた時には武器が無くなっていたのである。



 そして三回戦、チームが惜しくも敗退し、控室に向かっている途中、大型の選手とすれ違った。


「あれは…南小の……。アイツ150ぐれしかながったはず……(150センチくらいしか無かったはず)」

 

そして、杉山はその時に気づいた。


――俺って最初っから身長っていう才能が無かったんだな。

 

まだ新人戦というのに、杉山は人目を気にせず泣いていた。それは、敗戦のショックからではない。


己の甘さ。うぬぼれていた自分。勝手に未来の自分を想像して、周りの評価に流され、知らないうちに手を抜いていたのだ。



――甘かった。



――……甘かった。

 


――――――

 

――――

 

――

 

 

『どうが、お願いします!』


杉山は大勢の大人たちの前で土下座をしていた。大人たちは困りきった顔をしている。


ここは稲川バスケットボードクラブ。街の社会人の人々が趣味で集まり定期的に練習や試合をしている場所である。趣味、と言っても、ほとんどがこの地元で育った人物。バスケのレベルは現役を退いた今でも十分に高かった。


 それから毎日のように杉山は、中学の練習が終わると真っ先にそのクラブに向かうことになる。


 空いた時間はひたすらシューティング。


試合形式の練習でも、自分よりも大きい人と毎日マッチアップをすることになる。


センターをしていて気付かなかったが、杉山は遠くからゴールを狙う能力が周の人よりも優れていた。


 そして彼は無意識のうちに進化を遂げたのだ。


――もっと速く!


――ディフェンスが来る前に!


――もっと正確に!


 周りから見れば、一見みっともないようなシュートがだが、これは彼が必死に悩み、そして考えだした奇跡のシュートフォームだった。

 

ただひたすらうまくなりたいと願い、ダサい、カッコ悪い、と言われても諦めなかった者の姿なのだ。



――――――


――――


――


     ***


スパッ!


『ワァァァァ!』

 

杉山がシュートを決めると同時に第1クォーター終了のブザーが鳴り響いた。

薫がスリーを決め、四点差まで迫っていたのだが、先程のシュートで再び7点差となってしまった。


「よーし、よくやったぞ! 杉山!」


監督がベンチに帰ってきた杉山に言った。


「気ぃ抜ぐど、あっと言う間に追い越さます」


「うむ。まぁ、座りなさい」


監督はそう言って、今度は近江に向かって話し掛ける。


「この調子だ。朱雀高校も本来の力を出せていないぞ」


近江が汗を拭きながら答える。


「ええ、ランニングゲームになるとこっちが不利ですからね。次からは不安要素を取り除きに行きますよ」


眼鏡が怪しく光る。近江の言う『不安要素』がなんであるかは、城清の他の部員達も感じとっていた。


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