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No.109 純也らしさ

そこは部屋中にアーティストのポスターが貼られていた。棚の上には70年の代洋楽やら現在にいたるまでのCDが詰め込まれていた。

物は沢山あるがしっかりと整頓されている部屋である。


その部屋の中心に優は居た。イヤホンを耳につけ、そこからアンプに繋がっている。

赤色の左利き用のストラトキャスターを持ち、ギターソロを弾いていた。

70年代らしさを感じさせる。

その絶妙なチョーキングは聞いている者を身震いさせる。


やがて演奏が終わりイヤホンから音が聞こえなくなる。


「ん?」


その時、初めて携帯が鳴っているのに気づいた。


「いつから鳴ってたんだよ…」


優はそう言ってから電話に出た。


「もしもーし」


走りながら電話をしているのだろう。息を荒くしながら相手は喋る。


「いきなりすまない。亮だ」


「ああ、亮くんか。どうしたんだい?」


「久留美ちゃんが怪しい集団に拉致られたらしい」


「な、なんだって?!」


優が部屋で跳び跳ねた。


「それを追い掛けて純也もどこかに行っちまった…。何か心当たりはないかな?」



優は考えた。怪しい集団と聞いて真っ先に思い浮かんだのは例の集団である。


「俺も探すよ。京介って知り合いがそこら辺詳しいから連絡取ってみる!」


「ありがとう!」


そう言って電話がきれた。優は外に出て、バイクにまたがると、京介の自宅へと急いだ。


――――――


――――


――



***



「ちっ…なんであのコートなんかに…」


純也は走っていた。そして商店街を抜けて裏路地へと入る。辺りは暗くなり、ほとんど人がいなかった。


壁に描かれたスプレーの落書きが奥に進むにつれて多くなってゆく。


そしてコートにたどり着いた。


「俺を呼び出すとはいい度胸じゃねぇか!」


そう言って顔を上げた。


目の前には十人と少しの人数。ストバスの時に見た集団だった。

 久留美が純也を見ていた。


「ジュン!」


純也は久留美に返事を返さずに集団の前に歩み寄る。


「お前らストバスの時の奴らだな。 一体なんのようだ?」


リーダーらしき人物が純也の前に立ち、話し始める。


「大会の時は色々と世話になったみたいだからな」



そしてニッコリと笑って話を続けた。


「そのお礼をしたくてな!」


そう言って純也のボディを殴った。不意をつかれて、純也の体が折れる。


「ぐっ…て、てめぇ」



純也が反撃をしようと上体を上げた瞬間――。


『キャア!』


久留美の叫び声が聞こえてくる。


「ちっ、きたねぇ…」


「わかってるな? お前が手を出したらあの女がどうなるかわからないぞ?」


そして怪しい集団が笑った。純也は二人の男に腕をおさえられている久留美を見た。


「ジュン…」


「どこ見てんだよ!」


ガスッ!


純也の頭が横に崩れる。 


『次は僕だよーん』


ふざけたように、そう言うとメンバーの一人が純也に飛び蹴りをかました。


倒れそうになる純也を起き上がらせ、腕を取って後ろから押さえ込んだ。


『ざまあみやがれ!』


そして純也の前に立ったメンバーが純也にボディをいれた。

リーダーらしき人物が煙草に火をつけその様子を見ながら言った。

 

『お前の高校、明後日から大事な試合らしいじゃん? そりゃあ反撃できねぇよな。ははは』

 

その言葉を聞いた純也は自分を後ろから押さえている人物の手を簡単にふりほどく。


「言いてぇことはそれだけか?」


そして腕の骨を鳴らしながらリーダーに向けて言い放った。


「なんか俺が好きでバスケ部にいるみてぇな言い方しやがって…」


――今日でやめてやるよ! 

 

そのセリフを言おうとした瞬間あるシーンが頭の中に思い浮かんだ。


純也が入院して自分が薫に言ったこと。


 そして、なんでもない毎日の練習風景。

 

 

――俺がもしここで暴れたら。


――俺だけならいい。


――アイツらはどうなる。


――マネージャー達も…。 

 

――久留美も…

 

「ちっ…」


純也は小さく舌打ちをすると、地面に座り、頭を下げて土下座をした。以前の純也なら先に手が出ていただろう。


「ジュ……ン…?」


久留美が何がなんだか分からない様子で純也を見ていた。


「すまなかった! どうかカンベンしてくれねぇかな…」

 

そう言って頭を地面につける。一瞬相手は静まりかえる。しかし、


「カンベンならねぇなぁ。こっちはどんだけやられたと思ってんだ?」


そう言って笑いながら純也の顔面を横から蹴る。横に倒れそうになるが再び頭を下げる。 

 

「すまない」


『ヒャハハハ、いきなり凄んだかと思えば土下座かよ』

 

『かっこいいねぇ』

 

 

――――――


――――


――




     ***



目の前でジュンが集団に頭を下げている。


どうして? ジュンが謝ることないのに。

大会の時だって相手からやってきたんじゃない。


『お前可愛いじゃん?』


『やべ、なんかムラムラしてきた』


『ばっかだなーお前。まぁ俺もだけどよ』


『ははははは』

 

悔しくて涙が出てくる。

腕をおさえられているから拭けない。


頬を伝わり地面に涙が落ちる。


 

 なんでジュンが…。



ジュンのこんな姿見たくないよ。

 

 ジュンは自分勝手に見えるけど本当は人想いで。

 いつも自信に満ち溢れた顔をしていて…。


いつもめんどくさい、と言いながら心配してくれる。


 ジュンを見ていた目線を地面に移した。涙がそのまま落ちてゆく。


 もういいから…ね?

 

我慢しなくても、いいよ?


私はどうなってもいいや。

だってそんなのジュンらしくないもん。



そう思って私は顔を上げた。覚悟を決めた言葉を言い放とうとした瞬間――。


『ったく…ハデにやってんなぁ』


コートの入り口から聞き覚えのある言葉が聞こえた。みんなの視線が一点に集中した。




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