No.110 真実
『ハデにやってんなぁ』
全員がコートの入り口に現れた人物を見た。背は180センチほど。赤髪に、首元にはとあるバンドのチェーンを下げ、黒いジャケットを着ていたその人物は――。
「京介! なんでここが!?」
純也が驚いた表情をみせた。
「いや、優が突然やって来てな。詳しくは後で友達の亮くんとやらに聞くんだな」
そう言っていつもの笑顔を見せた。
『自分から来るとはな。手間が省けた』
敵のリーダーが地面で煙草を消し、京介に歩み寄った。そして京介に殴りかかる。
パシィッ!
相手の拳を手で受け止めた。そして握った手に力を入れる。
『くっ…』
苦痛に顔が歪む。そして敵はもう片方の手で京介に殴りかかった。
パシ!
それも簡単に受け止められてしまう。そして再び力を入れた。
『ああ……ぁあああ』
京介が手を離した。敵は手を押さえ苦しんでいる。
そして京介は純也の隣に行き、頭を下げた。
「すまない」
敵のリーダーは一瞬何が起こっているのかわからない様子だった。
『へっ……最初からその態度で来いよな。ふざけやがって!』
そう言ってからまた京介に殴りかかった。
その瞬間――。
バシッ!
鈍い音が鳴った。敵リーダーが後ろに倒れこむ。
見事に京介のカウンターがヒットしていた。
『ぐはっ!』
倒れた男は頬を押さえながら叫ぶ。
『いいのか!? バスケが出来なくなるんだぞ!? それにあの女が…』
そう言って久留美の方を見た。
「やっほー」
そこにはいつの間にか優がいた。久留美を押さえていた人物が横で倒れている。優が久留美の横で呑気に手を振っていた。
京介は敵リーダーに歩み寄り胸ぐらを掴んだ。
「勘違いすんなよ。テメェみてぇなカスに頭を下げたんじゃねぇよ。」
そして掴んでいる手に力を入れる。
『ぐっ…』
「俺はこいつらのバスケ部どころか学校とも関係がねぇ。何が言いたいかわかるか?」
顔を近付けた。
「このくらいでカンベンしてやろうか? って言ってんだよ」
『へ…くだらねぇ』
敵リーダーは脅えながらもそう言った。京介は一度笑ってから掴んでいた手を離す。
「立て」
『ふざけやがって…』
京介にそう言われたリーダーは地面に手をつき立ち上がった。そして構える。
京介が笑いながら口を開いた。
「良いことを教えてやろうか。そこでテメェに土下座してるヤツな…。俺、ソイツに一回負けてんだ。」
このセリフが何を意味しているか。敵リーダーも少し考えただけで分かったらしい。
『ふ、ぶざけやがって!』
純也は声を会話を聞いているだけで、ずっと頭を下げ続けていた。京介の言葉の意味を理解していた純也は、更に深く頭を下げた。
敵リーダーが京介に跳びかかる。
勝負は一撃で終わった。
次の瞬間敵が宙を舞っていた。
そしてそのまま地面に倒れた。
『く……そっ…。俺には強いバックがいるんだ……。そろそろ来るはず…だ』
そのセリフと同時に京介の肩に手が置かれる。
殺気を感じた京介は素早く右下に避けた。拳が空を切る。
『お前か? 俺の可愛い弟をいじめているヤツは』
「強いバックってお兄さんかよ。だせぇ」
京介は苦笑いをする。次の瞬間――。
「ぐっ」
『っく…』
京介の顔に拳が振り下ろされる。それと同時に京介は反射的に膝蹴りを繰り出していた。
勝負は互角だった。優も信じられない、といった様子で喧嘩を見ていた。
その時、純也の声が響いた。
「あれ……? もしかして沖さん…?」
『ん?』
沖さん、と呼ばれた人物が喧嘩を止め、純也の方を見た。
「お……俺だよ! 純也だよ! なんか聞き覚えのある声だと思ったら…」
そして沖さんは頭を上げた純也に歩み寄った。
『純也……なのか?』
「久しぶり!」
『おお! 純也だ! でっかくなったなぁ!』
周りの人物がポカーンといった表情をしていた。
『そこにいるのは久留美ちゃんか? やっぱり綺麗になったなぁ』
「お…お久しぶりです」
久留美は軽く頭を下げた。沖さんは昔このコートに居た人物だった。顔は物凄い怖いが、とても優しい人物なのだ。
『んで、見たところ赤い髪のヤツは純也の知り合いみたいだが…』
倒れていた弟を見る。
『なぜイジメられているから助けて、と言われ来てみたが純也がボロボロになって土下座をしてるんだ?』
『い、いや……それは……』
そして久留美の近くまで行き、顔を見る。
『薄暗くて見えないが顔が腫れてる。久留美ちゃんは純也の彼女だ』
「ちっ、違いますよ!」
久留美が慌てた様子で言った。それを見て沖さんが笑った。
再び弟の近くに歩み寄った。そして胸ぐらを掴む。
『あそこにいる優ってヤツも女を殴ったりするヤツじゃない。本当の事を言った方が良いぞ?』
やがて弟の口から真実が語られたのだった。