No.114 流れ
純也のファウルで城清ボールになった。杉山がコート内の近江にパスを出す。
「ゆっくり行ぐべ」
「ええ」
そしてそのままボールを運んだ。朱雀のメンバーがハーフからのマンツーマンで待ち構える。
(朱雀高校の注意するところはあの爆発力。のせたら危険ですね)
近江がそんなことを考えながらドリブルをしていた。
「ちっ、いつまでドリブルしてやがる…」
純也が杉山をマークしながら顔をしかめた。その時――。
シュッ!
鋭いパスが勢い良く杉山に向かっていく。
「ちっ!」
純也が慌てて距離をつめるが…。
(は、はぇぇ…)
純也が手を伸ばした頃には既にシュートが放たれた後だった。
ガンッ!
惜しくもボールがリングに当たり、外れてしまった。
しかし、すぐさま大蔵がリバウンドを拾う。
そして博司のマークをかわしてシュートを決めた。
「あんがど」
「イエイエ、どんどんウッテくだサーイ」
杉山が大蔵に声を掛け、すぐにディフェンスに戻る。
キャプテンの近江は純也に出来た一瞬の隙を見逃さなかった。ディフェンスで守り、オフェンスの少ないチャンスを確実にモノにしていく…。
これが城清の伝統のバスケットだった。
「まずは一本!」
亮がそう叫んでドリブルをしながら辺りを見渡す。
(しかし、相手してみて初めて凄さがわかるな…)
亮は初めて体験する城清のディフェンスに少しだけ圧倒されていた。しかし、
(シロートがゾーン練習してるみたいに、ゴチャゴチャしてるだけに見えるのに…)
亮がフェイントをかけ、近江をドリブルでかわす。
(たいしたディフェンスだぜ!)
亮にヘルプが着く。一瞬だけディフェンスにスペースが出来上がる。
そのままノールックで勇希にパスを出した。
勇希はゴールに向かって切り込んでいく。
泰助がディフェンスに着こうとする。しかし、
キュッ
勇希はブレーキをかけ、ジャンプシュートを放った。
「なっ」
泰助はドリブルに備えていたため、驚いた表情を見せる。
パスッ
シュートはリングに綺麗に吸い込まれた。
『ワァァァァッ』
「戻れ!」
その時、薫が叫んだ。
石塚、杉山、近江の3人が速攻に走っていた。
「今度は速攻かよっ」
亮がそう言って走る。純也、薫も着いて行く。
そして石塚が追い付かれるギリギリ前に、素早いドリブルからレイアップシュートを放った。
さすがは城清のポイントゲッターである。以前、ストリートバスケットの大会でも、あのカズでさえ、石塚の素早い動きに苦戦していた。
「よしよし、それでいい」
笹岡監督がベンチに座り、笑顔で試合を見ていた。
近江は常に試合の流れをみていた。少しでもチャンスがあったら攻める。他のメンバー達も同じ気持ちだった。
見事に城清のマッチアップゾーンが機能していた。朱雀のポストプレーに関しては見事に全滅させられていた。
薫、勇希のスリーポイント、ミドルシュートで反撃するも、城清の石塚、大蔵によるインサイドの得点により、再び引き離されてしまう。
そしてまた――。
スパッ!
早くも今日2本目となる杉山のスリーポイントが決まった。
これで7対14と点差を再び7とした。第一ピリオドも残り四分を切っていた。
「さぁ守りましょう!」
『おう!』
近江が気合をかけ、城清が再びゾーンを組む。それに朱雀メンバー達が攻め入る。
朱雀はパスを回して次々に切り込む。それにあわせて城清のディフェンスも変化してゆく。
「純也!」
「おう!」
そして亮がチャンスとみたのか、純也にパスを出した。
(お前が得点出来れば流れが変わる! マッチアップゾーンだからって逃げていたらダメなんだ! 頼むぜ!)
亮は一瞬の間、そんなことを考えていた。
「また君か〜。運が悪いね。はっはっは」
「黙れ筋肉野郎!」
「そんなに誉めないでくれよ! まいったなぁ〜はっはっは」
泰助は笑っていた。お互いに動き回っていたために、まだダブルチームも来てないようだ。
――この一瞬で決めてやる!
純也は右へ体重を移動した。泰助もその様子をみてディフェンスをする。
そして次の瞬間、純也が左膝の力を抜き、倒れこむ力で重心ごと一気に左に移動し、ボールも左右切り替える。
「うおっ!?」
逆をつかれた泰助は慌てて逆側に体重を移す。
しかし純也の方がわずかに早かった。
そのまま加速をつけると勢い良くゴールに向かって行き、シュート体勢に入った。
「くそっ!」
(まだ流れは渡さない!)
ピィィイッ!
『ディフェンスファウル! 赤5番!』