No.115 まずは一本
「ハァ…ハァ…」
純也が肩から息をして、泰助を睨みつけた。
「フリースローだ。チャンスじゃないか」
「ちっ…」
笑顔で言った泰助に純也は舌うちをしてフリースローラインへ向かった。
「ナイスファール」
「ああ。まだ流れをやるわけにはいかないからな」
近付いてきて話しかけてきた近江に、泰助が笑顔で答える。
現在、薫、勇希に点をとられてはいるが、彼らを完全に抑えられると思っていない城清にとっては計算通りだった。
現在の流れで唯一突破口があるとすれば…。
純也の手からボールが放たれる。一本目はリングに当たりもせずにボードに当たって跳ね返ってきた。
「落ちていて狙え」
薫が純也の後ろから声をかけた。博司と勇希は純也からボールが放たれるタイミングをじっと見つめている。
シュッ!
やがて純也の手から二本目のシュートが放たれる。
ガンッ!
今度はリングに当たり、ボードが外にとびだす。
場所取りに勝った大蔵が豪快なモーションでリバウンドを拾った。そしてすぐに近江にパスを出し、反撃を開始する。
「一本ゆっくりいきましょう」
近江が片手を上げしそう叫んだ。そしていつものように、ゆっくりとしたオフェンスが始まる。
いくらかパスが回り、ハイポストに入った大蔵にパスが回る。
「博司!」
亮が叫んだ。博司が必死に大蔵をマークする。そして――。
シュッ!
シュートと思いきやアウトサイドに居た杉山にパスが回った。
マークしていた勇希がブロックに跳んだ。
「なっ!?」
勇希は驚いた表情を見せる。
――ジャンピングシュートだと!?
ツーハンド気味のシュートフォームから放たれたボールが、リングに向かってゆく。
「いくらなんでも入る訳…」
ゴール下で純也がスクリーンアウトをしながらそう呟いた。
スパッ!
会場が静まりかえった。そして、
『ウワァァァッ!』
『さすがハンター杉田!』
『もう一本かましたれっ!』
朱雀高校がたまらずタイムアウトを取る。
「なんであんなシュートが…」
純也がベンチに座るなりそう言った。
「時間をギリギリまで使われてスリーとは……。これは効きますね……」
亮が薫に向かって言った。
「さすがは城清のディフェンスだな。完全にペースを握られている」
そう言ってメンバー全員を見渡した。そして純也を見る。
「1クォーターも残りわずかだ。最後に一本期待しているぞ」
「まかせろっつーの」
そして純也が手の骨を鳴らした。薫も流れを返る一番効果的な一本が、何であるかを分かっているのだろう。
「こちらの攻撃パターンが増えれば、相手も簡単にはいかなくなる。まずはディフェンスを崩すぞ。基本通りにパスを出したら動け」
『オッス!』
やがてタイムアウト終了を告げる笛が鳴った。